トキの「復活」?
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トキの「復活」?
- 対象だけでなく環境も含めて -
動物と人間の関係を
200冊以上の引用文献を駆使し、
*ペット
*動物虐待
*屠畜と肉食
*動物実験
*動物の福祉・解放
などの視点から見つめ直している
生田武志 (著)
いのちへの礼儀
筑摩書房
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
から、その一節を紹介する2回目。
今日は、
トキの「復活」について触れたい。
(学名ニッポニア・ニッポン)は、
明治末以降、食用や羽根を取る乱獲で
1930年代までに
数十羽にまで減りました。
1952(昭和27)年にトキは
特別天然記念物に指定され、
佐渡や石川県で
禁猟区が設定されましたが、
おそらくは農薬散布による餌の減少、
開発による水田の減少などのため、
2003(平成15)年に絶滅しました。
学名が
Nipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)
というのは初めて知った。
すごい学名だ。
国鳥のキジの立場はどうなるのだろう?
は、よけいな心配か。
それはともかく、
日本種の絶滅に瀕して
中国からの輸入が始まっていた。
中国から贈られたトキ5羽を元に
人工繁殖させる試みが始まり、
2008年から佐渡で放鳥が始まり、
2019年には350羽が生息しています。
なお、中国のトキと日本のトキは
遺伝子の違いがごく僅かな同一種で、
「例えて言うなら、
日本人と中国人の違いみたいなもの」
(石居進『早稲田ウィークリー』919号)
とされています。
いわば、日本人が絶滅したので、
「同一種」である中国人を連れてきて
「復活」させたようなものです。
これを「復活」と
言っていいかどうかはともかく、
トキが生息するようになったのは
事実だ。
生態系の破壊を引き起こしたというより、
「日本には美しいトキがいてほしい」
という日本人の「願望」で
計画されたと言えます。
しかし、トキは1952年に
特別天然記念物に指定されて以来、
50年間保護されたにもかかわらず
絶滅しているので、
日本ではトキが生息しにくい環境が
広がっていると考えられます。
この指摘は、
すごく大事なことを含んでいると思う。
トキの保護政策や技術については
何も知らないので、
トキのことに関して
その是非を論じる力は一切ない。
ただ、
「50年も保護してきたのに
絶滅したということは
すでに環境のほうが
合わなくなっているのではないか」
の視点は、
トキの場合に限らず、
また生物の場合に限らず、
あるものの生存戦略を考える上で
大事な視点のひとつだろう。
特に、「願望」で無理やり
存続させようとするときって、
存続のために「対象への対応」ばかりに
議論が偏る傾向が強い気がする。
対象をどう保護するか、とか
対象をどう強くするか、とか。
地元では、かつての
トキが生息していたころの環境を
復活させる取り組みも
行われているらしいが、
そのような環境に無理やり
導入させられた中国産のトキは
「いい迷惑」かもしれません。
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