科学

2024年12月 1日 (日)

生物を相手にする研究

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生物を相手にする研究

- 顔色が読めるまでとことん付き合う -

 

私は、学生時代は理工学部、
就職してからは
エンジニアとして仕事をしてきたので、
主に電気回路と
ソフトウェア関連分野については
実験の経験がそこそこあるのだが、
「生物を対象とした実験」の経験はない。

森山 徹 (著)
ダンゴムシに心はあるのか

新しい心の科学
PHPサイエンス・ワールド新書
PHP研究所
Dangomushinis

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、水色部は本からの引用)

を読むと、生物を相手にする研究の
難しさがよくわかる。

ヒキガエルの捕食行動に関する実験を例に
実験者の眼を学んでみよう。
実験対象は「空腹なヒキガエル」だ。

ヒキガエルを閉じ込めて
所定の期間空腹にし、
「はい、がんばって」と
本実験に供してもだめなのです

どうしてそれではダメなのか。

実験者が気をつけなければならない点は
多々挙げられているが、
わかりやすい例で言えば、
たとえばこんなこと。

捕食行動を
動機づけたい実験者が気にするのは、
個体の「顔色」です。

「落ち着いているかどうか」、
すなわち、
個体が食欲だけを生み出せるかどうか、
です。

落ち着きをなくした個体も
空腹なのですから、
食欲を生じているでしょう。

しかし、落ち着きのない個体は、
実験装置に置いた瞬間、
逃げようと暴れるかもしれません。

落ち着いている個体ですら、
何をするかわかりません。
もしかしたら、ある個体は
実験室の扉の丸いドアノブを
捕食者であるヘビの目玉と捉え、
逃げ出すかもしれません。

そして、すべての個体が
落ち着きを保てなければ

私たち実験者は
彼らに食欲が生じていたかどうかを
判断することなどできません。

つまり、準備実験(段階)では
空腹にすればいいだけではなく、
実験ができるような
「落ち着いた」空腹のカエルを準備する、
ことが必要になるわけだ。

準備実験を終えるということは、
その間にヒキガエルが
「実験室という特殊な空間で、
 食欲以外の欲求を抑制できる
ようにするということなのです。

そもそもそんなことができるのだろうか?
なにを頼りにすればいいのだろう。

エサを断ちつつ、落ち着ける状況を
つくることが必要なのです。

そのような状況は、
論理的に導けるものではありません。

「とことん付き合い」、
「顔色を見ているうちに」
わかってくるもの
です。

結局、拠り所はここしかないようだ。
「とことん付き合い顔色を見る」
ヒキガエルに対しても・・・

外から見ると、実験者の仕事とは、
実験室の気温や湿度、
提示刺激の均一化などの、
実験環境の厳密な設定と
計測機器による行動などの
正確な記録のように見えます。

もちろん、
それは実験者の大事な仕事です。

しかし、それらは手続きにすぎません

実験者が自分を研究者たらしめる仕事、
それは、
実験を始めるまでの準備期間に、
動物の心を育んでおくこと
です。

準備期間に「実験対象の心を育む」。

実験者は、その環境を、
ヒキガエルと付き合っていくという
「コミュニケーション」を通して
つかんでいくしかない
のです。

実験に必要な環境を
「実験対象とのコミュニケーション」を
通じて掴んでいく。

対象の「顔色」を見る。
私が長く居た電気工学の分野にはない
実験準備期間中の仕事だ。

そのあたり、研究の苦労話としてはあっても
論文に出てくることはない。
素人ながら、そこには
研究の成果以上に大事なことが
含まれているような気がする。

「観察・観測しやすい個体を選ぶ」
そのとき含まれるものと落ちるもの。

それ自体を研究対象にすることは
できないものだろうか?

 

 

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2024年11月24日 (日)

「隠れた活動部位」こそ「心の実体」?

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「隠れた活動部位」こそ「心の実体」?

- 観測のための方法論は -

 

「心」という捉えどころのないものを
どうやって捉えようとしているのか、
そもそも捉えられるのか、

森山 徹 (著)
ダンゴムシに心はあるのか

新しい心の科学
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 以下、水色部は本からの引用)

を読みながら、
その入口となる考え方を覗いてみよう。

科学の現場では、
心はおよそ次のように説明されます。

「私たちは通常、記憶や思考、
 判断といった認知的活動、および、
 喜怒哀楽といった感情を
 心の働きと呼んでいる。

 人間の脳には、認知的活動や
 感情を司る部位がある。
 したがって、
 脳における認知的活動、
 および、
 感情を司る特定の部位こそが
 心である
」と。

とは言うものの、
脳の特定部位の機能を失っても
通常、心を失った人とは扱わない。
「心の概念」をもう少し掘り下げみよう。

「日常的な心の概念」とは
「私の内にあるもう一人の私」 

というのはわかりやすい表現のひとつだ。
著者森山さんはこれを「内なるわたくし」と
呼んでいる。

あなたが私を目の前にしたとき、
あなたは私に心があると思うでしょう。
その理由は、
あなたは私の内に隠れている
「内なるわたくし」の気配を
感じるから
なのです。

この「内なるわたくし」を
感じさせているものは

 五感を通して推測することができない
 「隠れた活動部位」


それこそが「日常的な心の概念」の正体だ
と森山さんは述べている。

詳細に書くと長くなるので
「隠れた活動部位」の
具体的な例は本を参照いただきたいが、
あらゆる対象は、

特定の行動を発現しようとするとき、
何らかの刺激によって
さまざまな活動も
不可避的に誘発されるが、
それらに続く行動の発現を
抑制することが要求され、
それを実現している

と言っており、
この抑制、すなわち
「隠れた活動部位」こそが
「心の実体」だと。

そう考えた時、
日常生活における心の使われ方
たとえば、

*感情としての心:
  楽しかった、悲しかった
*器官としての心:
  心を鍛える、心を育む
*「裏」としての心:
  心(うら)寂しい、心悲しい

などと、かけ離れてもいないことも
本文では記述されている。

で、いよいよその働きを
現実の現象として捉えるための方法論
話は進むが、結論だけ書くと

「未知の状況」における
「予想外の行動の発現」こそが、
隠れた活動部位としての
「心の働きの現前」なのです。

と判断したようだ。
この判断に基づいて
ダンゴムシへの実験が繰り返される。

最終章にある、
まとまった記述を引用しよう。

まず、私は、
目の前の観察対象「それ」の心を、
「内なるそれ」という概念として
定義しました。

そして、その概念に合う実体として、
観察対象が、
「ある行動を発現させるとき、
 余計な行動の発現を
 自律的に抑制=潜在させる、
 隠れた活動部位」
を有することに気づきました。

その「隠れた活動部位」の存在は、
その働きを通してしか確認できません。

その働きとは、
未知の状況において、
 その観察対象が
 立ち止まってしまわないように、
 予想外の行動を発現させること」
です。

そして、心の科学とは、
この心の働きを実験的に確認する
実践的学問です。

「隠れた活動部位」
「未知の状況」
「予想外の行動」
が「心」と「心の働き」を観測するための
キーワードになっている。

以上、
心の科学のアプローチ方法のひとつとして
ここにメモを残しておきたい、と
要点のみをまとめてみた。

難しい問題に独自の方法で
取り組んでいることはよくわかったし、

ただ、未知の状況を設定するには、
その対象にとって未知でない、
日常的な状況を
先に知らなくてはなりません。

そのためには、対象と、
とことん付き合うしかありません。
その当たり前のような
流儀に従うことが、まず必要です。

とある通り、
対象への観察も丁寧に考えているようだが、
どうしても引っかかってしまうのは、
「未知」が
人間の判断に依っていることだ。

とことん付き合ったとしても
「ダンゴムシにとって未知の状況」
が人間に判断できるものだろうか?

 

 

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2024年11月17日 (日)

「こんにちは」と声をかけずに相手がわかるか

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「こんにちは」と声をかけずに相手がわかるか

- 「ダンゴムシに心はあるのか」から -

 

森山 徹 (著)
ダンゴムシに心はあるのか

新しい心の科学
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(書名または表紙画像をクリックすると
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 以下、水色部は本からの引用)

は、題名の通り、
ダンゴムシに心があるか?
の研究に挑んだ記録だが、

研究成果そのものよりも、
「心」という捉えどころのないものを
どうやってダンゴムシから
観測しようというのか、
そのアプローチ自体に興味があって
手にしてみた。

まずは、「はじめに」にある
たとえ話について考えてみよう。

皆さんの住む街に、ある日、
見知らぬ人物が現れたとします。

皆が、彼の正体を知りたいと思います。

さて、どうすれば彼のことがわかるか?

まず思いつくのは観察だ。

ある人はあらゆる角度から写真を撮り、
またある人は生活を分析します。

写真機の性能と撮影技術、
生活の分析手法は
日増しに向上するでしょう。

こうして膨大な、そして正確な
彼の記録が集まります


しかし、肝心の彼の「正体」は、
なかなか明らかになりません。

記録の方法は適切で、
その技術は進化し続けました。

しかし、技術の進化とは裏腹に、
皆さんは、その先に彼の正体を
つかめる未来がなさそう
なことを、
薄々感じ始めるでしょう。

「正体」とは何か?といった
硬い定義はともかく、
「彼ってどんな人?」の
軽い質問に答えようとしても
観察記録だけでは、
質問者の期待に応える回答が
できるような気は確かにしない。

そして、こう考えるでしょう。

彼の正体を知るには、今や、
だれかが彼の肩を直接叩き、
「こんにちは」と
声をかけることが必要
だと。

彼に気づかれないよう、
彼を記録することは、
観察者の影響を受けない
手つかずの彼
を知る最善の手段です。

しかし一方で、
最も知りたい彼の正体や本質を
知ることはできません。

観測対象に影響を与えずに
観測対象を知ることはできるのか?


量子力学の観測問題とは別次元なるも、
観測や計測を最大の拠り所として
成り立っている自然科学の
最も根本的な課題のひとつだ。

声を直接かけられることで、
彼の挙動や生活は、
観察者の影響を受け変化するでしょう。

しかし、その変化とは裏腹に、
正体は揺らぐことなく、
現前するのです。

揺らがないからこそ、現前するそれは、
正体、あるいは本質と言われるのです。

自信満々で言い切ってしまっている
この最後の段の内容はともかくも、
相手を知るために「こんにちは」と
声をかけることの価値や効用は
誰にでもイメージしやすい
わかりやすい事例と言えるだろう。

もちろん声をかけるだけで
すべてがわかるわけではないが、
仮にたったひと言の往復であったとしても
客観的な観察だけのときに比べて、
ぐっと距離が近くなるような経験は
確かにある。

どんな「こんにちは」で
ダンゴムシの心を探ろうというのか。
うまい導入だ。
次回、もう少し先を読んでみたい。

 

 

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2024年10月27日 (日)

新東名高速道路 中津川橋 工事中

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新東名高速道路 中津川橋 工事中

- トンネル口径の大きな違い -

 

前回、建設中の新東名高速道路

E1A 新東名高速道路(新秦野IC-新御殿場IC)の進捗状況
Icicb
 3️⃣「河内川(こうちがわ)橋」を見学した話を
山北事業PR館で聞いた説明を添えて書いた。

今日はその続き。

山北事業PR館で詳しい説明を聞いたあとは、
1️⃣「中津川橋」を目指した。

それぞれの位置をもう少し詳しく
地図上に示すと
Shintomei2409b
JR御殿場線谷峨(やが)駅から
松田駅へは電車で移動。

松田駅からはバス。「寄」行のバスに乗り、
「萱沼入口」で降りる。
ちなみに、「寄」は「やどりき」と読む。

バス停「萱沼入口」は
バスがグイグイと山を登る坂道の途中にある。
バスを降りるとすぐに
中津川橋の工事現場が目に飛び込んできた。
大きく見上げた河内川橋とは違って、
中津川橋は見下ろす形。
P9133653s
手前左側が中津川橋。
2つの口が見える奥のトンネルが
高松トンネル東側口。
2024年9月13日の様子だ。

高松トンネルは、地質がもろく、
掘削面の崩落や大量の湧水の発生などで
特に工事が難航しているトンネルだ。

注目してほしいのは、
ふたつある坑口の大きさの違い。
左の下り線の方が右の上り線よりも
かなり大きくなっている。

ちょっとズームしてみよう。
P9133653ss
なぜこんなに左口が大きいのか?

実はこれ、手前の中津川橋の構造が
大きく関係している。

中日本高速道路会社が公開している図面
B
現場は中津川に沿って
断層破砕帯(図の濃い茶色部分)
があるため、
主塔を立てようとすると
断層破砕帯を避けて
高松トンネル側に寄せるしかない。

その結果、バランスを取るために
橋桁の一部を
トンネル内に延伸する必要
が生じ、
図にあるように
トンネル口を大きくせざるをえなくなった、
との説明を
午前中に見学した山北事業PR館で聞いた。

当初の計画では、
もっと大きな口にする必要があったようだが、
図にある「バタフライウエブ構造」を
採用することで軽量化を図り、
今の径にまで縮小できたとのこと。

ちなみに、中津川橋近くには、
「松田事業PR館」もあるのだが、
当日は閉まっていたため、
中の展示を見ることはできなかった。
(スタッフが重なっているのか?
 午前中に見学した山北事業PR館と
 松田事業PR館が
 同時に開いている日はないようなので、
 1日で両地を回ろうとすると
 どちらかを選ぶことになる)

近くには民家もないため、
湯触トンネル西側口のそばにあった
「防音ハウス」もない。

なので
P9133659s
発破の時は大きな音が響くことだろう。

爆音も気になるが、
5分前、1分前に流れる(音楽)も
ちょっと聞いてみたい。

そうそう、山北事業PR館の説明を聞いて
すっかり関心の度合いが高くなった
「資材を運び込むためのルートの確保」
はどうなっているだろう?
P9133655sb
詳しいことはわからないが、
大型ダンプが通れるような
工事専用ルートもよく見える。

下の公式動画、4:00を見ると


トンネルの反対側(西側口)には
Takamatsunishi
こんな作業用道路まで造られているようだ。
いかに急坂の現場なのかがよくわかる。

上の動画 4:31では
工事用道路や仮橋の設置などの
 準備工事に5年をかける

とまで言っている。

 

2回に渡って書いた
新東名高速道路の河内川橋と中津川橋の
建設現場見学記。
大きな土木工事は
実物を前にすると独特な興奮がある。
「あの迫力」は生でないと伝わらない。

また、
その技術やプラニングについては
土木素人に向けて、
もっともっとアピールしても
いいのではないだろうか。
「PR館」での10名程度を定員にした
小さな説明会だけでは
あまりにももったいない。

 

 

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2024年10月20日 (日)

新東名高速道路 河内川橋 工事中

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新東名高速道路 河内川橋 工事中

- 資材を運び込むためのルートの確保 -

 

東名高速道路にほぼ平行する形で建設中の
新東名高速道路は、
 神奈川県の海老名南JCTから
 愛知県の豊田東JCTを結ぶ
 全長約253kmの高速道路だが、

2024年9月時点で未開通なのは
神奈川県の新秦野ICから
静岡県の新御殿場ICまでの
約25kmだけとなっている。

この部分、急峻な山岳ルートゆえ
トンネルや橋梁といった構造物比率が高く
工事に多くの時間がかかっている。
(秦野工事事務所が担当する神奈川県側
 14kmにおける構造物比率は約8割。
 並行する現東名高速道路においては約3割)

全線開通は2027年度の予定とか。

NEXCO中日本の
E1A 新東名高速道路(新秦野IC-新御殿場IC)の進捗状況
にある地図を借りると、
Icicb
の赤い部分が未開通工事中の区間。

今回、この記事をはじめ、
これまで何本もの川を一緒に歩いてきた
川歩き仲間と、
「建設中の橋を見に行ってみよう」、
ということになった。

具体的なターゲットは、上記地図
1️⃣の「中津川橋」 と
3️⃣の「河内川(こうちがわ)橋」。

それぞれの位置をもう少し詳しく
地図上に示すと
Shintomei2409b
最寄り駅は、それぞれJR御殿場線の
松田駅と谷峨(やが)駅となる。
3️⃣→1️⃣の順で回ることにした。

2024年9月13日
まずは、JR御殿場線、谷峨駅から
歩いて河内川橋を目指す。約2km弱。
今回は橋のすぐ下にある
 NEXCO中日本 秦野工事事務所
 新東名高速道路 山北事業PR館
で開催されている「見学コース」という
説明会への参加を予約していたので、
その時間に合わせて到着をめざした。

この見学コース、ここで事前予約できる。
約1時間のコースになっており、
PR館内のパネルを中心に
工事中の橋やトンネルごとに
規模や工法の話を聞くことができる。

ジオラマやタッチパネル、
VRゴーグルを使った説明も含まれており、
土木工事の素人でも
楽しめる工夫がいっぱいだ。

「館内の写真撮影は自由ですが、
 ネットへのUpはご遠慮下さい」
とのことだったので、
残念ながら説明パネルの画像を
貼ることはできないが、
説明を聞いて記憶に残ったことを
いくつかメモしておきたい。

なお、写真は、PR館の説明を聞いた後、
実際の現場を訪問して撮影したものだ。
つまり、
2024年9月13日時点での記録でもある。

(1) 新東名高速道路 谷ヶ山トンネル 2.8km
(1-a) 県境による工事の分担

静岡県と神奈川県をまたぐトンネル。
 * 静岡県 側を沼津工事事務所
 * 神奈川県側を秦野工事事務所
と県境を境にトンネル工事を
ふたつの工事事務所が分担している
とのこと。
地図上確かに県境が通っているとはいえ、
ひとつのトンネルの工事なのだから
分担しないほうがいいような気がするが、
まぁ、いろいろ事情があるのだろう。

(2) 新東名高速道路 河内川(こうちがわ) 橋
(2-a) 日本最大のバランスドアーチ橋

PR館の目の前に広がる長さ770mの橋。
川面からの高さは120m。
近くで実物を見るとすごい迫力だ。
(北側から撮影した写真)
P9133621srb
最大支間220m。
つまり橋脚と橋脚の間が220mもある。
この長い支間を支えるために
鋼コンクリート複合連続バランスドアーチ橋
を採用。

バランスドアーチ橋とは
アーチリブと呼ばれる円弧の腕を
橋脚から左右にバランスを取りながら
伸ばしていって造られる橋のこと。

2024年9月13日時点で、
220m離れた2本の橋脚から伸びた腕は
あと10mでくっつく、というところまで
来ていた。(南側から撮影した写真)
P9133643sb
が、実際にくっつくのは
年末か年始、になるらしい。
とにかく全体の規模が大きいので
10mが「ほんのわずかの隙間」に見える。

(2-b) 東側橋脚にあるインクライン
下の写真、東側橋脚下にある、
斜面に沿って登る急角度のレールに
ご注目あれ。
P9133628s
大型ダンプ4台を一度に運べる
日本最大のインクライン

工事資材を運び込むために使われる
「ダンプごと運ぶ斜めエレベータ」
といった感じか。

イメージできない、という方は
下記動画の3:08あたりをご覧ください。

映像は河内川橋ではなく、
皆瀬川橋工事で使われている
インクラインだが、
「ダンプごと運ぶ斜めエレベータ」は
理解いただけると思う。
河内川橋のものはこれよりも大型で、
大型ダンプ4台が乗る

(2-c) 西側橋脚の奥にあるトンネル
P9133638sb
上の写真ではわからないが、
この橋脚の奥には
「資材を運び込むためのトンネル」
が掘られている。

東側はインクライン、
西側はトンネル、
とにかく現場は急な山の斜面の途中ゆえ、
資材を運び込むためのルートの確保」が
いかに重要な課題か、が
説明を聞くとよくわかる。

(3) トンネル工事の工法
出水や断層等、トンネル工事でも
苦労が続いているようだが
工法についても説明があった。

(3-a) 山岳トンネルには発破
山岳トンネルでは今でも発破が主流。
費用対効果で選ばれている。

「シールド工法は使わないのか?」と
よく質問されるらしいが、
「大きなシールドマシンを山の上まで
 持ってこられないので
 山岳トンネルには向かない」
とのこと。なるほど。

河内川橋に連結する
湯触トンネル西側口のそばには
人の住む集落があるため、
民家への音の軽減を目的に
トンネル口には「防音ハウス」
造られている。

(3-b) NATM(新オーストリアトンネル工法)
ナトム(NATM)とは、
New Austrian Tunneling Method
(新オーストリアトンネル工法)のこと。
ロックボルトという鉄の棒を打ち込むことで
トンネルの崩壊を防ぐ、
山岳トンネルでよく使われる工法が
使われている。

たくさん打ち込まれるとはいえ、
ロックボルトの直径は25mm程度。
小さな模型を使って、
ロックボルトの効果を説明してくれたが、
トンネルの規模から見ると、
針のようにしか見えない25mmの鉄棒が、
あの大きなトンネルの
崩落防止に効果がある、
というのは不思議な感じだ。

(4) VRゴーグル
PR館では、
「VRゴーグルを使って、
 あの巨大な河内川橋を、
 上から下から、まさに自由な視点で
 眺め回すことができる」
そんな展示も用意されていた。

人数分用意されていたVRゴーグル。
両眼で覗くので立体的に見え、
ちょっと慣れると
まさに空を自由に飛び回っているような
錯覚に陥る。

気分が悪くなったり酔ったりする人もいる、
との注意があったが、
それも頷けるレベル。
仮想現実で遊び回れるこのVRゴーグル、
パカッと開けると
装置としては
中にスマホが一台入っているだけ。

スマホの画面を、ゴーグルについた
両眼視用のレンズで覗く、
たったそれだけの簡単な機構で
酔ってしまうほどの映像世界が
作り出せるなんて。

帰ってきてから
「スマホ VRゴーグル」で検索すると、
山のように商品が出てきて驚いた。
しかも、ゴーグル自体はわずか数千円。
再生画像をどう作るかの問題は別とはいえ、
スマホにはこんな利用例もあるようだ。

 

山北事業PR館で詳しい説明を聞いたあとは、
中津川橋を目指すことにした。

次回に続く。

 

 

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2024年9月22日 (日)

翅(はね)を食い合うGの研究者

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翅(はね)を食い合うGの研究者

- お互い一生飛べなくなる -

 

著書の中で

生きている虫を見ているのが、
この世の何より面白い。時間を忘れる。

と言い切っている大崎遥花さんは
1994年生まれの若い研究者だ。

朽木(くちき)の中に棲み、
朽木を食べて生きている

クチキゴキブリを研究対象としている。

そんな大崎さんの、初の著書

大崎 遥花 (著)
ゴキブリ・マイウェイ

この生物に秘められし謎を追う
山と渓谷社

(書名または表紙画像をクリックすると
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 以下、水色部は本からの引用)

を楽しく読んだ。

本書は、
世界で唯一のクチキゴキブリ研究者
の書いた、
世界で唯一のクチキゴキブリ研究本
である。

とあるが、その内容は、
研究本というよりも
駆け出し研究者の研究奮闘記
といった感じだ。

クチキゴキブリの生息地である
沖縄への調査旅行について

クチキゴキブリは朽木しか食べない
と思っていたが、金も食う

とか、

野外調査で一番怖い生き物
それはハチでもクマでもハブでもない。
人間である

とか、

私は研究が大好きだ。楽しいし、
研究している自分が好きだし、
自分の研究が世界で一番面白いと
本気で思っている。

しかし、だからといって
研究にまつわるすべての作業が
好きなわけではない

とか、
正直で軽妙な文体で、
研究分野との出会い、
クチキゴキブリの採集、飼育、資金、
実験環境の構築、研究、論文、学会、
などが次々に語られていく。

研究者や知見の少ない分野に
右往左往・試行錯誤を繰り返しながらも
貫かれているのは一途なゴキブリ愛だ。

そんな大崎さんが研究対象としている
クチキゴキブリの習性は、
ほんとうに面白い。

* クチキゴキブリは朽木を食べながら
 トンネルを作り、
 そこで家族生活を営んでいる。

* 交尾前後、オスとメスは
 互いの翅(はね)を付け根付近まで
 きっちり食べてしまう。
 「翅の食い合い」

* 交尾後約2カ月で子が生まれると、
 両親ともに口移しでエサを与えて
 子育てを行う。

* 父親と母親は生涯つがいを形成し、
 一切浮気しないと考えられている。

なんと言っても興味深いのは
「翅の食い合い」、
この「翅の食い合い」の瞬間を
初めて動画で捉えたのが大崎さんだ。

翅の食い合いは、
なんと全世界の全生物のうち、
タイワンクチキゴキブリでしか
見つかっていない。

付け根しか残っていないので、
翅を食われたあとは
当然飛べなくなる。

もちろん新たに生えてくることもない。
つまり、

食われたが最後、
一生飛べなくなるのである

なのになぜ食べてしまうのか?

オスとメスによる共同子育てや
オスが次のメスを探さないといった
昆虫にはめずらしい習性とも
おそらく深いつながりがあると思われるが
詳しいことはまだわかっていない。

本には、「翅の食い合い」の瞬間も含めて
みごとな点描画が挿絵として使われているが、
それらもすべて大崎さんの
筆によるものらしい。

絵を見ていると
「この世の何より面白い。時間を忘れる」
と言っている人の集中力と愛を感じる。

研究者の少ない領域での
ますますの活躍を期待したい。

 

 

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2024年9月15日 (日)

「宇宙思考」の3ステップ

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「宇宙思考」の3ステップ

- 正誤も価値も視点に依存 -

 

天文物理学者BossBさんを知ったのは
音楽が流れるクラブでサイエンスを体感する
ちょっと挑戦的なイベント
夜学/Naked Singularities04
で、だった。

低音が鳴り響くクラブの音楽をバックに
ワームホールやらブラックホールやら
マルチバースやら次元やら、
そんな話を専門の講師を招いて
大真面目にやる、という不思議な空間。
その中の講師のひとりがBossBさんだった。

天文物理学者BossB (著)
宇宙思考

宇宙を知れば、視点が増える
視点が増えれば、モノゴトの本質が見えてくる
かんき出版

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、水色部は本からの引用)

という本も書いている。
その「はじめに」に

天文物理学者BossBが誕生したのは、
2020年秋、コロナ禍、
それまで継続してきた
社会活動ができなくなり、
TikTokを中心にSNSで、
宇宙と愛と平和のメッセージの発信を
始めた瞬間です。

とあるように、コロナ禍での
SNSでの発信がその誕生には
大きく関わっていたようだ。

上記イベントのトークでも
強烈な個性を放っていたが
信州大学工学部准教授という顔も持つ。

そんなBossBさんが
専門の天文物理学について語っているこの本、
ちょっとユニークなのは、
宇宙、量子、次元、光速、ブラックホール
などなど、そういった分野への質問に
学者として丁寧に答えながらも、
各節末に「宇宙思考」なるコラム欄を設け、
物理学の発展の歴史を絡めながら
質問している若い読者に向けて
ポジティブな思考につながるメッセージを
多数発信していることだ。

その発想のベースとなる
「宇宙思考」の3ステップは

(1) 視点に限られたことしか
  見ることができない
(2) 新しい視点、多視点で見え始める
(3) 視点を選び、未来を創る

どれもシンプルで、それ自体は
新しいことでも特異なことでもない。

でも、この3ステップを通して眺めることで
物理学発展の歴史を大きく俯瞰できること、
そしてそれは、物理学の世界に限らず、
人間社会における常識や価値観、
生き方そのものの見つめ方にも
大きく活かせることを、
改めて、まさに視点を変えながら
繰り返し説いている。


科学的知識(科学)
間違っている可能性を許容し、
反証を歓迎し、
動的に常に変化していくものです。

と述べた後、半ページ後ろでは、
主語の「科学」を「常識」に入れ替えて

常識も、
間違っている可能性を許容し、
反証を歓迎し、
動的に常に変化していくもので
あるべきです。

と述べている。
ひとつの視点からの正誤や価値を
絶対的なものとしない柔軟性が
「別な視点から見れば」のひと言で
軽やかに生まれてくる。

BossBさん自身

宇宙を知れば知るほど、
周りの人々の輝きも見えてきました。
表面からは見えない、
本質を見る努力をするようになりました。

と言っており

自分の当たり前ではない、
社会の普通ではない領域を
探検してみてください。

違いに出会い、対話してください

と読者に呼びかけている。

それらすべてのメッセージは、
ひと言で言えば、

それぞれの色で輝ける社会を
創っていきたい、

とのBossBさんの熱い思いと
若者への愛のまなざしに支えられている。

 

 

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2024年7月21日 (日)

ワイングラスにワインは 1/3 だけれど

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ワイングラスにワインは 1/3 だけれど

- 『道具のブツリ』 -

 

「長い年月をかけて
 人の英知が集まってできた道具は、
 みごとにブツリの理に
 かなっていることをお伝えしたい」
との熱い思いで物理の先生が書いた

田中幸, 結城千代子 (著)
道具のブツリ

雷鳥社

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、水色部は本からの引用)

は、日常よく目にする道具に関わる
ブツリの話をだれにでも理解できるよう
わかりやすく解説してくれている。

単行本としては見たこともないような
変形版だし、それに合わせての製本も
凝ったものだが、
大塚文香さんのやさしいイラストが
あふれていて、本全体の印象としては
ブツリの本っぽくない(?)
ソフトなトーンでまとまっている。
著者のおふたりは大学の同級生とか。

その中での、ワイングラスの説明に
たいへん印象深い記述があったので
今日はその部分を紹介したい。

古代ローマの食卓や
キリスト教の聖餐餐式では、
ワインは銀やガラスの器に
注がれていました。

現在のレストランで見かけるような、
ふくらみのあるボウルと
足がついたワイングラスが
登場したのは、
20世紀後半になってからのこと


この形は、ブドウの品種や産地、
醸造方法により
味や香りが大きく異なるワインの特徴を
引きだせるようにと
オーストリアのリーデル社が
設計したものです。

20世紀後半、
足のついたワイングラスの歴史は
意外に浅いもののようだ。

現在のワイングラスが誕生した
20世紀ごろまで味覚はそれぞれ、
甘みは舌先、酸味は舌の両脇、
苦みは舌根で
感じられると考えられ、
ワイングラスもこれを意識して
デザインされました。

苦みが特徴の円熟した赤ワイン
大ぶりのボルドー型ワイングラスに、

酸味が特徴の赤ワイン
口のすぼまった
ブルゴーニュ型ワイングラスに、

がよいとされたのは、
グラスのふくらみで流速を変えることで
味覚を感じやすいとされていた舌の部位に
適した味がよく流れ込むように、
グラスがデザインされていたかららしい。

ところが、ところが、

ところが、21世紀になると、
舌や口内奥に分布する
「味蕾」と呼ばれる小さな器官が
五味を感じていることが判明しました。

つまり、酸味や甘味などの
それぞれの味覚は
舌の特定の部分で感じられるのではなく、
舌の全領域ですべての味を
感じていたことが分かってきた
のです。

というわけで、味覚の研究が進むにつれて
当初のグラスに込められた狙いが
十分発揮されているのか、
疑問が生じてきている部分もあるようだが、
これもまた、
道具の一歴史としておもしろい。

 

ワインで味とともに
忘れてはならないのは香り。
こちらももちろんグラスの形が
大きく関わってくる。

ボルドー型のように
ボウルのふくらみが小さければ、
先に揮発する成分と
遅れて揮発する成分で
香りに段階が生まれて、
花や果実のような香りから
アルコールの香りというように
香りの変化を楽しむことができます。

ブルゴーニュ型のように
ボウルのふくらみが大きく
口がすぼまったグラスは、
ワインの表面の揮発量に対し
グラスの口径が小さいので
先に揮発した香りが滞留しやすく、
グラス内で異なる成分が
混じり合います

これによって複雑な香りを
堪能できるのです。

で、今日紹介したかった記述は
以下の部分。

ワインを注ぐときは、
グラスの3分の1程度が
望ましい
といわれていますが、
それは残りの空間を
ワインから揮発した香りで
満たすためなのだそうです。

(中略)

目に見えないけれども、
ワイングラスには
「ワインの成分」が
グラスいっぱいに
湛えられている
のです。

ワインが 1/3 入ったグラスは、
1/3 しか入っていないのではなく、
 1/3 がワインで
 2/3 がワインの香りで
 満たされていると。

ブツリの視点は、
目には見えないこういう豊かさにも
気付かせてくれる。

 

 

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2024年2月25日 (日)

「科学的介護」の落とし穴 (1)

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「科学的介護」の落とし穴 (1)

- 生活のベースは正しさではない -

 

昨年の新聞記事になってしまうが、
介護施設長へのインタビュー記事が
たいへん内容の濃いものだったので、
印象的な言葉を紹介しながら、
ここに残しておきたい。

話しているのはもちろん介護についてだが、
介護に留まらない
考えさせられる鋭い指摘満載だ。

2023年2月7日 朝日新聞
オピニオン&フォーラム
「科学的介護」の落とし穴

介護施設長 村瀬孝生(たかお)さん

へのインタビュー記事。
(以下水色部、記事からの引用)

230207

 

より少ない介護職員で
サービスの質向上を目指すとして、
現場から集めたデータを使って
高齢者の自立支援に取り組む
「科学的介護」を国が進めている

テクノロジーを活用して
「より少ない人手でも回る現場」を
目指すことで、
介護の質は向上するのだろうか?

村瀬さんは、いきなりズバリ!
こうコメントしている。

「科学が必要な場合もあるでしょう。
 でも、データやエビデンス重視の
 ロジックが浸透すると、
 『見たいもの』しか見ない現場
 になる。
 それをおそれます」

『見たいもの』しか見ない、とは
具体的にはどういうことだろう。

たとえば、
膀胱内の尿量を測る機器がある。
尿がたまったとセンサーが知らせてきた
タイミングでトイレへ誘導できれば、
オムツを使わないで
済むようになるかもしれない。

すごく有効な方法のように思えるが、
村瀬さんはこう言う。

「でも、お年寄りは、
 尿がたまっていなくても
 トイレに行きたがることが
 よくあります。

 もし正確に尿量を感知できる
 センサーが反応しなければ、
 そのお年寄りを
 トイレに連れて行くでしょうか」

センサーが反応していなければ、
おそらく連れてはいかないだろう。

でもそれは、尿は出ないのに
トイレに連れて行く、
そんなムダな労力が省けるわけだから、
現場は楽になり生産性も上がるのでは、
とも言いたくなるが・・・

「そうでしょうか。
 僕らの現場では、
 『おしっこ』という声を聞いたなら、
 それにつきあい、なぜ本人の実感が
 そうなのか考える。

 その営みが端折られ、
 『生産性を上げるために』と
 介護職員が尿量しか見なくなると、
 老体が発するサインを
 感受する力が育たない

物理的な「尿量」と
「老体が発するサイン」は一対一ではない。
「サインを感受する力」はまさに
養う必要があるということなのだろう。

生活は偶然性や
 いいかげんなものに満ちていて、
 データやエビデンスで裏付けられた
 正しさがベースにあるのではない


 制度が定める目的や価値、
 意味が先行する介護は、
 生活から乖離すると思うのです」

「生活は偶然性や
 いいかげんなものに満ちていて、
 データやエビデンスで裏付けられた
 正しさがベースにあるのではない」
は実感に裏付けられた深い言葉だ。

「生活から乖離する」理由を
こう説明してくれている。

ケアで重要なのは
 『知る』ことよりも
 『受け止める』こと
だからです。

 『これが嫌だ』という
 お年寄りの実感を
 意味がわからなくても受け止めて、
 『かわりにこうしよう』という。

 それも拒絶されたら、
 また別のやり方を考える。
 このやりとりを繰り返して、
 信頼関係が積み上がる」

最初に聞いた、
『見たいもの』しか見ない現場
への問題意識がより具体的に伝わってくる。

介護するために相手を知るという
 知識の対象として関わるのではない


 お年寄りと介護職が2人の体で
 『今、どうしたいのか』を
 リアルにつかむ。
 そのために合意を積み重ねるんです」

たったこれだけのコメントの中に、
どれだけ考えさせられる言葉が
溢れていることか。

繰り返しになるが、
「老体」や「ケア」や「介護」を
カッコ付きにして、
再度抜き出しておきたい。

カッコ内を空白にして読むと
それに換わる身近な言葉が
自然に浮かんできてドキリとさせられる。

*データやエビデンス重視の
 ロジックが浸透すると、
 『見たいもの』しか見ない現場
 になる

*(老体)が発するサインを
 感受する力が育たない

*生活は偶然性や
 いいかげんなものに満ちていて、
 データやエビデンスで裏付けられた
 正しさがベースにあるのではない。

*(ケア)で重要なのは
 『知る』ことよりも
 『受け止める』こと

*(介護)するために相手を知るという
 知識の対象として関わるのではない。

村瀬孝生さんの言葉、
次回も続けたい。

 

 

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2024年2月 4日 (日)

小惑星「仮面ライダー」

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小惑星「仮面ライダー」

- 星に名前がつけられたら -

 

野矢茂樹 (著)
言語哲学がはじまる

岩波新書

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、水色部は本からの引用)

は、フレーゲ、ラッセル、
そしてウィトゲンシュタインという
3人の天才哲学者が、
言葉についてどう考えてきたのか、
その過程を丁寧にたどりながら、
ふだん何気なく使っている
言葉の根本に迫ろうという
言語哲学の本だが、
183ページにこんな一行がある。

1995年、中村彰正さんによって
小惑星が発見され、
「仮面ライダー」と命名された

現実世界で起こった事実の一例として
あがっているだけで、
もちろん言語哲学とは全く関係がない。

にしても、「仮面ライダー」という名の
小惑星があるなんてぜんぜん知らなかった。

で、中村彰正さんってどんな方?と
ちょっと調べてみてさらに驚いた。

詳しくはWikipediaの「中村彰正」
を御覧いただきたいが、
中村さんは、
愛媛県久万高原町にある
久万高原天体観測館の職員らしく、
1994年に「久万」を発見したのに始まり
2002年に通算100個目の小惑星を発見
とある。

国立天文台のこのページに、

新発見の小惑星の場合には、
新しく発見されてから
軌道何周分かの観測がされ、
軌道がはっきりすると、
まず番号がつけられます。

そして同時に、発見者に対して、
その小惑星に名前を提案する権利が
与えられます


名前は、
「16文字以内であること」や
「発音可能であること」
「主に軍事活動や政治活動で
 知られている人や事件の名前を
 つける場合には、
 本人が亡くなったり
 事件が起こってから
 100年が経過していること」
など、いくつかの制約はありますが、
その範囲内で
好きな名前をつけることができます

とある通り、小惑星に対しては
発見者に命名権がある。
つまり中村さんは、100個以上の小惑星の
名付け親というわけだ。

上記Wikipediaのページから
「仮面ライダー」以外も見てみたい。
一部引用すると・・・

名前 番号 由来
伊丹十三 7905 Juzoitami 高校時代に愛媛県に住んでいた
映画監督・伊丹十三
聖子 8306 Shoko 歌手・沢田聖子
しまなみ海道 9235
Shimanamikaido
しまなみ海道
デンソー 10850 Denso かつて勤務していたデンソー
仮面ライダー 12796 Kamenrider 仮面ライダー
カンチ 15370 Kanchi 『東京ラブストーリー』の登場人物
リカ 15415 Rika 『東京ラブストーリー』の登場人物
錦帯橋 15921 Kintaikyo 山口県の錦帯橋
紀洋 29737 Norihiro 野球選手・中村紀洋
俊輔 29986 Shunsuke サッカー選手・中村俊輔
カープ 44711 Carp プロ野球チーム・広島東洋カープ
やなせ 46643 Yanase 漫画家・やなせたかし
アンパンマン 46737 Anpanman アンパンマン
丹下健三 49440
Kenzotange
愛媛で少年期を過ごした
建築家・丹下健三
真鍋博 54237
Hiroshimanabe
愛媛県出身の
イラストレーター・真鍋博
山頭火 58466 Santoka 山口県出身の俳人・種田山頭火
虚子 58707 Kyoshi 愛媛県出身の俳人・高浜虚子
優作 79333 Yusaku 山口県出身の俳優・松田優作
坊っちゃん 91213 Botchan 夏目漱石の小説『坊っちゃん』
坂の上の雲 91395
Sakanouenokumo
司馬遼太郎の
小説『坂の上の雲』
金子みすゞ 100309
Misuzukaneko
山口県出身の童謡詩人
金子みすゞ
じゃこ天 202909 Jakoten 愛媛県南予地方の
特産品・じゃこ天
松下村塾 208499
Shokasonjuku
松下村塾

小惑星とは言え、「星の命名」と聞くと
やはり独特のロマンがある。

もし、自分にその権利が与えられたら
どんな名前をつけるだろう。

でも、それが嬉しいのは
一個、二個の時の話なのかもしれない。
100個以上となったらどうなるだろう。
一覧表からは苦労のあとが偲ばれる。

もちろん私個人の勝手な思い込みで、
100個以上もの星の名前を
どんなふうに考えて決めたのか、
ほんとうのところは
ご本人に聞いてみないとわからないが。

ちなみに
AstroArtsのこのページによると

太陽系天体のうち
惑星や衛星、彗星などを除くものは
「小惑星」と呼ばれます。

2023年3月14日現在で
1,264,630個の小惑星が
見つかっています。

発見された小惑星は126万個!?

*「仮面ライダー」「アンパンマン」
 という名前の小惑星が
 ほんとうにあるということ。
*たった一人で
 100個以上もの小惑星を発見し、
 正式に命名している人が
 日本にいるということ。
*小惑星は発見されたものだけで
 100万個以上もあるということ。

言語哲学の本を読みながら、
言語哲学とは全く関係ないネタで
3連発の大きな驚き。

読書は
どこで世界を広げてくれるかわからない。

 

 

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