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2013年2月24日 (日)

仏様の寿命

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仏様の寿命

50歳という若さで亡くなった元上司の墓参りに
年に一度だけ行っている。

墓地は柵で囲まれており、入り口には門扉がある。
開門時間が決まっているためいつでもは入れない。

門の横には小さな番小屋があって、
訪ねて行くと、そこにはいつもお婆さんが座っていた。

「どこにお参り?」「お名前は?」と聞かれるので、
簡単に告げてから墓地に入ることになるのだが、
このお婆さん、異様と呼びたいくらい記憶力がいい。

名乗っているとは言え、いちいちメモを取っているようには見えないのだが、
(仮にメモを取っているにしても)年に一度しか訪問しない私の顔を見て、
「あれ、あなた、去年もちょうど今頃いらっしゃったわよね」
と声をかけられたときは、ほんとうにビックリしてしまった。
その前年、おそらく数秒しか顔を合わせていないのに、だ。

驚くと同時に次の年から、
「今年も覚えていてくれているかな」と妙な期待を持って、
訪問、挨拶をするようになってしまった。

そのうち、お墓へのお花以外に、お茶菓子を持って行くようになり、
お参りの帰り、ちょっと寄って話をするようになった。

とにかく話好きで、そこまで話しちゃったらマズイでしょ、
というようなプライベートな話題も登場したりして、
ヒヤヒヤしたりもしながら、話を聞いていた。

 

そんな中、ちょっと興味深い話を伺った。

「何々家の墓として、代々ちゃんと引き継がれているお墓はいいンですが、
 いろいろな事情でそうならないお墓は、
 お参りする人が、子の代で終わっちゃうンです。
 孫の代まで続かず、事実上無縁仏となっているお墓が結構多いンですよ」

「まぁ、顔も見たこともない人のお墓に
 お参りしようとは思わないのかもしれませんが」

「つまりね、墓石は永遠に残るのかもしれないけれど、
 仏様、つまり死んだ人には寿命があるンです。わかりますか」

亡くなった方の寿命か。

 

今年もお参りに行った。

お婆さんはいらっしゃらなくて、代わりにお爺さんが座っていた。
「いつもいらっしゃるお婆さんは?」
と聞くと
「あぁ、あれはうちの家内です」
とお爺さん。
「体調崩していま入院しているんです。1月から。脳梗塞で」

よく覚えていてくれて驚いた話をすると
「そうなンですよね。
 バカのひとつおぼえとは言わないのでしょうが、
 お参りに来た方だけは妙によく覚えていて」
とちょっとうれしそう。

「それが、一昨日、病院の先生が
 『おばあちゃん、おとしはいくつ?』と聞いたら
 『54』って言うんですよ。
 ほんとうは74。20年前のまま止まっちゃってるンですかね」

「54って聞いたときは、もうダメかと思ったけれど、
 昨日は『何々さんはお参りにきているかな』なんて
 ちゃんとお墓のことを心配しているンですよ。
 だったらまだ大丈夫かな、って」

心配しながらも、毎日毎日、奥様のひとつひとつの言動に一喜一憂している様子が、
ひしひしと伝わってくる。

心より快復をお祈りいたします。
来年はもう、思い出してもらえないのかもしれませんが、
それでもお参りには来ますので。

 

お婆さんから聞かせてもらった「亡くなった方の寿命」の話を思い出しながら
墓地を出ようとすると、ひとつの墓石に掲げられた小さな掲示が目に入った。

    お願い
 此の墓所に御縁のある方の
 消息及び連絡先をご存知の方は
 当寺までお知らせ下さい
          **寺 住職

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