信号機と紅緑灯
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信号機と紅緑灯
- 「機能」か「五感」か。 -
亜細亜大学教授の張美玉さんが「正論」1995年4月号に寄せていた
「漢語の狭間」というエッセイ。
日本人と中国人の発想の違いをおもしろい例をあげて紹介していた。
(以下水色部引用)
エッセイは、張さんが留学で日本に来たころの話から始まっている。
留学した初めの年を振り返ってみると、私が最もよく使った言葉は、
多分、「漢字を書いて下さい」という一言だった-と今にして思う。
漢字を書いてもらうことや漢字を書いて見せることは、
おそらく、滞日期間がまだ短い中国系留学生にとって、
コミュニケーションをスムーズにする一番有効な方法に違いないだろう。
しかし、そうは言っても、漢字さまさまと文句無しに讃えるわけにはいかない。
場合によっては、日本の漢語に翻弄されることも時々あるからだ。
中国語で「暗算」とは騙し討ちやこっそり狙うことなどを意味するため、
日本人に「私は暗算が得意」と言われて驚いた、という話やら、
中国語で雀を意味する「麻雀」の看板を見て、バード・ペット・ショップと勘違いし、
愛鳥家の多い国だなあ、と感動したエピソードなどが続いている。
(ちなみに中国語で暗算は「心算」、麻雀は「麻将」と言うらしい)
日本語と中国語の漢語の違いは、「手紙」-「ちり紙」のような
勘違いしやすい、かつ笑えるエピソードに繋がる例がよく取り上げられるが、
このエッセイには、そういった言葉の羅列とは一味ちがう、
「新しいモノに対する造語」を並べて日中二言語を比較している部分がある。
モノの呼び名についての両国の異なる造語を比較すれば、
日本人と中国人の発想根源の違いが窺われる。
例を挙げてみる。
(日本語) (中国語)
信号機 紅緑灯(赤と緑のライト)
歩道橋 天橋 (空中にある橋)
防虫剤 樟脳丸(樟脳で作った丸い物)
冷蔵庫 氷箱 (氷の箱)
目覚時計 閙鐘 (騒がしい鐘)
よく見比べてみてほしい。
発想というか、着眼点の違いがわかるだろうか。
つまり、モノについて考える時、
日本人の場合は、まず、その ″機能″の部分に焦点を当てるのである。
だから、信号のための装置、歩道のための橋、虫害を防ぐための剤、
冷蔵するための庫、目を覚ますための時計など、
それぞれの機能を明確に示して命名する。
だが、中国人の場合はかなり違う。
彼らがモノについて考える時は、″感覚″(特に五感)を頼りにする傾向が強く、
色、形、位置、声・音、香・臭、冷・熱などを表す言葉を形容詞的に使うことを好む。
その結果、感覚で感じ取った特徴に焦点を当てることになる。
「機能」か「五感」か。
命名などといった大げさなものでなくても、
自分がモノを捉えるとき、どんな視点でモノを見ているかを
ちょっと考えてみてみるとおもしろい。
「機能」に目がいくか、
「五感」で感じるか。
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