「ウィーン・モダン」展
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「ウィーン・モダン」展
- 作品とその時代を同時に体験 -
日本・オーストリア外交樹立150周年記念
ウィーン・モダン
クリムト、シーレ 世紀末への道
という企画展が、
東京六本木の国立新美術館で
開催されていた。
(2019年4月24日~8月5日)
工夫を凝らしたいい企画展だったため
本ブログで紹介できれば、
と思っていたのだが、
モタモタしているうちに気がつくと
閉幕日を過ぎてしまっていた。
ありゃ、ありゃ、これから書いても
単なる日記にしかならないか。
そう思っていたら、偶然
ラジオから
「8月末から大阪にて公開中」
なる情報が流れてきた。
慌てて調べてみると、東京に続いて
【大阪展】
2019年8月27日~12月8日
国立国際美術館
が開催されているらしい。
だったら、日記のようなメモでも
「これから行こうか?」と
迷っている人に
多少は参考になるかもしれない。
本企画展、
会場を事実上一方通行にすることで
18世紀から20世紀までのウィーンを
時間順に、文化とともに歩めるような
演出になっている。
単に絵画を並べた展覧会ではなく、
作品をその時代の社会的背景とともに
体験できる点に大きな特徴がある。
なお、大阪展は、
若干出展数が減ってしまっているようで、
「東京展と全く同じ」
というわけではないようだ。
本記事は、あくまでも
東京展を観ての感想なので、
その点はご承知おき下さい。
まず、全体構成。
(1)「啓蒙主義時代のウィーン」
(2)「ビーダーマイアー時代のウィーン」
(3)「リンク通りとウィーン」
(4)「1900年 ― 世紀末のウィーン」
の4部構成となっており、
時代の流れに沿って
各文化を楽しめるようになっている。
18世紀の女帝マリア・テレジアの
肖像画から展示は始まっているが、
マリア・テレジアの時代に始まった
啓蒙思想が
フランス革命 (1789-1799)
ウィーン会議 (1814-1815)
を通して
ビーダーマイアー時代へと
繋がっていく様子が前半。
(3)「リンク通りとウィーン」
のセクションでは、
ここに書いた話を
ショートフィルムも交えて
写真と絵画で
より詳しく知ることができる。
1857年に長い間ウィーンを囲っていた
市壁の取り壊しが決定。
その跡地がリンク通りとなり
沿道には国会議事堂、歌劇場など
特徴ある建物が次々と造られていく。
一気に都市部が広がり始めるウィーン。
ウィーン万国博覧会 (1873)
皇帝の銀婚式祝賀パレード (1879)
といった大きなイベントを
ハンス・マカルトをはじめ
多くの画家が作品に残している。
そういった、歴史の流れを
十分実感させた上で、
最後のセクション
(4)「1900年 ― 世紀末のウィーン」へと
繋がっていく。
19世紀末から20世紀にかけて、
都市機能がさらに充実していくウィーン。
鉄道を始め、都市デザインに貢献した
建築家オットー・ヴァーグナーの業績も
いくつもの模型を交えて展示してある。
ウィーン旅行記で記事にした
カールスプラッツ駅舎も彼の作品だ。
芸術の分野では、
画家グスタフ・クリムトらが中心となって
「ウィーン分離派」が結成される。
多くの絵画の展示がある中、
どういう理由かよくわからないが
クリムトが最愛の女性を描いたとされる
1902年の作品
「エミーリエ・フレーゲの肖像」
のみ写真撮影が許可されていた。
フレーゲの姉とクリムトの弟が
結婚したこと、
つまり義理の兄妹の関係になったことが
ふたりが知り合った
きっかけだったようだが、
ふたりは結婚はしなかったものの、
まさに死ぬまで生涯のパートナーとして
すごしたらしい。
とにかく色が美しく、
まさに本物を観る価値がある。
展覧会パンフレットの
裏表紙に使われている
エゴン・シーレ の「自画像」
は、ほぼ等身大の
「エミーリエ・フレーゲの肖像」
とは対照的に、30cm四方程度の
思ったより小さな作品だった。
エロティックなデッサンも含め、
多くの分離派の作品を堪能できる。
魅力的な絵画が並ぶ中
個人的に特に強く印象に残ったのは
ウィーン分離派が
分離派の展覧会のために作った
ポスター群だった。
展覧会ごとに
作家が順番に担当したらしいが、
どれも全体のデザインはもちろん
文字、つまり字体も美しく
一枚、一枚、実にユニーク。
新しいものを生み出していこうという
ある種の勢いみたいなものが
ヒシヒシと伝わってくる。
残念ながら写真は撮れなかったので
パンフレットの中の写真を
2枚だけ貼っておきたい。
ポスターなので
素材はもちろん紙なのだが、
どれも保存状態がよく
ほとんどシミがないのにも驚いた。
どうやって保存していたのだろう?
ここから42回にも渡って
旅行記を書き続けたように、
ウィーンは2年前の旅行で
個人的に満喫した都市のひとつだ。
なので、「行ったからこそ」、
「その後、詳しく調べたからこそ」、
楽しめた部分は確かにある。
一緒に行った妻も同意見だ。
しかし、仮にウィーンに
一度も行ったことがなかったとしても、
時代の流れを感じながら
作品を楽しむことは十分にできたと思う。
作品とその背景となる歴史や社会を
じょうずに結びつけた
工夫に満ちた展覧会だった。
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