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2014年11月29日 (土)

サヴォア邸をめざして

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サヴォア邸をめざして

- ボンボン? -

 

今回のフランス出張、
帰国便が夜発だったので、
最終日の日中のみが自由時間となった。

一緒に出張した仲間が
オルセー美術館等パリの中心部に向かう中、
私はひとり、まったく逆方向、
RERという高速郊外鉄道で
パリ郊外のポワシーという駅を目指すことにした。

行きたかったのは、
Villa Savoye(ヴィラ・サヴォア、サヴォア邸)
名前の通り、サヴォアさんの家、たった一軒の家だ。

一軒の家をわざわざ見に? 
はい。

この家、建築の世界では、
知る人ぞ知る、の作品なのだが、
初めて聞いた、という方もいらっしゃることだろう。
簡単に説明しておきたい。

 

近代建築の三大巨匠と言えば、
 フランク・ロイド・ライト
 ミース・ファン・デル・ローエ
 ル・コルビュジエ
の三人を挙げることが多い。

サヴォア邸は、この三大巨匠のひとり
ル・コルビュジエが設計したものだ。

ル・コルビュジエは、1887年スイスで生まれ
フランスで活躍した。
フランスにある「ロンシャンの礼拝堂」などで
よく知られている。

そのル・コルビュジエが
ピエール・サヴォア夫妻の依頼により建てた別荘が
サヴォア邸。
完成は1931年。いまから80年以上も前の話だ。

この家が建築関係の本に登場するときは
「20世紀の住宅の最高作品の一つ」
と紹介されていることが多い。

今回撮った写真を一枚先行して添付するとコレ。

Img_9618s

いかが?
「20世紀の住宅の最高作品の一つ」と思えます?

少なくとも建築素人の私には
写真等で観る限りとてもそのようには思えない。

一方で「建築は写真ではわからない」を
これまでイヤというほど味わってきたので、
「実物を見たら違うのかも」とも思っていた。

というわけで、
どうしても実物を観て、どこがどういいのかを
自分の目で確かめてみたかったのだ。


(個人宅を見学という意味では、
 上の三大巨匠のひとりフランク・ロイド・ライトの
 自宅兼スタジオを、
 米国シカゴ郊外オークパークで観たときの衝撃を
 いつか書きたいと思っているのだが...)

 

さて、まずはサヴォア邸の最寄駅ポワシーまで行こう。
ホテルの最寄り駅からスタート。
乗換えの新凱旋門(La Defense)駅まではすぐだ。

Img_9592s

新凱旋門(La Defense)で高速郊外鉄道(RER A線)に乗り換える。
大きくてきれいな駅だった。

Img_9595s

Img_9596s

 

目的のA線は先で枝分かれしており、
行き先がいくつかあるのだが、この駅ではこのように、
ホームを見上げると
入ってくる電車がこの先どの駅に停まるのかが、
ひと目でわかるようになっている。

Img_9594s

実にわかりやすくて旅行者にも親切だ。

 

ところが、私が乗ろうと待っていると、
運悪くダイヤが乱れるような
小さなトラブルがあった。

表示されている時間になっても電車が入ってこない。

しばらく待っていると、隣のホームに電車が入ってきた。
一緒に待っていた人が
「ポワシーに行きたいンじゃないの?」
という感じで
「ポワシー?」と聞いてきた。

「ウィ」と答えると
「だったら電車はあっちだ」と隣のホームを指している。
隣のホームの行き先板にはなにも表示されていない。
でも電車に乗り込むと、
電車の中の表示は確かにポワシーになっている。

電車の中の表示が、停まっているホームではなく、
隣のホームの行き先板と一致しているという事態。
どっちを信じればいいのだ?
(さすがに車内ととなりのホームの掲示板では
 ピントが合わないが、ズレた事態を記念に一枚)

Img_9598s

まぁ、この状況なら電車を信じるべきだろう。
というわけで乗って待っていることにした。
フランス人も乗り込もうとするたびに確認しあっている。

しばらく停車していたが、ようやく動き出した。
最初のうちは、どこにどう向かっているのか要注意だ。
言葉がわからない海外で、知らない路線の電車やバスに
初めて乗るときの独特な緊張感。
悪くない。

地下を抜けて地上に出ると、
あっという間に都会的なパリ市街地の様子は消え去り、
自然豊かな田舎の景色になっていった。
景色を楽しんでいるうちに無事終点ポワシーに到着。
2階建ての重くて丈夫そうな車両から降りる。

Img_9769s

 

駅前の地図でサヴォア邸までの道を確認。
現地の地図は
わかりやすかったり、わかりにくかったり、
国や地方によってほんとうに様々だが、
現地で現地の地図を見るのは大好きだ。
Google Mapだけが地図じゃない。

Img_9601s

最近はスマホでなんでもできるので、
迷うことがめっきり少なくなっているが、
古い、アナログ人間の私は、
方角等、大枠だけを頭に入れたら、あとはハナをたよりに、
あれこれ考えながらウロウロするのが結構好きだ。

そもそも、特に初めての街や村は、
言ってみればどこを歩いたって楽しいし。

駅前にだけ小さな商店街が広がっている。

Img_9766s

というわけで、以降は記憶の地図とハナだけをたよりに
サヴォア邸を目指してブラブラと歩くことにした。

途中、大きな教会がある。

Img_9604s Img_9764s

緩やかな坂を登っていく。

Img_9760s

帰りの便は夜なので時間はある。
最短かつ、わかりやすい道を選ばなくてもいいという
時間的、精神的余裕があるときの街歩きはほんとうに楽しい。

Img_9754s

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歴史を感じさせる建物と石畳の道

Img_9749s

Img_9746s

こういった構えが住宅街の中にまだ何箇所も残っている。

Img_9744s Img_9747s

 

気分にまかせてキョロキョロしながら適当に歩いていたら、
案の定、道に迷ってしまった。

歩くのは楽しいが、途中
「このままじゃ辿り着けないかも」
の気配が突然すーっと背中を駆け上ってくる瞬間がある。
その気配はたいていの場合正しい。

 

Img_9758s

さて、どうしたものか。
携帯には頼らない、となればもう聞くしかない。

ひとりで歩いている50代と思われる女性に
歩いている方向を指し
「ヴィラ・サヴォア?」
と聞いてみた。

Img_9606s

真っ昼間、なぜか片手に古い懐中電灯を持っていた彼女は、
「違う違う」と大きく手を振った。

「ここからどうやって行ったら?」
と英語で聞いてみたが全く通じない。

彼女もどう教えたらいいのか迷っているようだった。
「ひとつ交差点を戻りそこを右」みたいに
簡単に教えられないようだ。

Img_9741s

「うーーん」と声を出して考えていた彼女は、
決意したように
「わたしについて来い!」という仕草をした。

えっ!、そこまでしてくれなくても。

戸惑う私をグイグイと引っ張るように歩き出した。
そんなに遠いところにいるとは思えないのだが、
何分かかるのかはさっぱりわからない。
英語で聞いても全く通じない。

まぁ、いいや。
こうなったら連れて行ってもらおう。

追いかけて横に並ぶと、
「ジャポネ?」とか聞いてくる。
「ウィ」

Img_9743s

彼女はフランス語のみ。
私はカタコト英語と日本語。
全く会話が成り立たないのに、
並んで歩きだしたら、
彼女、ペラペラとフランス語で一方的に話を始めた。

小さいころスペインからフランスにやってきた。
それ以降私はフランスから出たことはない。
このあたりの住宅地は街がきれいで私は大好きだ。
(片手に持っていた古い懐中電灯を見せて)
なのに歩いていたら、道にこんなものが捨ててあった。
街が汚れるようなこんな行為は大嫌いだ。
「だから拾ってきちゃったわよ」

エスパーニュぐらいしか聞き取れていないので、
身振り手振りと語調だけから感じとった全部私の想像で、
なにひとつ合っていないかもしれない。
でも最後の
「だから拾ってきちゃったわよ」
の語調はこの日本語の語感にピッタリで、
そう言っているようにしか思えなかった。
もちろん全くウラは取れないが。

歩いている途中、大きなゴミ箱の横を通ったら、
片手に持っていた古い懐中電灯を
彼女は勢いよくその中に捨てた。

懐中電灯の理解は、おそらく間違っていなかったンだ。

 

数分歩いたら、いかにもの塀が見えてきた。

Img_9736s

「あそこだ」と指差すように彼女が腕をあげた。

「ありがとう。メルシーボクー」
私の「メルシー」を聞いて、
私以上にうれしそうな顔をしている。
まさに満面の笑み。

なにかお礼をしたいと思ったが、
街歩き用の小さなバッグには、
財布とカメラと電車の路線図くらいしか入っていない。

そうだ、飛行機やホテルでの乾燥対策に持っていた
個装された「のど飴」がある。
バッグの小さなポケットから「のど飴」を取り出し、
「日本のキャンディですがお礼に」と
伝わらない英語を添えて差し出した。

ちょっと驚いたような顔になった彼女は、
興味深そうに小袋をつまみ上げて、
「ボンボン?」と言った。

「ウイスキーボンボン」の「ボンボン」?
お菓子関連の言葉に違いないと思ったので
「ウィ」と返事。

数個の飴を両手で大事そうに包み込んで、
妙に喜んで受け取ってくれた。
笑顔がほんとに魅力的だったので、
調子づいて「写真を撮らせて」と言ったら
「それだけは勘弁」と言うように、
大きく両手を振った。

内容を理解した
言葉による会話はひと言も成立していないのに
ほんとうにいい時間だった。

Img_9737s

最後に聞いたフランス語の
「ボンボン」の響きがなんとも優しい。

別れた私は、思わずひとりで
「ボンボン」と口ずさみながら、
サヴォア邸の入り口を目指した。

 

と、例によって思いのほか
サヴォア邸到着までが長くなってしまった。
入り口をくぐってからの話は次回に。

 

 

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コメント

ステキなお話ですね
こんな出会いこそが旅の醍醐味。
つくづく、コミュニケーションは「心」なんですねぇ
などと言いましても、私など小心者ですので、知らない土地を一人歩きする度胸もないのですけれども…

そういえば、フランス語の響きは秋田弁に似ていると聞いたことがあります。
拾ってきちゃったわよ は、そんな感じでした?
それとはちょっと違いますよね(笑)

続きのお話も楽しみにしています。

さぼてんの花さん、

コメントをありがとうございます。
知らない土地での人のやさしさはほんとうに沁みますね。

彼女の一方的なお喋りの内容は、
全部私の想像の世界での理解なのに、古い懐中電灯が、
その理解の正しさを証明してくれる脇役のように
一瞬振る舞ってくれたことも、妙に印象に残りました。

もちろん、最後の「ボンボン」の響きのここちよさこそが
なによりもうれしかったのですが。

フランスでの話、もう少し続けますのでお付き合い下さい。

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