同日同時刻に生まれたら同じ運命?
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同日同時刻に生まれたら同じ運命?
- 新作狂言「信長占い」 -
和泉流の九世野村万蔵さんに
「新しい狂言を書いてくれませんか」と
依頼された磯田道史さんは、
「朝野雑載(ちょうやざっさい)」という
史料にある記述を元に
「信長占い」という新作狂言を書き上げた。
「信長」と「占い」。
読者の皆様にあっては
このふたつの単語は
どんなイメージでつながるであろうか。
下記の本を参照しながら、
信長に関するちょっと意外なエピソードを
紹介したい。
磯田道史 (著)
日本史の内幕
- 戦国女性の素顔から幕末・
近代の謎まで
中公新書
(以下水色部、本からの引用)
ここでの「占い」とはまさに「星占い」。
「星占い」と聞くと、
現代の我々でさえ
誰もが思い描くある疑問がある。
その疑問を、450年以上も前の信長も
同じように抱いていたようだ。
本当に星占いが正しいか、
生年月日が人間の運命を決めるものか
確かめようとした。
すなわち、配下に命じて、
自分と同年同月同日同刻に
生まれた者を探しだし
面会しようとした。
そんなくだらないことを
ほんとうに実現してしまうのだから
天下人とはおもしろい。
一人だけみつかったが、
それは極貧の者であった。
信長はこの極貧男にむかって
「天下人の自分とは大違いじゃの」
と馬鹿にした。
これに対して男はうまい返答する。
「信長様と自分は
たいして違いはない」と。
信長が「なぜじゃ」と、
怪訝な顔をすると、
極貧男は言った。
「信長様は今日一日、
天下人の楽しみのなかに生き、
私は今日一日、
極貧者の苦しみのなかに生きている。
それだけにすぎない。
これ、たった一日の違い。
おたがいに明日の運命は
知れぬ点では同じである」。
同時刻生まれの者との面会、
中国の皇帝もやっているという。
今から約650年前、
信長から見てもさらに200年以上も前。
明の太祖・朱元璋(しゅげんしょう)が
同じことをした逸話があるという。
朱元璋の場合は
見つけ出された同時刻生まれの者は
「蜜の籠を十三ほど持ち運んで
暮らしている蜜屋の男」であった。
朱元璋は、
自分と同時刻生まれの者の
身柄をおさえたものの、
こんな貧しい男が
皇帝にとって代わるはずがないと考え、
無罪放免したという。
皇帝と同時刻に生まれた、というだけで
もはや命がけ(!?)の緊張感がある。
磯田さんは、
信長のこのエピソードを上手に使って
かつ笑いの要素もちゃんと入れて、
新作狂言を仕上げたようだ。
2017年の夏、東京・国立能楽堂で
上演されたという。
それにしても
最初の極貧男のコメントはいい。
「信長様と自分は
たいして違いはない。
おたがいに明日の運命は
知れぬ点では同じである」
肩の力が抜けるではないか。
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