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2014年7月 5日 (土)

「優しい」は優しい言葉?

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「優しい」は優しい言葉?

- 実生活で、ドラマの世界で -

 

A君って
『いい人』は『いい人』なんだけど、
つまりは
どうでもいい人』なんだよね。


こんな女子高生グループの会話を
電車の中で聞いたのは
何年前のことだったか。

この言葉を聞いて以来、
「いい人」と聞くたびに
同時に「どうでもいい人」が
思い浮かんでしまう。
この刷り込み、誰か消去してくれぇ。

そう言えば、脚本家の内館牧子さんが、

内館牧子 (著)
女は三角 男は四角

小学館文庫

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに)

というエッセイ集の中で
こんなことを書いていた。
以下水色部は「ほめ言葉」という
一篇からの抜粋。

たとえばある女がいて、
自分の夫なり恋人なりを
女友達に紹介したとする。
こういう時、女友達というものは
何とかほめなければと思うものだ。

その夫なり恋人なりが
ちょっと席を外した時に、

「すてきな人ね。
 ハンサムだし話は面白いし、
 羨ましいわ」
と言ったりする。

が、中には
何ともほめようのない
男だったりする場合もある

ものなのだ。


とにかく、ほめ言葉を探す、探す、探す。

それでも女というものは
思いやりがあって、
友達を傷つけたくないので
(ホントである)、
瞬時にしてほめ言葉をさがす。

「ワァ、彫りが深い顔だちねえ」
「脚が長いのねえ」
「頭よさそ!」

が、中には彫りはほとんどなく、
脚も短く、頭も悪そ!な
男の場合もある。

それでも女はめげない。

彫りがなければ、服をほめる。
「いいファッションセンス
 してるわねえ」

脚が短ければ、逆手に取る。
「山男みたいに逞(たくま)しいわァ」



それでも、
どうしてもほめようがないときは…

実はそういう時、
女たちには取っておきの言葉がある。

この言葉は脚が短かろうが、
頭が悪そうであろうが、
ファッションセンスが
ハチャメチヤであろうが、
まったく問題ない。

どんな男にもピタリとハマる
ほめ言葉があるのだ。

「優しそうな人ね」

これである。

もしも、これを読んでいる男性読者が、
妻か恋人から、
「友達があなたのこと、
 優しそうな人ねって言ってたわ」
 と伝えられたら、
それは「ほめようのない男」
ということに等しい


なんということか。

「国家の品格」の藤原正彦さんも
ショックを受けている。

藤原正彦 (著)
決定版 この国のけじめ

文春文庫

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、薄茶部は本からの引用)

・・・結婚以来二十数年、
私に会った女房の友達のほとんどが
「優しそうな人ね」と後日女房に伝えた。

私は
「そうか、やっぱり
 隠しきれなかったんだ、ボク」
などと喜んでいた。

ところが、内館さんの
『女は三角 男は四角』という
数学的な題の本にはこう書いてある。

「女たちにはとっておきの言葉がある。
 ・・(中略)・・
 『友達があなたのこと、
  優しそうな人ねって言っていたわ』
 と伝えられたら、それは
 『ほめようのない男』
 ということに等しい」

ウルサーイッ。



男性諸氏よ、
「優しそうな人ね」と言われて
喜んではいけないのだ。

実生活では、
褒め言葉云々で笑っていられるが、
小説やドラマの世界では、
実はもっともっと過激な、怖い言葉として
「優しい」が使われることが多い気がする。

特に女性が「優しい」を口にするとき、
そこにはたいていふたつの「怖さ」がある。

ひとつは、優しさ自体が持っている
ある種の「残酷さ」を
浮き彫りにしてくる怖さ、
そしてもうひとつは、ことの真理を
女性が「見抜いてしまっている」ことを
突きつけてくる怖さ。

語自体が持つ「優しさ」と
ギャップがあるがゆえに
物語にしやすい言葉なのかもしれない。

今放送中の、
NHKの朝のドラマ「花子とアン」
(脚本:中園ミホ)

第80回(7月1日放送)にも
こんなセリフがあった。

 夫の心の中に
 別な女性の存在を感じてしまった
 長期入院中の妻。
 足繁く見舞う夫に感心して
 看護婦が言う。

看護婦
 「毎日のようにお見舞いにいらして
  優しいご主人ですね」


 「ええ。優しいンです。
   ・・・優しすぎるの」

 

BSプレミアムで放送中の
ドラマ「プラトニック」(脚本:野島伸司)
第4回(6月15日放送)にも。

 長く続いていた関係に、
 一方的なやり方で、
 急に別れを告げられてしまった
 料理屋の女将。
 相手の男性が去ったあと、
 その強引なやり方に立ち会った
 別の男性にこうつぶやく。

 「頭のいい男の人はみんなそう。
  優しくて、卑怯なの」



そこにあるのは、「優しい」という
言葉が持つ怖さではなく、
女性自身が持つ怖さなのかもしれないが。

 

 

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コメント

なんだか私、「優しい」って言葉を使うのがこわくなってしまいました~(笑)
確かに今まで、何気なく使っていましたが、優しさというのは実は奥深いものですよね。
〝あれは本当の優しさだった”
なんて言い方がありますけど、優しさってあるんですよ。本当とか、見せかけとか!!
優しく見える行動や態度が実は人を傷つけていたり。
なんて冷たい!と思った人の心の中に、実は優しさがあふれていたり。
初対面でわけもなく優しい人とか、どこか信用できませんし!
あ、話が変な方向に… 失礼しました

でも、よそのご夫婦やカップルを見ていて、「優しいのね~」と微笑ましくなる男性も、本当にいるのですよ~
きっとそれは、「だれにでも優しい」のと違って、その方の奥さまや彼女さんに対する嘘のない愛情が感じ取れるから なんだと思います。

さぼてんの花さん、コメントをありがとうございます。

>「優しいのね~」と微笑ましくなる男性も、本当にいるのですよ~
女性にそう言っていただけるとホッとします。
「ほめようのない男」では、あまりにもですから。

ただ、優しさに残酷な面があることは、
実生活でもときどき思います。

でも、だからダメなのではなくて、そういう面にどう対応するか、が
まさにその人ならではの「優しさ」なんですよね。

「正しい」解が存在するかどうかすらわからないところにこそ、
その人の味がでてくる気がします。

チョッと強烈な「優しさ」の捉え方ですね。
読みながら、人間の奥に潜む怖さが見えて来て・・段々怖くなるような感じがしました。

でも、それを判っていながら「優しさを」追い求める部分もまだ残っていて、救われる気がします。

人間はいつでも両面性を持っていて「優しさ」の裏側まで想像してしまうかも知れません。それがあるから一方向だけに流れずに済んでいるかも知れないと勝手に解釈しています。

私も「優しい」と言われたことがあったような・・・・そうだったのですね「褒めることがなかったのかと」・・・・・悲しいので素直に「優しいことをしたのかも」と思っておきます(自己防衛てきにね・・)。

omoromachiさん、コメントをありがとうございます。

>悲しいので素直に「優しいことをしたのかも」と思っておきます
「omoromachiさんなら、優しいことをしたに違いない」と
疑う人はいませんから。

「優しい」に限らず
>人間はいつでも両面性を持っていて
それをomoromachiさんのようにポジティブに捉えられれば、
なにも気にする必要はないのかもしれません。

表面だけを見て、一方的に決めつけてしまうような
性急な狭い視野にだけは気をつけたいといつも思っています。

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