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2016年10月30日 (日)

宇宙が音楽か、音楽が宇宙か

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宇宙が音楽か、音楽が宇宙か

- 音楽は世界の調和を語るもの -

 

前回
オーストラリアの先住民アポリジニの
「ソングライン」という言葉について
少し書いた。

その際、引用した一冊が

浦久俊彦 (著)
138億年の音楽史

講談社現代新書

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、水色部は本からの引用)

この本、世界中の音楽を
独自に選んだいくつかの観点から
大きく眺め直してみようという意欲作だ。

壮大なテーマを
小さな新書一冊に詰め込もうというのだから、
膨大な参考文献に支えられているとはいえ、
粗削りな面があることは否めない。

それでも、音楽を考える「視点」を
与えてくれている点は重要だ。

というわけで、その中から一部紹介したい。
(以下水色部、本からの引用)

東洋の音楽観に関する記述から。

漢字で書く「宇宙」の
「宇」は空間を、
「宙」は時間を
 意味している。

「宇宙」という語は、
中国の古典『淮南子(えなんじ)』の

「往古来今これを宙といい、
 四方上下これを宇という」(斉俗訓)

という部分に由来するといわれるが、
宇宙ということばには、
時間と空間という
ふたつの概念が含まれている

時間と空間、
それはまさに音楽と結びついている。

姿もかたちもない
音でできた音楽が、
人の心を震わせ、
目に見えるものを共鳴させる。

古代から人々は、この不思議な
音楽というもののなかに、
天と地と
人の生きる空間すべてを把握できる
鍵が隠されている
と考えた。

宇宙が音楽か、音楽が宇宙か。

宇宙そのものが
音楽であるという考えは、
東洋思想のなかにも深く浸透している。

 古代中国では、老子が、

人間の音楽を「人籟(じんらい)」、
自然の無数の音響が奏でる音楽を
地籟(ちらい)」、
天球の音楽を「天籟(てんらい)

と称し、
なかでも「天籟」を
最高の地位においたことや、
紀元前四世紀の思想書『荘子』には、
音楽は世界の調和を語るものである
という記述がある。

『詩』は人の心を語るもの、
 『書』は昔の事蹟を語るもの、
 『礼』は人の実践を語るもの、
 『楽』は世界の調和を語るもの


というくだりだ。
このなかの「楽」が、音楽である。

その「楽」を奏でる合奏団は、
古代においてすでに
数百人にも及ぶ巨大なものだった
可能性もあるという。

古代の神話的宇宙観の
音楽的な実践ともいえる
古代中国に実在した合奏団が、
古典雅楽というイメージで
想像されていたよりもはるかに壮大な、
じつに数百人に及ぶ演奏者による
巨大オーケストラ
だったことも、
近年の考古学的調査でわかってきた。

インドでも宇宙と音楽は結びついている。

インド音楽は旋律の音楽である。

西洋音楽のように
異なった音を同時に響かせるという
和音(ハーモニー)の発想はない。

と書くと、まるでインド音楽には
ハーモニーの概念がないと
思われるかもしれないが、
そうではない。

インドでは、
音楽は全宇宙のハーモニーの縮図
だと考えられているのだ。

ここでいうハーモニーとは、
和音というよりも調和を意味する


宇宙の縮図である人間は、
脈拍、心臓の鼓動、波動、
リズム、音調のなかに
和音や不協和音を表し、

健康、病気、喜びや苦痛は、
どれも生命における音楽や、
その欠如を示すという。

これが、
インド音楽の基本的な考え方である。

音楽は宇宙のハーモニーの縮図?

インドの音楽家
ハズラト・イナーヤト・ハーンいわく、

ふつう音楽と呼ばれているものは
あらゆるものごとの背後で動いている、
自然界の根源である宇宙の調和、
すなわち宇宙の音楽から、
知性がつかみとった
小さな縮図
にほかならない。

いつの時代の賢者も、
音楽を神聖なものと考えていたのは
そのためだ。

賢者は音楽のなかに
全宇宙の像を見ることができ、
音楽のなかに、全宇宙の働きの秘密を
明らかにすることができたという。

「宇宙の音楽から知性がつかみとった
 小さな縮図」

創造するとか、自己を表現するとか、
そういった創作としての作曲、
という考え方はそこにはまだ一切ない。

 

 

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