「もの食う人びと」
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「もの食う人びと」
- 「売り切れ」程度は我慢しよう -
産業廃棄物処理業者に
廃棄を委託したビーフカツが、
大量に横流しされ、販売されていた事件。
2016年1月16日の朝日新聞によると、
廃棄を委託したのは、
「カツ60万枚を含む
計6品目の冷凍食材」という。
カレーチェーン店のビーフカツから
発覚した今回の事件、
その後、スーパーやコンビニの廃棄食品も
転売ルートに乗っていたことが
明らかになったが、販売された総量は
まだわかっていないようだ。
それにしても、
カツ60万枚だけでも凄まじい量だ。
この記事を読んでいたら、
辺見庸 (著)
もの食う人びと
角川文庫
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
を思い出した。ちょっと紹介したい。
この本は、辺見さんが世界中を歩きまわって、
現地で現地のものを食べてみた、という
食のルポルタージュ。
ただ、食のルポではあるが、
訪問先は紛争地帯、飢餓地帯が多く
グルメとはほど遠い話ばかり。
その一つが、インドのお隣、
バングラデシュでのエピソード。
(以下水色部、本からの引用)
高いほうを私は頼んだ。
バングラデシュでの最初の食事である。
それにふさわしく、ここでの習慣に従い、
右手の指だけ使って食べてみよう。
慣れると、舌だけでなく
指もまた味を感じるというではないか。
そうなりたいものだと、
小皿のご飯におずおずと指を当てると、
おや、ひんやりと冷たい。
安いのだから文句は言えない。
親指、人さし指、中指、
それに薬指まで動員しても、
下手なものだから
ボロボロとみっともなく
ご飯粒をこぼしてしまう。
それでもなんとかご飯をほおばった。
希少動物の食事でも観察するように、
店の娘と野次馬が私の指と口の動きに
目を凝らしている。
インディカ米にしては腰がない。
チリリと舌先が酸っぱい。水っぽい。
それでも噛むほどに甘くなってきた。
お米文化はやっぱりいい、と
うなずきつつ、二口、三口。
次に骨つき肉を口に運ぼうとした。
すると突然「ストップ!」という叫び。
どうして突然制止させられたのだろう?
たどたどしい英語が続いた。
よく見れば肉にはたしかに
他人の歯形もある。
ご飯もだれかの右手で
すでに押ししごかれたものらしい。
線香は、腐敗臭消しだったのだ。
うっとうなって、皿を私は放りだした。
途端、
ビーフジャーキーみたいに細い腕が
ニュッと横から伸びてきて、
皿を奪い取っていった。
十歳ほどの少年だ。
ふり向いた時には、クワッと開いた口が
骨つき肉に噛みついていて、
もう脇目もふらないのだった。
忠告の主は、モハメド・サムスと名乗る
タカのような目の男だった。
三十歳。ホテル従業員だったが、
いまは失業中だという。
歩きながらモハメドは言った。
「ダッカには
金持ちが残した食事の市場がある。
残飯市場だ。
卸売り、小売りもしている」
口に酸っぱい液がどくどく湧いてきて、
私はしきりに唾(つば)を吐いた。
残飯市場があり、まさに正々堂々と
卸売りも小売りもしているらしい。
一日の食事量に匹敵する残飯が
無感動に
捨てられているというではないか。
ダッカでは
残飯が人間の食料として売られていた。
神をも恐れぬ贅沢の果てに、
彼我のありようが
いつか逆転しはしないか。
東京で残飯を食らう日……。
(中略)
金曜日の夜。私とモハメドは都心の
「ダッカ・レディーズ・クラブ」
という建物の
前の木立の陰に隠れていた。
なかから笑いさんざめきが聞こえる。
結婚披露宴なのだ。
喧噪(けんそう)が収まった。
やがて建物の裏手にウエーターが
食べ残しを載せたままの机を運んできた。
そこにビニール袋を手にした
サリーの女たち五人が
どこからか影のように近づいた。
そして膨れた袋を提げ、一列になり、
皆なぜか猫背にして、
しずしずと闇に消えていった。
モハメドがささやく。
「木曜と金曜が、
残飯の主な出荷日なんだ。
イスラム教徒がこの両日に
結婚式をするのを好むからさ」
披露宴の食べ残しが
商品化するわけである。
富者のハレ(祭礼、儀式)の日はまた、
貧者にとって
食の流通の時でもあるのだ。
残飯市場に、独特な拒否感というか、
違和感があるのはどうしてなのだろう。
衛生上の問題だけではないような気がする。
実際問題として、
食べても「健康上」問題のないものも
多いと思うのだが、何かが許せない。
越えてはいけないものを越えているような、
というべきか。
いったいそれは何なのだろう?
廃棄される食品が大量にある一方で、
食べられない人もいる。
廃棄物の転売は、もちろん問題で、
「廃棄物を砕くなどして
転売できないようにする」
と委託した業者はコメントしたりしているが、
根本的に手を打たなければならないのは、
転売できないようにすることではなく
食品廃棄物自体を
もっと減らす工夫の方だろう。
* 廃棄物を出さない適切な量の製造
* 作ったものが「ゴミ」にならない
流通のしくみ
* 「売り切れ」程度はガマンする
消費者の意識
工夫・改善の余地はまだまだある領域だ。
特に消費者の一人としては、
「他に食べるものがないわけじゃぁない。
品切れ、売り切れ程度は我慢しようよ」
の意識を広げられないものかなぁ、と
強く思っている。
「品切れ、売り切れは絶対にダメ」
の大前提に縛られたままだと、
いつまでたっても
「余分に作る」の発想から
脱却できないだろうから。
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