科学

2017年3月19日 (日)

2017 数字あそび

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2017 数字あそび

- 降順と昇順の傑作 -

 

唐突だが、下記の写真をご覧あれ。

よく見かける道路の案内図。
特に謎が隠れているわけではない。

この図に
なにか感じるものがあるだろうか?

Sosu

地理に詳しい方は
撮ったのは??あたりかな、と
場所が浮かんでいるかもしれない。

ほかに何か・・・


これを見て、あっ、と思った方は、
かなりの数学、というか数字好きだろう。
3月14日と聞いたとき、
「ホワイトデー」よりも
「Π(円周率パイ:3.1415...)の日」や
「数学の日」が
浮かぶような人かもしれない。


そう、並んでいる
国道「157」県道「193」は
どちらも3桁の素数なのだ。

素数とは中学で習った
「1とその数自身以外に
 約数をもたない1以上の整数」
つまり、
 1とその数以外では割り切れない数。

小さいところだと
 2, 3, 5, 7, 11 ...

(素数そのものは無限にあって、
 その証明は意外に簡単だが、
 今日は省略)

素数番の道が並んでいる。
「だからナンだ」と聞かれても
返す言葉はないけれど。

 

そう言えば、

 森田真生 著
「数学する身体」
  新潮社

にもこんな記述があった。

数学科に入りたての頃、
飲み会に参加して居酒屋の下駄箱が
素数番から埋まっていく
のに
驚いたことがある。

素数に反応してしまうのは、
数学好きに共通の性質(?)
なのかもしれない。

 

前回、 ブルーバックス2000タイトルの
記念小冊子

について書いたが、
その中にはこんな記述があった。

同年11月には、日付に使われる
すべての数字が奇数
という、
数論好きにはたまらない一日が訪れている
(1999年11月19日)。

ちなみに、この次に
奇数だけで日付が構成されるのは、
実に32世紀のことで、
3111年1月1日まで待たねばならない。

そのとき、ブルーバックスはいったい、
通巻何番に到達していることだろう。

こんなことを書くのは、
ブルーバックスの読者を想定した
この小冊子くらいだろう。

西暦で書いて
全部の数字が奇数になる日付

1999年11月19日の次は、
3111年1月1日つまり、1112年後

こちらも
「だからナンだ」と聞かれても
返す言葉はない。

でも今日は、ちょっと開き直って
もう少しタダの数字ネタを続けたい。

 

今年は西暦2017年で平成29年。
2017も29も素数

しかもどちらも
「2つの平方の和」で表現できる
ピタゴラス素数だ。

【2つの平方の和(ピタゴラス素数)】
 2017   = 92+442
 (平成) 29 = 22+ 52

【3つの立方の和でも】
 2017   = 73+73+113
 (平成) 29 = 13+13+ 33

 

以下は、今年(2017)の年明け
数学というか数字好きの人たちが
やりとりしていた
2017と29に関する数字遊びの中から、
これは面白い!とメモっていたものだ。

【異なる32の素数の和で】
 2017=
    2+   3+   5+   7+  11+  13+  17+
   19+  23+  29+  37+  41+  43+  47+
   53+  59+  61+  67+  71+  73+  83+
   89+  97+ 101+ 103+ 107+ 109+
   113+ 127+ 131+ 137+ 139

【2017を29で】
 2017 =
  29 x 29 x 2 + 9 x 2 x 9 x 2 + 9 + 2

【降順(・・4, 3, 2, 1・・)で】ではこれが見事。
 2017 =
  210+29+28+27+26+25+24-23-22-21-20

 2017 =
  (9! x 8! / 7! / 6! + 5! / 4! - 3! / 2!) / (1! + 0!)
     <補足:4!は階乗、4! = 4 x 3 x 2 x 1
      0!は0でなくて1。なぜ?は
      数学の教科書に譲ります>

 2017 = 74 - 73 - 72 + 71 + 70

【昇順(1, 2, 3, 4 ・・)で】の傑作はこの2つ。
 2017 = 122 - 342 - 562 + 782 + 92
     <一見、平方の組合せだが、底(abのa)に
      1から9が見事に並んでいる>

 2017+29 =
    21 + 22 + 23 + 24 + 25 +
    26 + 27 + 28 + 29 + 210

発見した方々に敬意を表して、
記録として留めておきたい。

もちろんこれらも全部
「だからナンだ」と聞かれても
返す言葉はないのだけれど。

 

 

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2017年3月12日 (日)

ブルーバックス 通巻2000番記念

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ブルーバックス 通巻2000番記念

- 10年後を知りたければ -

 

講談社のブルーバックスが
2000タイトルを突破したことを機に
この2月、
記念の小冊子を書店で配布していた。

Bluebacks

無料なるも
新書サイズでしっかり160ページ。

表紙の名前を見ているだけで、
これらの方々が
どんな文章を寄せているのか、
期待が高まる。

個人的に、まさに数々の
思い出のあるブルーバックス。
寄稿されたエッセイだけでなく、
全体を楽しく読ませていただいた。
(以下水色部は小冊子からの引用)

 

「ブルーバックス」は

1963年9月、
「科学をあなたのポケットに」

を発刊のことばとして

創刊された。54年前だ。

有人手宙船ポストーク1号に搭乗し、
人類で初めて宇宙空間に飛んだ
ソ連の宇宙飛行士ガガーリンが
「地球は青かった」と言ったのが1961年。

その言葉が人々の記憶にまだ新しく、
ブルーは科学を表す
象徴的な色ということで、
シリーズ名称が決まった


現在も刊行している
新書レーベルとしては、
岩波新書(1938年創刊)、
中公新書(1962年創刊) 
についで日本で3番目に長い歴史
を持つ。

2000点のタイトルに対して、
歴代発行部数のベスト10が出ている。

Bluebacks3

特にベストセラーを選んで
読んでいたわけでもないのに、
見てみるとこのうち6冊は読んだことがある。

都築卓司さんの本によく描かれていた
永美ハルオさんの挿絵も、
何点かピックアップされていて
「マックスウェルの悪魔」の
この絵なんて今でも覚えている。

Bluebacks4

水の分子と酒の分子を
見分けられる悪魔の図。
ほんとうに懐かしい。

 

ベスト10で興味深いのは、
2001年以降に発行された
つまり21世紀の発行部数ベスト10も
発表されているところ。

Bluebacks2

こちらを見ると読んだことがあるのは、
わずか一冊だけ。

科学に対する
私自身の関心が薄れてしまったのか、
単に歳をとっただけなのか。

それにしても部数を最初の表と比べると
ざっくり言って1/3。

しかも、一位の、
「記憶力を強くする」は、
2001年1月に刊行された5冊のうちの一冊。
本文でも

今世紀最大のヒットが
今世紀最初の書目
であることは、
編集部にとって越えるべき
「宿題」といえるのかもしれないが-。

と書いている。

やはり、本は売れなくなっているのだろうか。

 

新書ではあるが、
のちのノーベル賞受賞者が
書いているものもある。

 81年、ブルーバックスの
名著のひとつといえる「クォーク」
(B480)が刊行される。

著者は、2008年に「自発的対称性の破れ」
の理論などで、小林誠、益川敏英とともに
ノーベル物理学賞を受賞することになる
南部陽一郎

「10年後の物理を知りたければ
 南部の論文を読め」


と言われるほど多くの素粒子理論の
おおもとになる業績を上げてきた著者が、
素粒子物理学の発展をたどりながら
そのエッセンスを解説している。

ノーベル賞受賞の27年前のこと。
それにしても
「10年後を知りたければ」
と言われるなんて、
なんともカッコいい。

「まえがき」から一部分を抜粋しよう。

「陽子や中間子はもはや素粒子ではなく、
 その代わりにクオークが登場しました。
 そればかりでなく、
 今まで関係のないものと見なされていた
 各種の力も統一される可能性が生まれました。

 さらにおどろくべきことは、
 極大の世界である宇宙全体の歴史が
 極小の世界の問題と
 切りはなせなくなったことです


 カの統一、宇宙の根源と素粒子
このテーマは、その後ブルーバックスの
物理分野の大きな柱となっていく。

 

最初に書いた通り、多くの方が
ブルーバックスの思い出や
ブルーバックスへの思いを語っている。

「こんな本もあるンだ」
「この本読んでみたいな」と
新しい本発見のきっかけにもなる。

私も「読みたい本リスト」が
かなり膨らんでしまった。

ブルーバックスの案内本としてもお薦め。

書店になければ、
電子書籍でもどうぞ。
こちらも無料で配布されている。

 

 

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2017年1月29日 (日)

インターネットの巨人

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インターネットの巨人

- アカマイは「賢い」 -

 

就任から一週間、合衆国では
トランプ大統領が本格的に動き出した。

就任演説では、集まった人の数が
話題になったりしていたが、
今回、この演説を
インターネット経由で見た人は全世界に
いったいどれくらいいたのだろうか。

8年前のオバマ大統領の
就任演説については、
こんな記述がある。

小川晃通 著
アカマイ
― 知られざるインターネットの巨人
角川EPUB選書

(以下水色部本からの引用)


 アカマイにとって象徴的だったのが、
オバマ大統領の就任演説の
インターネット中継
です。

初のアフリカ系大統領ということもあり、
世界中の人々がオバマ大統領の
就任演説映像をインターネット経由で
視聴しました。

 そのビデオをインターネットで
世界全体に配信していたのがアカマイ
です。

そのときのインターネットトラフィックは、
同社がそれまで行ったどの配信よりも
大きなトラフィックになりました。

最大で1分あたり850万人がビデオを閲覧し、
「当時としてはそれが世界記録である」
とアカマイは述べています。

この引用に急に登場した「アカマイ」。
「初めて聞く」という方も多いことだろう。

でも、もしスマホやPCで、
少しでもインターネットに触れているなら、
一度も意識したことはなくても
この会社のお世話になっているはずだ。

アカマイは、世界最大手の
コンテンツデリバリネットワーク(CDN)事業者。

本の帯には、

「インターネットを流れる情報の3分の1は
 この会社が運んでいる」


と書かれているが、本が出版されたのは2014年。
その影響力は現在さらに大きくなっている。

とにかく顧客リストがすごい。

* 米軍の全機関
* AmazonなどEコマースのトップ20サイト
* アメリカの主要スポーツリーグのすべて
* NHKを含め
 世界の代表的なニュースポータル150以上
* LINE、Apple、IBM、などなど

デリバリ、
つまり配信を専門にしている業者なので、
コンテンツを作っているわけではない。

本は、
マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授
トム・レイトンらが1998年に
会社を設立させるころの話から始まり、
「配信技術」や
「配信ビジネス」についても
解説している。

現在もiPhoneのAppleが使っているように、
スティーブ・ジョブズ自身が
「会社を買いたい」と電話をかけてきた
エピソードも紹介されている。

ちなみに「アカマイ」という
日本語のような響きの特徴ある社名は
こんな経緯で決まったらしい。

 非常に日本語っぽい響きですが、
決して「赤米」という日本語ではありません。
ハワイ語で「賢い」という意味の単語です。

 米国では、複数の社名が列挙されるときに
ABC順に掲載されることが多いため、
その順番で並んだときに最初にくることが
重要だとレイトンたちは考え、
「A」で始まる社名を探していました。

当時たまたまMIT内で起きていたのが
ハワイ語ブームです。

ハワイ語辞書が手元にあったので
それを見たところ、
「アカマイ」という単語を発見し、
それを採用しました。

いまや、スマホやPCと
コンテンツを配信しているサーバとが
瞬時に繋がることも、
そして、その間の通信が
滞りなく行われることも、
当然のように思ってしまっているが、
その裏では、
まさに賢い技術に支えらえた仕組みが、
休みなく動いている。

アカマイは、現在
世界120以上の国に、
21万台以上のサーバを設置
し、
いくつかのキー技術を駆使し、
快適な「配信」を提供している。

その「配信」は
どんな仕組みで実現されているのか。

本は、
アカマイの技術の説明をするために、
最初に、「インターネット」って
どんな仕組みで繋がっているのか?
を丁寧に説明している。

ネットに関する技術的な知識がなくても
読めるよう配慮された記述となっているが、
逆に多少知識のある方には
物足りないかもしれない。

こんなキーワードを軸に
説明を進めている。

AS(Autonomous System)
BGP(Border Gateway Protocol)
TCP(Transmission Control Protocol)
DNS(Domain Name System)

そして、次のような言葉あたりから
「アカマイの技術」に
深くかかわってくるようになる。

CNAME(Canonical NAME)
traceroute
SureRoute
Tiered Distribution

詳しい技術的な説明は本に譲るが、
高速化がどのように実現されているのか、
ケーブル切断などの障害を
どのように回避する仕組みがあるのか、
などなど、インターネット技術の
基本部分に触れることができる。

ネット社会を予見したビジネスで
急成長してきたアカマイ。
1998年に設立されてから
まだ20年も経っていない。

 ちなみにこの1998年、
同じアメリカで二つの会社が
産声をあげています。

現在、世界で最も利用されている
検索エンジンを提供しているグーグルと、

世界最大規模のデータセンター事業社である
エクイニクスです。

インターネットヘの影響力が
非常に強いこの3社が同じ年に設立された
のは、
偶然なのでしょうか、
それとも必然だったのでしょうか。

オマケ:
3社ではなく「3者が同じ年」と言えば、

第42代米大統領
ビル・クリントン:1946年8月19日生

第43代米大統領
ジョージ・W・ブッシュ:1946年7月6日生

第45代米大統領
ドナルド・トランプ:1946年6月14日生

 

 

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2017年1月15日 (日)

日本海、浅い海峡と小さな遭遇

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日本海、浅い海峡と小さな遭遇

- 230年前のスケッチ -

 

以前、ちょっと回転しただけなのに
日本列島が見慣れない形で現れるこの地図

Easia

(地図の購入はこちら
と、日本海について
この本を紹介した。

蒲生俊敬著
「日本海 その深層で起こっていること」
講談社ブルーバックス


(日本海についての過去の記事は
 こちらこちら

この本から、もう2点
興味深い話を紹介したい。
(以下水色部と図は本からの引用)

まずは1点目。
本では、日本海の特徴を
下記3点にまとめている。

① 外部の海とつながる海峡が浅く、
  地形的な閉鎖性が強い
こと。

② 対馬暖流がつねに流れ込んでいること。
③ 冬季に北西季節風が吹き抜けること。

この①について、
ちょっと驚く数字がある。

地図で見れば明らかなように、
日本海は、間宮、宗谷、津軽、対馬の
4つの海峡で外部の海と繋がっている。
この4つの海峡は、幅が狭いだけでなく、
とにかく浅い


どれほど浅いか。
本文から数字を集めて並べてみた。
(「約10メートル」の「約」は省略して引用)

  日本海の深さ
  平均水深 1,667メートル
  最大水深 3,800メートル

  4つの海峡の深さ
  間宮海峡   10メートル
  宗谷海峡   50メートル
  津軽海峡  130メートル
  対馬海峡  130メートル

もう少しイメージしやすくするため
日本海を
平均深さ50cmのバスタブとしてみよう。
海峡は、外部の海と繋がる
「縁の窪み」ということになる。

  間宮海峡   0.3cm
  宗谷海峡   1.5cm
  津軽海峡   3.9cm
  対馬海峡   3.9cm

一番深い対馬海峡でもわずか4cm
いかに「閉鎖性が強い」かがよくわかる。

このことが、②③との組合せで
海水の対流(熱塩対流)や付近の天候に
大きな特徴をもたらすのだが、
その詳細は本のほうにゆずりたい。

いずれにせよ、この閉鎖性が、

ある大潮の時期に、
同じ青森県でも
太平洋に面した八戸では干満の差が
130センチメートルもあるのに、
日本海に面した深浦では、
わずか20センチメートル程度しか
海面が変化しません。

の原因。

若狭湾に面する京都府与謝郡伊根町
 「舟屋」のような、
 1階が船のガレージ、
 2階が居間となった
海辺ぎりぎりの独特な建物が成立するのも、
日本海だからこそと言える。

 

日本海についての話、2点目は
歴史的エピソード。

フランスのJ・F・ラペルーズが、
1787年に日本海を探検したときのこと。

 ラペルーズ率いるフリゲート艦2隻は、
1787年5月25日に
対馬海峡から日本海に入ります。

1797年に出版された
「ラペルーズ世界周航記」の付図には、
日本海を東へ進んだあと、
能登半島沖で北西に向きを変えて、
ロシア沿岸を北上した航跡が
記されています。
Nihonkai1

 

このラペルーズ率いる2隻のフリゲート艦が、
日本海でふしぎな和船と遭遇しています。

遭遇場所は、

Nihonkai2

の、"MER DU JAPON"と表記されている
"MER"と"DU"の中間あたり。

1787年6月2日のこと。

対馬海峡から日本海に入った
ラペルーズ隊の前方から、
2隻の日本船(北前船)が近づいてきた。

 2隻のうち1隻は、通常の弁才船

Nihonkai3

だったが、もう1隻は
いっぷう変わった形状をしていた。

230年近くも前、フランスの軍艦が
日本海で偶然見かけた日本の船の形状、
なぜそんなことがわかるのか。

まだ写真のない時代でしたが、
ラペルーズ隊のブロンドラ海軍中尉が
これらの和船を巧みにスケッチしました。

その絵が現存しており、
『ラペルーズ世界周航記・日本近海編』
(小林忠雄編訳)に添付されています。

なんとその船のスケッチが残っているのだ!
しかも精緻で美しい。

Nihonkai4

 

 和船研究の権威である
石井謙治や安達裕之によれば、
この船は「三国丸(さんごくまる)」といい、
江戸幕府が1786年10月に
就航させたばかりの1500石積み廻船でした。

「三国」という名称は、
この船が
 和船、
 中国船、および
 西洋船(オランダ船)
の3種の船の長所を
組み合わせた折衷(せっちゅう)船
であることに由来しています。

 唐船づくりの船体に
和式の総矢倉を設け、
船体の中央には和式の本帆、
船首と船尾には洋式の補助帆(三角帆など)
を備え・・・、といったぐあいです。

しかも、三国丸のような和洋折衷船は、
当時の日本でこの一隻だけだったという。
なんという偶然。

『世界周航記』(小林忠雄編訳)には、
そのときのようすが
興味深く記載されています。

「我々は日本人の顔が
 観察できるほど近くを通過したが、
 その表情には恐怖も、驚きも
 表われていなかった」

「すれ違いながら呼びかけたが、
 我々の問いは彼らの理解をえられず、
 彼らの答弁も我々にはわからなかった。
 日本船は南方に航海をつづけた」

コミュニケーションは
取れなかったかもしれないが、
そこまで近づいてきた
異国の船(しかも軍艦)に
三国丸の人々は、
どれほど驚いたことだろう。

三国丸はその一年後、
1788年9月、暴風に見舞われ
出羽国赤石浜に漂着。
そこで破船。

 実働わずか2年たらず。
同型船が再建されることは
なかったという。

 

日本にわずか一隻、しかも
たった2年しか存在していなかった船が、
はるかフランスからやってきた軍艦と
230年前の日本海上でたまたま遭遇。
その時のフランス人の正確なスケッチが
ちゃんと残っているなんて。

貴重なスケッチは、
たった一枚でも物語を運んでくれる。

 

 

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2017年1月 8日 (日)

「消化する」とは

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「消化する」とは

- 小学生男の子の質問 -

 

年末年始の新聞を読み返していたら、
こんな記事が目に留まった。

生物学者の福岡伸一さんが
書いていたコラム。

旧年からの記事で恐縮だが、
紹介させていただきたい。

 福岡伸一の動的平衡
 他の生物を「消化する」とは

A161229fukuoka

(以下水色部、2016年12月29日の
 朝日新聞の記事から引用)

 お正月のおせち料理やお雑煮は
しっかりかんで食べましょう。
消化がよくなるように。

消化とは、食べ物を細かくして栄養を
取り込みやすくする作業だと
思っていませんか。

実は、消化のほんとうの意味
もっと別のところにあるんです。

「消化のほんとうに意味」とは
いったい何だろう。

 食べ物は、動物性でも植物性でも
そもそもは他の生物の一部。

そこには元の持ち主の遺伝情報が
しっかりと書き込まれている。

遺伝情報はたんばく質の
アミノ酸配列として表現される。

アミノ酸はアルファベット、
たんばく質は文章にあたる


他人の文章が
いきなり私の身体に入ってくると、
情報が衝突し、干渉を起こす。
これがアレルギー反応や拒絶反応。

 それゆえ、
元の持ち主の文章をいったん
バラバラのアルファベットに分解
し、
意味を消すことが必要となる。

福岡さんらしい、
実にわかりやすいたとえだ。

 他人(他の生物)の
 文章(たんぱく質)は、
 アルファベット(アミノ酸)に
 分解する必要がある。

その上でアルファベットをつむぎ直して
自分の身体の文章を再構築
する。
これが生きているということ。

つまり消化の本質は
情報の解体
にある。

他人の文章をアルファベットに分解し、
そのアルファベットを使って、
自分の文章を作ることが、
生きるということ。

 

 食用のコラーゲンは魚や牛のたんばく質。
食べれば消化されてアミノ酸になる。

一方、体内で必要なコラーゲンは
どんな食材由来のアミノ酸からでも
合成できる


だからコラーゲンを食べれば、
お肌がつやつやになると思っている人は、
ちょっとご注意あれ。

それは、他人の毛を食べれば、
髪が増えると思うに等しい

どんなにいいたんぱく質でも
食物として摂取する限り
それがそのまま自分の体の一部、
つまり自分の体を構成するたんぱく質に
なるわけではない。

一度はアミノ酸にまで分解し、
それを原料に、
自分自身のたんぱく質を作らないと
自分の体の一部にはならないわけだ。

消化は「良く噛む」といった程度の
小ささではなく、
まさに食物をアミノ酸レベルにまで
「小さく小さくする分解作業」なのだ。

 

この記事を読んでいたら学生時代の
ある景色が急に甦ってきた。

私は、理系学部の学生だったこともあり、
学生時代、
数学や理科の家庭教師をよくしていた。
小学生から高校生まで、
ずいぶんいろいろな生徒さんに
巡り合った。

ある時期、
小学校高学年の男の子ばかり5人、
グループ学習という形で、
理科を教えていたことがある。

ちょうど「消化」について
教えている時だった。

福岡さんのような
上手なたとえはできなかったし、
小学生にアミノ酸についてまでは
教えなかったと思うが、
とにかく、「消化とは」
口から胃、腸に移動する過程における
食物を小さく小さくする分解作業
だということは強調した。

たしか「唾液」の作用くらいまでは、
教科書でも触れられていた気がする。

ひととおりの説明を終えたあと、
最後に「ハイ、質問は?」と聞くと、
ひとりが手を挙げた。

「先生! 食物は、
 小さくしないと体に吸収できない。

 だから、消化は
 小さく小さくする作業だ、は
 よくわかりました。

 でもぉ・・・

 だったら、最後はどうして
 あんなにデカいのですか?


小学生の男の子5人、
爆笑の渦はよく覚えているが、
どう回答したかは全く覚えていない。

 

 

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2016年12月18日 (日)

地図二題

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地図二題

- 北方領土と日本海 -

 

ロシアのプーチン大統領が
2016年12月15日,16日訪日。

安倍首相と日露首脳会談が開かれたが、
昨日17日の朝日新聞一面は、
相変わらずこんな見出しになっていた。

A161217hoppou

「領土交渉は進展なし」

手もとに米国で買った
 HAMMOND
 ODYSSEY ATLAS OF THE World
という地図帳がある。

米国産のこの地図に、
北方四島を含む国境は
どんなふうに描かれているのだろう?
ちょっと見てみよう。

Russia2

国境線は国後島の南側。
すぐ北側にはRUSSIAの文字が。
やはりロシア領になっている。
ただしコメントが添えてある。
(ご興味があればクリックしてご覧あれ)

こちらにも。

Russia1

コメント部だけを書くと

Occupied by Russia since 1945,
 claimed by Japan.

「1945年からロシアに占領されており、
 日本がクレームしている」

うーん、なんとも冷静で客観的な記述だ。

外国の地図は、
その国からの視点を教えてくれる。

 

グーグルマップ等、
Web版の地図の登場と
スマホやカーナビの普及で
地図帳の大きな制約だった、
「固定縮尺」と「ページ割」からは
今はすっかり開放された。

技術的な改革が進む一方で、
「編集の意図」を前面に押し出して
興味深い「形」を見せてくれている
地図もある。

佐渡市が、
「環境にやさしい歴史と文化の島」として、
東アジア諸国との交流に視点をおいて
平成22年3月に刊行した地図

逆さ日本地図「東アジア交流地図」

もそのひとつ。

佐渡を中心に、
北の札幌市と南の福岡市を結ぶ線が
水平方向になるように回転。
大陸を下部に、
日本列島を上部に配置している。

そうするとこんな姿が現れる。

Easia

たったこれだけのことなのに、
見慣れた日本列島を見失ってしまうほど。

日本海がいかに閉じた海なのかもよくわかる。

この地図、
購入はこちらから簡単にできる。

なお、「日本海」については、
今年出版された

 蒲生俊敬著
 「日本海 その深層で起こっていること」
 講談社ブルーバックス


がたいへんおもしろい。

日本海を取り囲む4つの海峡
間宮、宗谷、津軽、対馬は
幅が狭いだけでなく、どれも浅い。
そのため、日本海は
まさに海洋としての閉鎖性が高い。
そのことにどういう意味があるのか。

内容については、
改めて別な機会に紹介したいと思う。

お正月の読書に向けて、
本を探している方にはお薦め。
直接は見えないけれど、
「その深層で起こっていること」に
思いを馳せることができる。

 

 

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2016年10月10日 (月)

大隅良典氏 ノーベル賞!

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大隅良典氏 ノーベル賞!

- 6紙読み比べ -

 

スウェーデンのカロリンスカ研究所は、
2016年10月3日、
2016年のノーベル医学生理学賞を、
細胞が自分で自分のタンパク質を
分解してリサイクルする
「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明した
大隅良典(おおすみよしのり)
東京工業大学栄誉教授に送ると発表した。

うれしいニュースに、
毎日新聞は4000部の号外を発行した。

翌日(2016年10月4日)の
東京での主要6紙はご覧の通り。
全紙一面トップで取り上げている。

A161004osumi

写真を撮った通り、6紙とも手元にあるので、
少し読み比べてみよう。

 

【授賞理由】

「オートファジー」の言葉ばかりが
ひとり歩きしているが、そもそも
カロリンスカ研究所はどんな理由で
授与すると言っているのだろうか?

こんなことは基本中の基本なので、
どこにでも書いてあるだろう、と思って読んでみたが、
意外にも記述は少ない。

読売新聞は、

授賞理由は
「オートファジーのメカニズムの発見」
・・・・
カロリンスカ研究所は授賞理由で
細胞がその中身を
 どうリサイクルするかについて、
 新しいパラダイム(枠組み)を導いた

と評価した。

 

日本経済新聞は、

カロリンスカ研究所は授賞理由として
オートファジーの仕組みの解明
と説明した。

とさらりと触れているだけ。

東京新聞は、一面真ん中に、
「授賞理由」の枠まで設けている。
中の記述はこう。

授賞理由

「オートファジー」について、
酵母の一種を使って重要な遺伝子を発見、
その仕組み解明した。
またよく似た洗練された機構が
人の細胞にもあることも示し、
細胞のリサイクルについて
新たな理解をもたらした


飢餓状態への適応や感染症への反応のような
多くの生理的過程で
オートファジーが重要であること、
その遺伝子変異は病気を引き起こし、
がんや神経疾患などに
関係していることが分かってきた。

なんだか理由なのか解説なのか
はっきりしない。

そんな中、そもそもの判断をした
カロリンスカ研究所の発表は、と
すっきりと載せてくれたのは、

産経新聞のみ。

161004sankeiosumi2s

授賞理由

 スウェーデンのカロリンスカ研究所が
3日発表した大隅良典氏への授賞理由は次の通り。
    ◇
 大隅氏の発見は、
細胞がどのように自身をリサイクルするのかを
理解するのに新しいバラダイムをもたらし
飢餓への適応や感染への応答のような
生態学的プロセスにおけるオートファジーの
基本的な重要性の理解に道を開いた


また、オートファジー遺伝子の変異は
疾患を引き起こす可能性があり、
オートファジーの機構はがんや神経疾患
を含むいくつかの条件に関与している。

なるほど。先の東京新聞の記述は、
産経新聞が載せているこの授賞理由を
わかりやすく書き直したつもりのものだったのだろう。

 

【発見の瞬間】

大隅さんが、光学顕微鏡を使って、
世界で初めて肉眼で「オートファジー」を確認した
まさにその発見の瞬間とその興奮は
どんな風に報じられているのだろう。

読売新聞

飢餓状態にある細胞の中に、
小さな粒状の物質が蓄積し、
盛んに動き回っている。
・・・
「オートファジー」を世界で初めて
光学顕微鏡で確認した瞬間だった。
・・・
大隅氏は、当時の興奮を
思わず息をのんだ
 何時間も顕微鏡をのぞき続けた」と語る。

 

毎日新聞

液胞の中に見たことのない小さな粒が生まれ、
激しく踊るように動いていた。
きっと、とても大事なことではないか」。

その日は何時闇も顕微鏡をのぞき続けた。
オートファジーを世界で初めて肉眼で
観察した瞬間だった。

 

産経新聞

 液胞内の顆粒は、
分子の不規則な衝突で起こるブラウン運動で
激しく動き回っていた。

大隅さんはその動きに感動し、
何時間も顕微鏡をのぞき続けた。

そして研究室を出て、
会う人ごとに
「とても面白いことを見つけた」と
熱弁をふるったという


 こうして、酵母が飢餓状態に置かれると
液胞に物質が取り込まれ、
分解される自食作用「オートファジー」を
世界で初めて確認できた。

 

妙に詳しく書いているのは、

朝日新聞

 1988年6月。
東京大教養学部の助教授になって2カ月余り。
できたばかりで学生がいない研究室で、
ひとり顕微鏡越しに酵母を見ていた。

たくさんの小さな粒が踊るよう
跳びはねていた。

何かすごい現象が起きているに違いない」。

細胞が不要なたんばく質を分解して再利用する
「オートファジー」にかかわる現象ではないか。
大隅さんが気づいた瞬間だった。
・・・
 液胞のなかには、
いくつも分解酵素があるが、
当時はその役割は分かっていなかった。

通常、酵母は飢餓状態になると休眠状態に入る。

「液胞内部で酵素が何かを分解するとしたら
 その直前だろう。
 それを観察すれば、
 仕組みが見えるんじゃないか」とひらめいた。

 分解酵素があるとたんばく質が分解されてしまい、
現象を観察できない。

このため、分解酵素がない酵母を使って調べた


顕微鏡をのぞくと、想像通り仕事を終えて
不要になったたんばく質がたまっているのが見えた。

 これが「踊る粒」だった。
生命力にあふれる躍動は、
「何時間見続けても飽きなかった」

 

 大隅さんはその後、
電子顕微鏡でオートファジーが起こる過程を
目に見える形で記録することに、
世界で初めて成功。

 

【世界への広がり】

毎日新聞

さらに3万8000種類の突然変異の酵母を検査し、
遺伝子を比較することで
14種類の遺伝子が関わっていることを突き止め、
93年に論文発表した。

地道な研究が実を結んだこの論文は
オートファジー研究史上
最も価値ある論文として世界に認められている


 その後、
オートファジー遺伝子は酵母から哺乳類、
植物にまで保存されている
ことも
吉森氏ら教え子と明らかにし、
研究は一挙に世界中に拡大した。

遺伝子は現在18種類が見つかっている。

年間数十本だった関係論文は
今では年間5000本にまで急増し、
生命科学分野でも最も進展が著しい
研究領域
となっている。

「だれもやっていなかった」研究が、
まさに世界中に広がっていく過程は、
論文数のグラフが一番わかりやすい。

論文数が増えたことは、各紙述べているが、
グラフを載せてその推移を見せてくれたのは
「毎日」と「産経」の二紙のみ。

毎日新聞

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産経新聞

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読売新聞

吉森氏は
「自分が先端で研究している分野が、
 どんどん大きくなるのを見せてもらった。・・」

と語っているが、このグラフを見ていると、
その渦中にいた研究者の興奮が伝わってくる。

大隅さんは記者会見で、
基礎研究を見守ってくれる社会になってほしい」
と強く語った。

東京新聞

記者会見を開き、
受賞決定の喜びと研究への思いを語った。
・・・
「今、科学が役に立つというのが
 数年後に企業化できることと
 同義語になっているのは問題。

 役に立つという言葉が
 とっても社会を駄目にしている


 実際、役に立つのは
 十年後、百年後かもしれない」。

基礎研究への情熱をにじませた。

 

ノーベル賞、ほんとうにおめでとうございます。

記者会見での言葉が、
より多くの人に、
より多くの人の心に届きますように。

 

 

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2016年7月24日 (日)

ディープラーニングの衝撃

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ディープラーニングの衝撃

- もう研究者としてやっていけない -

 

前回、機械翻訳を例に、
人工知能研究の難しさを、

松尾豊著
「人工知能は人間を超えるか
 ディープラーニングの先にあるもの」
角川EPUB選書

から紹介し、最後にこう書いた。

ネコの写真を見たとき、
写っているのはネコだ、と理解するためには
「ネコというのはこういうものだ」を
知識として持っている必要がある。

だから、
「知識をどう与えるか」に
「知識をどう記述するか」に、
多くの人が悩み、取り組んでいた。

この場合の知識とは、
「ネコの特徴をどう捉えているか」
ということになる。

「耳が三角で、ヒゲがあって、・・・」
などなど、「人間の」知識として存在する
ネコの特徴というのは確かにある。

この特徴量を、人間が与えるのではなく、
機械学習の中で
自動的に取得しよう、というのが、
今の人口知能を語る上での
ホットなキーワード
「ディープラーニング」だ。

それがどんなものなのか、
の詳しい説明は本に譲るが、
この本では、
「ディープラーニング」が
人工知能の世界に
実績を伴って登場したときの衝撃が、
印象深く語られている。

どんな登場の仕方だったのか。
今日は、その部分を紹介したい。
(以降、水色部は本からの引用)

 

【人工知能研究における衝撃】

2012年、
人工知能研究の世界に衝撃が走った


世界的な画像認識のコンペティション
「ILSVRC(ImageNet Large Scale
 Visual Recognition Competition)」で、
東京大学、オックスフォード大学、
独イエーナ大学、ゼロックスなど
名だたる研究機関が開発した人工知能を抑えて、
初参加のカナダのトロント大学が開発した
SuperVisionが圧倒的な勝利
を飾ったのだ。

ILSVRCというコンペでは、
いったいどういうことを競うのだろう?

 

【競うのは正解率】

 このコンペでは、
ある画像に写っているのがヨットなのか、
花なのか、動物なのか、ネコなのかを
コンピュータが自動で当てるタスクが課され、
その正解率の高さ(実際はエラー率の低さ)を
競い合う


1000万枚の画像データから機械学習で学習し、
15万枚の画像を使ってテストをして、
正解率を測定する。

画像を見て写っているものを当てる。
見るのは15万枚の画像!
テストの概要は簡単なものだ。

 

【コンマ%にしのぎを削る】

それまで、
画像認識というタスクで
機械学習を用いることは常識であったが、
機械学習の際に用いる特徴量の設計は、
人間の仕事であった


各大学・研究機関はコンマ何%の精度で
エラー率を下げるためにしのぎを削り

そのために、画像の中のこういう特徴に
注目するとエラー率が下がるのではないかと
試行錯誤を重ねてきた。

「ヨット」の特徴とは何か?
何を見て「ヨット」と判断しているのか?
特徴量の設計とは、まさにこの点を記述し
システムに教えることだ。

 

【26%台での攻防になるか?】

 機械学習といっても、特徴量の設計は
長年の知識と経験がものをいう職人技である。

職人技により、機械学習のアルゴリズムと
特徴量の設計が少しずつ進み、
1年かけて
ようやく1%エラー率が下がる
という世界だ。

その年もエラー率26%台の攻防のはずだった。

そして、いよいよコンペ。
2012年の結果は以下の通り。
本には数値による一覧表しかなかったので、
その数字を元にグラフ化してみた。

予想された26%台の攻防とは、
青枠の部分。
 26.172%
 26.602%
 26.646%
 26.952%
まさに1%以下の戦いになっている。

そこに登場した赤枠!
トロント大学のSuperVision!

Deepl1

【桁違いの勝利】

その世界で少しずつ性能を上げていくには、
気の遠くなるような努力が要求される。

 ところが、
2012年に初参加してきたトロント大学は、
ほかの人工知能を10ポイント以上引き離して、
いきなりエラー率15%台をたたき出した。

文字通り「桁違い」の勝利だ。
これには長年、
画像認識の研究を進めてきたほかの研究者も
度肝を抜かれた

26秒台で競っていた競技に、
いきなり15秒台の選手が登場したようなものだ。
そりゃぁ「度肝を抜かれた」ことだろう。

 

【ディープラーニング勝因と桁違いの勝利】

 何がトロント大学に勝利をもたらしたのか。
その勝因は
同大学教授ジェフリー・ヒントン氏が
中心になって開発した
新しい機械学習の方法
「ディープラーニング(深層学習)」だった。

ディープラーニングの研究自体は
2006年ごろから始まっているが、
それまで画像認識の各研究者が培ってきた
ノウハウとはまったく別のところから参入して、
いきなりトップに躍り出たのだから、
その衝撃たるや、大変なものだった。

画像認識の研究者の中には、
「もう研究者として
 やっていけないのではないか」
と危機感を覚えた人も少なくないと聞いている

26秒台で苦労していた選手が、
15秒台の選手と会ってしまえば、
「もうやっていけないのではないか」と
思う衝撃は理解できる。

「人間の」知識を与えるのではなく、
コンピュータが学習を通して
「自ら」知識を獲得する。

その手法の一つとして登場した
「ディープラーニング」

画期的ではあるが、
これが完璧な解というわけでは
もちろんない。

松尾さんは、こんな言葉で
その価値を表現している。

 

【大きな壁に穴を穿った】

 とはいえ、ディープラーニングによって
人工知能が実現するというのは短絡的すぎるし、
いまのディープラーニングは
足りないところだらけだ


しかし、ディープラーニングが
「単なる一手法」だと考えるのは、
これまた技術の可能性を見誤っている。

ディープラーニングは、
人工知能の分野でこれまで解けなかった
「特徴表現をコンピュータ自らが獲得する」
という問題にひとつの解を提示した。

つまり、大きな壁に
ひとつの穴を穿った
ということである。

これがアリの一穴となり、
ここから連鎖的にブレークスルーが
起こっていくかどうかが、
今後注目すべき点である。

 

 

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2016年7月17日 (日)

機械翻訳の困難さ

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機械翻訳の困難さ

- 一般常識がなければうまく訳せない -

 

囲碁といい、将棋といい、
車の自動運転といい、
ここのところ「人工知能」に関する
ニュースは賑やかだ。

「人間を超えたら」といった問いが、
笑い話にならなくなりつつある分野もあり、
純粋な技術以外での話題も多い。

大きな書店では、
人工知能関連書籍のコーナを
目にすることも多くなってきた。
ところが、一種の「流行」の宿命か、
内容のほうは
キーワードを並べただけの
薄いものも多い。

そんな中、人工知能研究の
ど真ん中にいる専門家が
その歴史と課題を
わかりやすく説いた
この本はお薦めだ。

松尾豊著
「人工知能は人間を超えるか
 ディープラーニングの先にあるもの」
角川EPUB選書


本からいくつかエピソードを
紹介したいと思っているのだが、
まず最初に
人工知能の前提というか出発点を
はっきりさせておきたい。
(以下水色部、本からの引用)

人工知能をつくるときに、
よくたとえられるのが、
飛行機の例である。

人間は昔から空を飛びたいと思っていた。
鳥のまねをするような「はばたく」飛行機を
何度もつくろうとしたが失敗した。

そして初めて成功したライト兄弟の飛行機は、
エンジンを積んだ「はばたかない」飛行機であった。

つまり、生物をまねしたいと思っても、
必ずしも生物と同じようにやる必要はないのだ。

 飛行機の場合は、
鳥が飛ぶための「揚力」という概念を見つけ、
揚力を得るための方法
(エンジンで推進力を得て、
 翼でそれを揚力に変える)を
工学的に模索すればよかった。

人工知能においても、知能の原理を見つけ、
それをコンピュータで実現すればよい。

それが人工知能という領域の
そもそもの出発点である。

ポイントは、
生物が持っている知能の仕組みそのものを
真似しようとしているわけではないという点だ。
ちょっと頭のすみに置いておこう。

 

では、具体的な例として
人工知能研究の一分野、
「機械翻訳」をとりあげて
その実現の困難さを少し覗いてみたい。

たとえば、こんな例文を考えてみよう。

He saw a woman in the garden with a telescope.

(逐語訳をすると
 「彼 見た 女性 庭の中で 望遠鏡で」となる)

 たいていの人は、これを
「彼は望遠鏡で、庭にいる女性を見た」
と訳す。
読者の方も
おそらくそう読んだのではないかと思う。

 

これをグーグル翻訳で訳してみると...

 ところが、実は、この解釈は
文法的には一意に定まらない
のである。

庭にいるのは彼なのか、それとも女性なのか。

望遠鏡を持っているのは彼なのか、女性なのか。

実際、グーグル翻訳では、
「彼は望遠鏡で庭で女性を見た」と訳される。
庭にいたのは女性ではなく彼だと解釈している。

ところが、人間にとっては、
これはちょっと不自然である。

何となく
「彼は望遠鏡で景色を見ていたところ、
 たまたま庭にいる女性を見つけて
 心惹(ひ)かれている」
というシチュエーションが思い浮かぶ。

だから、「女性は庭に」いなくてはいけないし、
「彼は望遠鏡で」
覗き見していないといけないのである。

 

訳が自然な感じ、はどこから来るのだろう?

 なぜ人間にわかるのかといえば、
それまでの経験から
「何となくそのほうがありそうだ」
と判断しているだけで、説明するのは難しい。

これをコンピュータに教えようとすると、
「望遠鏡で覗いているのは男性のほうが多い」、
あるいは
「庭にいるのは女性のほうが多い」
というような知識を入れるしかない。

 この場合だけに
対処すればいいのであれば簡単だが、
同じことがあらゆる場面で発生する。

庭ではなく、山にいるのは
男性が多いのか女性が多いのか。
川にいるのは男性が多いのか女性が多いのか。
あるいは、外国人が庭にいるのは
不自然なのかそうでないのか。

相撲取りが庭にいるのは
不自然なのかそうでないのか…。

そうしたあらゆる事態を想定して、
必要となる知識を入れる作業がいかに膨大で、
いかにばかげたことか、容易に想像できるだろう。

 単純な1つの文を訳すだけでも、
一般常識がなければうまく訳せない

ここに機械翻訳の難しさがある。

一般常識をコンピュータが扱うためには、
人間が持っている
書ききれないくらい膨大な知識を扱う必要があり、
きわめて困難である。

同じような例で
こんな日本語の例文を見た覚えがある。

「黒い瞳の大きな女の子」

これも
黒いのは  瞳なのか、女なのか、
大きいのは 瞳なのか、女なのか、
子は、女の「子」なのか、「女子」なのか?

文法的に解釈できる解を考えると
意味は一意には限定できない。

では、次の場合ならどうだろう。
文法的には全く同一の構文だ。

「黒い排気量の大きなトヨタの車」

並べてみよう。

 (1)「黒い 瞳 の大きな 女 の子」
 (2)「黒い排気量の大きなトヨタの車」

(1)が上で述べたように、
意味が一意に定まらないことに対し、
(2)の解釈には全く迷わない。
それはなぜか。
まさにそれを支える
一般常識と呼ばれる知識があるからだ。

この「知識」の部分をどう扱うかが、
人工知能研究の最も大きな課題のひとつであり、
またおもしろいところでもある。

「知識」を詳述すればキリがなくなり、
荒く記述してもOKということにしてしまうと
それ故に精度が上がらなくなってしまう。

松尾さんも書いている通り、
そもそもそんなことを
入力することができるのだろうか?
という疑問もある。

 

「知識」の扱いは、
もちろん自動翻訳に限らない。

ネコの写真を見たとき、
写っているのはネコだ、と理解するためには
「ネコというのはこういうものだ」を
知識として持っている必要がある。

だから、
「知識をどう与えるか」に
「知識をどう記述するか」に、
多くの人が悩み、取り組んでいた。

そこに、ある画期的な技術が登場することになる。

長くなって来たので、続きは次回に。

 

 

 

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2016年4月10日 (日)

共生関係が、水中も水底も養う

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共生関係が、水中も水底も養う

- サンゴ礁の豊かな生態系 -

 

サンゴと
その体内にいる褐虫藻(かっちゅうそう)との
共生関係を
「きれいな海」には「餌がない」?
と、
サンゴが木のような形に成長するわけ
で見てきた。

では、この二者間で成立している良好な共生関係は、
サンゴ礁の豊かな生態系に、
どのように結びついていくのだろうか?

その点に注目しながら、引続き

本川 達雄 著
「生物学的文明論」新潮新書

を読んでいきたい。
(以下水色部、本から引用)

 

【体を覆う粘液】

 サンゴは大量の粘液を分泌して、
体の表面をすっぽりと覆っています。
・・・
 粘液は
口のまわりにある細胞から分泌されます。

分泌されたばかりの粘液は透明で、
サンゴの表面にぴったりと張り付き、
食品のラッピングフィルムのように体を覆います

この粘液が大きな役割を果たす。

 

【粘液の役目1:清潔に保つ】

体の表面に堆積物がたまれば、
光が体の中に入りにくく、
褐虫藻の光合成の妨げになります。

粘液のフィルムで覆っていると、
ゴミがみな、フィルムにくっつきますから、
しばらくたって汚れがひどくなったら、
それを剥ぎ落として、
新しいフィルムに貼り替えてやればいい。

粘液のフィルムは、体を清潔に保つための、
使い捨てのラップフィルムなのですね。
サンゴはフィルムを定期的に貼り替えます

たとえばあるハマサンゴは、
満月ごとに貼り替えています。

ここでの「清潔」とは、共生している
褐虫藻の光合成を妨げないように
きれいにしておく、の意、というわけだ。

 

【粘液の役目2:体の保護】

大潮の時、浅いところにいるサンゴは、
水面から外に出てしまうことがありますが、
その時には、大量の粘液を分泌して体を覆います。

粘液には保水能力がありますから、これで、
体が乾燥してしまわないようにしているのです。

また、とつぜん砂などの粒子が
たくさん降り注いできたり、
高温や低温、雨などによる
海水の塩分濃度の低下などが起こっても、
サンゴはさかんに粘液を分泌して身を守ります

 

【粘液の役目3:他の生物の餌に】

 粘液は炭水化物やタンパク質が連なった
高分子でできており、
他の生物たちの良い食物になります。


 サンゴの体から剥がれ落ちた粘液は、
海水中を漂い、
その半分以上はすぐに海水に溶けます。

粘液が溶けた海水は栄養がありますから、
その中で、バクテリアがさかんに増殖します。

それが動物プランクトンのよい餌になって
動物プランクトンが増える。

するとそれを食べて、より大きな動物が増え、
それをもっと大きな動物が食べて、
というふうに食物連鎖が進んでいきます。

ここで、いよいよ共生関係を越えた
他の生物との関係が登場する。
サンゴ自体が餌を作り出しているわけだ。

 

【粘液は水中も水底も養う】

一方、海水に溶けなかった粘液は
集まって塊状になり、やがて海底に沈みます。

そして海底に棲んでいる
底生バクテリアの餌となり、
そのバクテリアが
底生動物たちの餌となっていきます。

このように、粘液は
水中を泳いでいる生きものも、
水底(みなぞこ)の生きものも、
どちらも養っています。

 

【生物多様性にあふれるサンゴ礁】

 サンゴ礁には
じつにさまざまな生きものが棲んでいます。
ところが、サンゴ礁をとりまいている外洋には、
あまり生物がいません。
外洋の水は貧栄養だからです。

・・・

サンゴ礁のさまざまな生きものたちを
養っている食べものは、元をたどれば、
褐虫藻が作り出したものです。

サンゴと褐虫藻の
たぐいまれな共生と無駄のないリサイクルが、
生物多様性にあふれたサンゴ礁生態系を
作り出しているのです。

このあと話は、
サンゴの天敵オニヒトデからサンゴを守る
サンゴガニとサンゴとの共生の話にも
広がっていくのだが、
その部分は、本のほうに任せたい。

興味のある方は、
ぜひ本を手に取ってみて下さい。

褐虫藻が光合成で作り出したエネルギーを元に、
動物であるサンゴが粘液を作りだす。

それはサンゴ自体の体と
褐虫藻の光合成を守るものでもあるけれど、
同時にそれは海中に溶けて栄養にもなる。
その栄養を元に食物連鎖が進んでいく


サンゴと褐虫藻との二者間の共生関係が、
豊かな生態系に繋がっていくしくみが
実にわかりやすく解説してある。

生物多様性を支えているのは「餌」なのだ。

 

 

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