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2016年6月 5日 (日)

「政府」だけでは国にならない

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国境線の持つ意味

- 国の境になるべきものは -

 

前回に引続き、
4月から放送中のNHKカルチャーラジオ
歴史再発見
「アフリカは今 カオスと希望と」

のテキストを中心にアフリカの歴史と今を
もう少し見てみたい。

講師はジャーナリスト松本仁一さん。

NHKカルチャーラジオ 歴史再発見
アフリカは今 カオスと希望と

NHK出版

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、水色部は本からの引用)

繰り返しになってしまうが、
前の回、最後の部分から始めたい。

【原住民の部族を無視した国境】

国境線はあるところでは
一つの部族の
居住地区の真ん中を突っ切り

二つの国に分断した。

勝手な国境線はまた、
利害の相反する複数の部族を
一つの国の中

取り込むことになった。

一部族の強制的な分断と、
複数部族の強制的な一国化。
これではひとつの国として、
まとまるはずがない。

しかも、
列強の植民地が並んでいたアフリカは、
再立国のまたとない機会
「独立」に際しても、
部族を無視した国境線を
そのまま維持してしまった。

 

【ナイジェリアの例】

たとえばナイジェリアだ。

英国領のナイジェリアは、
北部イスラム系住民と、
南部キリスト教系住民を
囲い込んだ植民地だった。

独立に際して英国は、
その異なる文化の地域を
分けることなく、
ひとつの国境のままで独立させた


分離すると、
北に接するフランス植民地に
とられてしまうかもしれないと
危惧したためで、
植民地を独立させた後も
影響力を残しておきたいという
計算からだった。

当然のように
内部紛争にもとづく
戦争(ビアフラ戦争)が勃発。

現在も北部住民と南部住民の間には
深い溝が残り、
国家的統合は進まない

もちろんナイジェリアだけではない。

 

【モノモタパ王国も】

1000年の栄華を誇った
モノモタパ王国はどうなったか


(中略)

1923年、
モノモタパのあった南部と、
別な部族の住む北部をひっくるめて
英領ローデシアとなる。

1980年にローデシアは独立し、
ジンバブエとなったが、
国境は英領時代のままだった。

モノモタパ系の住民は人口の二割。
北部住民は七割。
それが一つの国境線でくくられた


北部の代表者がつねに選挙で勝利し、
自派だけに利益を誘導した。

政治は腐敗し、産業が崩壊した。
インフレ率が数兆パーセントという
破滅的な状況に落ち込み、
国家は崩壊してしまった

「勝利が確定している」ことによる
恒常化した利益誘導。
腐敗は止められないものなのだろうか。

 

【植民地支配、そして独立】

アフリカ各地に
自然発生的に生まれた国家は、
武力を背景にした
西欧帝国主義のためにつぶされた。

それから数百年して
独立は達成された
が、
植民地勢力が
勝手に引いた国境線
囲まれた国々は、
かつての王国とは
似ても似つかぬものだった。

植民地支配からの独立における問題点。
もちろんそれは、国境線だけではない。

こんな例もある。

英国の慈善団体が「善意の行為」として
英国の奴隷を解放し、アフリカに返す、
というアクションを取った。

解放奴隷が住みついた町が、
(シエラレオネの)フリータウン。

【シエラレオネの内部差別】

シエラレオネは1961年に独立する。
しかし近代型の国家を
作り上げることができなかった


移住した英国系黒人が
先住の現地黒人を差別支配したからだ。

黒人による黒人差別だった。
国民同士が対立し、
同じ国民としての一体感が欠けたまま、
「政府」と「国家」だけができる。

奴隷とはいえ、英国で育った人たちは、
読み書きや車の運転などの技術を
身につけており、
アフリカの先住民より
かなり優位な立場にあったようだ。

しかも、アフリカに返されたとはいえ、
解放奴隷にとって、フリータウンは
生まれた町でも育った町でもない。

そのうえ、シエラレオネには、
巨大なダイヤ利権がある。

結局、権力者は、その利益を私物化し
一族で山分けすることに走ってしまった。
国造りではなく、
ダイヤ利権の奪い合いが、
独立後の歴史になってしまっている。

* 元から住む部族を無視した国境線
  それによって引き起こされる
  部族間の対立
* 解放奴隷による先住民の差別
* 権力者による利権の私物化

講師松本さんの話に驚きながら、
3回に分けて見てきた
これらの問題点の他にも
よく報道されているように、
貧困、差別、飢餓、
警察をはじめとする
国家機能の正常化、などなど
アフリカには問題が山積みだ。

「独立だ!」と言って
「政府」だけを作っても、
ひとつの国にはならない。

 

 

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