大隅良典氏 ノーベル賞!
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大隅良典氏 ノーベル賞!
- 6紙読み比べ -
スウェーデンのカロリンスカ研究所は、
2016年10月3日、
2016年のノーベル医学生理学賞を、
細胞が自分で自分のタンパク質を
分解してリサイクルする
「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明した
大隅良典(おおすみよしのり)
東京工業大学栄誉教授に送ると発表した。
うれしいニュースに、
毎日新聞は4000部の号外を発行した。
翌日(2016年10月4日)の
東京での主要6紙はご覧の通り。
全紙一面トップで取り上げている。
写真を撮った通り、6紙とも手元にあるので、
少し読み比べてみよう。
【授賞理由】
「オートファジー」の言葉ばかりが
ひとり歩きしているが、そもそも
カロリンスカ研究所はどんな理由で
授与すると言っているのだろうか?
こんなことは基本中の基本なので、
どこにでも書いてあるだろう、と思って読んでみたが、
意外にも記述は少ない。
読売新聞は、
「オートファジーのメカニズムの発見」
・・・・
カロリンスカ研究所は授賞理由で
「細胞がその中身を
どうリサイクルするかについて、
新しいパラダイム(枠組み)を導いた」
と評価した。
日本経済新聞は、
「オートファジーの仕組みの解明」
と説明した。
とさらりと触れているだけ。
東京新聞は、一面真ん中に、
「授賞理由」の枠まで設けている。
中の記述はこう。
「オートファジー」について、
酵母の一種を使って重要な遺伝子を発見、
その仕組み解明した。
またよく似た洗練された機構が
人の細胞にもあることも示し、
細胞のリサイクルについて
新たな理解をもたらした。
飢餓状態への適応や感染症への反応のような
多くの生理的過程で
オートファジーが重要であること、
その遺伝子変異は病気を引き起こし、
がんや神経疾患などに
関係していることが分かってきた。
なんだか理由なのか解説なのか
はっきりしない。
そんな中、そもそもの判断をした
カロリンスカ研究所の発表は、と
すっきりと載せてくれたのは、
産経新聞のみ。
スウェーデンのカロリンスカ研究所が
3日発表した大隅良典氏への授賞理由は次の通り。
◇
大隅氏の発見は、
細胞がどのように自身をリサイクルするのかを
理解するのに新しいバラダイムをもたらし、
飢餓への適応や感染への応答のような
生態学的プロセスにおけるオートファジーの
基本的な重要性の理解に道を開いた。
また、オートファジー遺伝子の変異は
疾患を引き起こす可能性があり、
オートファジーの機構はがんや神経疾患
を含むいくつかの条件に関与している。
なるほど。先の東京新聞の記述は、
産経新聞が載せているこの授賞理由を
わかりやすく書き直したつもりのものだったのだろう。
【発見の瞬間】
大隅さんが、光学顕微鏡を使って、
世界で初めて肉眼で「オートファジー」を確認した
まさにその発見の瞬間とその興奮は
どんな風に報じられているのだろう。
読売新聞
小さな粒状の物質が蓄積し、
盛んに動き回っている。
・・・
「オートファジー」を世界で初めて
光学顕微鏡で確認した瞬間だった。
・・・
大隅氏は、当時の興奮を
「思わず息をのんだ。
何時間も顕微鏡をのぞき続けた」と語る。
毎日新聞
激しく踊るように動いていた。
「きっと、とても大事なことではないか」。
その日は何時闇も顕微鏡をのぞき続けた。
オートファジーを世界で初めて肉眼で
観察した瞬間だった。
産経新聞
分子の不規則な衝突で起こるブラウン運動で
激しく動き回っていた。
大隅さんはその動きに感動し、
何時間も顕微鏡をのぞき続けた。
そして研究室を出て、
会う人ごとに
「とても面白いことを見つけた」と
熱弁をふるったという。
こうして、酵母が飢餓状態に置かれると
液胞に物質が取り込まれ、
分解される自食作用「オートファジー」を
世界で初めて確認できた。
妙に詳しく書いているのは、
朝日新聞
東京大教養学部の助教授になって2カ月余り。
できたばかりで学生がいない研究室で、
ひとり顕微鏡越しに酵母を見ていた。
たくさんの小さな粒が踊るように
跳びはねていた。
「何かすごい現象が起きているに違いない」。
細胞が不要なたんばく質を分解して再利用する
「オートファジー」にかかわる現象ではないか。
大隅さんが気づいた瞬間だった。
・・・
液胞のなかには、
いくつも分解酵素があるが、
当時はその役割は分かっていなかった。
通常、酵母は飢餓状態になると休眠状態に入る。
「液胞内部で酵素が何かを分解するとしたら
その直前だろう。
それを観察すれば、
仕組みが見えるんじゃないか」とひらめいた。
分解酵素があるとたんばく質が分解されてしまい、
現象を観察できない。
このため、分解酵素がない酵母を使って調べた。
顕微鏡をのぞくと、想像通り仕事を終えて
不要になったたんばく質がたまっているのが見えた。
これが「踊る粒」だった。
生命力にあふれる躍動は、
「何時間見続けても飽きなかった」。
大隅さんはその後、
電子顕微鏡でオートファジーが起こる過程を
目に見える形で記録することに、
世界で初めて成功。
【世界への広がり】
毎日新聞
遺伝子を比較することで
14種類の遺伝子が関わっていることを突き止め、
93年に論文発表した。
地道な研究が実を結んだこの論文は
オートファジー研究史上
最も価値ある論文として世界に認められている。
その後、
オートファジー遺伝子は酵母から哺乳類、
植物にまで保存されていることも
吉森氏ら教え子と明らかにし、
研究は一挙に世界中に拡大した。
遺伝子は現在18種類が見つかっている。
年間数十本だった関係論文は
今では年間5000本にまで急増し、
生命科学分野でも最も進展が著しい
研究領域となっている。
「だれもやっていなかった」研究が、
まさに世界中に広がっていく過程は、
論文数のグラフが一番わかりやすい。
論文数が増えたことは、各紙述べているが、
グラフを載せてその推移を見せてくれたのは
「毎日」と「産経」の二紙のみ。
毎日新聞
産経新聞
読売新聞で
「自分が先端で研究している分野が、
どんどん大きくなるのを見せてもらった。・・」
と語っているが、このグラフを見ていると、
その渦中にいた研究者の興奮が伝わってくる。
大隅さんは記者会見で、
「基礎研究を見守ってくれる社会になってほしい」
と強く語った。
東京新聞
受賞決定の喜びと研究への思いを語った。
・・・
「今、科学が役に立つというのが
数年後に企業化できることと
同義語になっているのは問題。
役に立つという言葉が
とっても社会を駄目にしている。
実際、役に立つのは
十年後、百年後かもしれない」。
基礎研究への情熱をにじませた。
ノーベル賞、ほんとうにおめでとうございます。
記者会見での言葉が、
より多くの人に、
より多くの人の心に届きますように。
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はまの音さん、こんばんは。
大隅良典氏のノーベル賞受賞、心より祝福したいと思います。特に今回単独の受賞ですので、この分野での道を切り開いたことが受賞の理由でしょうね。
私自身も5〜6年基礎研究をしていた時期があるのですが、日本の基礎研究は予算、設備とも恵まれていません。その中で受賞者が出ているのは日本人の真面目さが大きな要因だと思っています。
ノーベル受賞者が出ると、首相以下色々な政治家もしゃしゃり出て、如何にも自分の功績のように話をする方が多いのには嫌気が差します。今の日本は次第に結果に直結知るような研究にしか予算が通らなくなっていますし、軍事転換できる研究には多くの予算が投入出来るようになっています。
研究者が「面白い、不思議だ」と考える研究を長いスパンでやれる環境をつくっていって欲しいと願います。そうでないと後10年すると日本人のノーベル賞受賞者は極端に減ってしまうのではないかと危惧しています。
投稿: omoromachi | 2016年10月11日 (火) 00時05分
omoromachiさん、コメントをありがとうございます。
>研究者が「面白い、不思議だ」と考える研究を
>長いスパンでやれる環境をつくっていって欲しいと願います。
わたしもほんとうにそう思います。
短期的な効果や、儲かるか、ばかりが成果のように扱われては、
基礎研究をやろうとする若者がいなくなってしまいますから。
「基礎研究を見守ってくれる社会」
経済的な支援とともに、
その継続には価値観の支えが必要ですから、
教育が果たす役割は大きいと思っています。
投稿: はま | 2016年10月16日 (日) 16時19分