音楽

2022年11月13日 (日)

舌はノドの奥にはえた腕!?

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舌はノドの奥にはえた腕!?

- 音色、音の色に違和感はなく -

 

実際の講演は
今から40年以上も前の話になるが、
解剖学者の三木成夫さんが、
保育園で講演した内容をまとめた

三木成夫 (著)
内臓とこころ
河出文庫

(以下水色部、本からの引用)

は、たいへんユニークな視点で語られた
「こころ」の本だ。

独特な口調で
幼児の発育過程を語りながら、
内臓とこころを結びつけ、
話は、宇宙のリズムや
4億年の進化の過程にまで
広がっていく。

一方で、

ただ、舌の筋肉だけは、
さすがに鰓(えら)の筋肉、
すなわち内臓系ではなくて、
体壁系の筋肉です。
(中略)

舌の筋肉だけは
手足と相同の筋肉
です。

われわれはよく
「ノドから手が出る」
というでしょう。

舌といえば、ノドの奥にはえた腕
だと思えばいい。

のような、
ユーモアあふれる大胆な表現もあって
あっと言う間に「三木ワールド」に
とりこまれてしまう。

舌はノドの奥にはえた腕!?
強烈すぎるフレーズだ。

講演を原稿化したものゆえ、
読みやすくはあるものの、
論理的には話が飛ぶ部分もあり、
「えっ?」と思うところもあるが、
それも含めてひとつの味だ。

簡単にはまとめられない、
三木さんの「こころ」論は本に譲るとして、
印象的なフレーズを2つ紹介したい。

(1) 原初の姿 (指差しこそ人類!)

ルートヴィヒ・クラーゲスという、
ドイツの哲学者は、
幼児が「アー」と声を出しながら、
遠くのものを指差す---この動作こそ
人間を動物から区別する、
最初の標識
だといっています。

どんなに馴れた猫でも、ソレそこだ!と
指差すのがわからない。
鼻づらをその指の先に持ってきて、
ペロペロなめる……

指差しが認識できず、
指先を舐める猫か、なるほど。

赤ちゃんも、
「なめ廻し」の時期を過ぎたころから
「指差し」を始めるようになる。

クラーゲスは、
この呼称音を伴う指差し動作のなかに、
じつは、原初の人類の”思考”の姿
あるのだといっています。
スゴい眼力ですね

この感じは、
しかし現代でも充分にわかります。

たとえば私たち、ビルの屋上から
真っ赤な夕焼け雲を見たりした時、
思わず「アー」と声を出しながら、
指差しの
少なくとも促迫は覚えるでしょう。

この瞬間、私たちはもう
好むと好まざるとにかかわらず、
原初の姿に立ち還っているのです。

圧倒的な大自然を前にした、
その時の思考状態ですね・・・。

頭の中はけっして空っぽではない

圧倒的な大自然を前にしたとき、
言葉にできない根源的な幸福感に
包まれることは確かにある。

あれは原始の姿に立ち還った
そのリラックス感から
来るものなのだろうか?

ミケランジェロ作の
システィーナ礼拝堂の天井画の
アダムの人差し指に対して

アダムの人差し指に
魂が注入される瞬間。
人類誕生の曙が
指差しの未然形として描かれている

こんな表現ができる人は
他にいないだろう。

私どもの”あたま”は
”こころ”で感じたものを、
いわば切り取って固定する

作用を持っている。

あの印象と把握の関係です。

そしてやがて、この切り取りと固定が、
あの一点の「照準」という
高度の機能に発展してゆくのですが、
「指差し」は、この照準の”ハシリ”
ということでしょう。

つまり、この段階で
もう”あたま”の働きの
微かな萌(きざ)しが
出ているのです。

 

(2) 「音色」(音の色?)

私たちの目で見るものも、
耳で聞くものも、
すべて大脳皮質の段階では
融通無礙に交流し合っております

フォルマリンで固定した人間の
大脳皮質下の「髄質」を見ますと、
ここでは、
ちょうどキノコの柄を割ぐ感じで、
無数の線維の集団を
割いでゆくことができる。

視覚領と聴覚領の間でも、
この両者の橋わたしは豊富です


連合線維と呼ばれる。

視覚と聴覚の交流?
以下の言葉の例で考えると
わかりやすい。

「香りを聞く」「味を見る」
「感触を味わう」
などなど、

皆さん、
あとでゆっくり数えてください。

どんな感覚も四通八達で、
たがいに自由自在に
結び付くことができる。

大脳皮質は
こうした連合線維の巨大な固まりです。

<中略>

私ども人間は、
こうした、感覚のいわば「互換」が、
とくに視覚と聴覚の間、
それも視覚から聴覚に向かって
発達しているのでしょう。

「音」は聴覚、「色」は視覚、
でも「音色」という言葉は
違和感なく溶け込んでいる。

解剖学の知識が全くない遠い昔から
私たちはその交流に
気づいていたに違いない。

 

 

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2022年9月25日 (日)

私のなかの何かが健康になった

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私のなかの何かが健康になった

- ミヒャエル・エンデの言葉 -

 

「モモ」「はてしない物語」
などの作品で知られる作家
ミヒャエル・エンデに
子安美知子・子安文の母娘が
インタビューをしている

子安 美知子 (著)
エンデと語る―作品・半生・世界観
朝日選書 朝日新聞社

(以下水色部、本からの引用)


で、エンデはこんな話をしている。

私が音楽を聴いて、
理解すべきことがありますか?

(中略)

音楽に理解はいらない。
そこには体験しかない
私がコンサートに出かける、
そこですばらしい音楽を聴く。

帰り道、私は、
ああ今夜はある体験をした、という
思いにみたされている。

でも、私は、コンサートに行く前と
あととを比べて、
自分がいくらかりこうなった、
なんて思うことはありませんよ

そうでしょう?

りこうになったわけでもないのに
体験によって満たされるもの。

それはもちろん音楽に限らない。

シェークスピアの芝居
見にいったとする、そのときもです。

私はけっして、りこうになって
帰るわけではありません


なにごとかを体験したんです。

すべての芸術において言えることです

本物の芸術では、
人は教訓など受けないものです。

前よりりこうになったわけではない、
よりゆたかになったのです。

心がゆたかに - 
そう、もっといえば、
私のなかの何かが健康になったのだ、
秩序をもたらされたのだ。

およそ現代文学で
まったく見おとされてしまったのは、
芸術が何よりも治癒の課題を負っている
というこの点です。

前回書いた「芸術と医療は同じ?」
とまさに同じ視点だ。

「心が豊かになった」はよく使う表現だが
「何かが健康になった」
という表現はおもしろい。

でも、心満たされたとき
「元気になった」とはよく言う。
たしかに「健康」になっている。

薬でもないのに
免疫力を高め、元気にする。
芸術にはそういう力がある。

なのでエンデは、文学作品は、啓蒙や
何かを教えるために書くわけではない、と
はっきり言い切っている。

啓蒙ではなくて-啓蒙は、
最も非本質的な課題です。

啓蒙をねらうのだったら、
私はエッセイや、評論を書きます

あるいは
こうしたインタビューの形式とか。
人に何かを教える意図があったら、
小説や物語のオブラートに包んで
お渡しするより、
そのほうが適しています。

正しい知識を与えたいなら
エッセイや評論を書くよ、か。

一冊の本は、何かの思想の
お説教であってはならない、
と私はいいましたが、
それは著者がかかわった
思想の成果ではあるはずなのです。

一篇の詩は、知恵を
しのばせておく必要はないのですが、
知恵から生まれた
結果ではなければなりません。
が、
知恵そのもの、思想そのものが
顔出しするようであってはならない。

絵画でもおなじではありませんか。

あるいは音楽でも、彫刻でも-。

それらはすべて、
なにかの世界観に根ざした産物で
なければならない

作者の世界観が
文学や絵画や音楽や彫刻といった
形になり、そしてそれは
触れた人を広く「健康にする」作用がある。

芸術は、生物が本来持つべき「調和」を
取り戻すのに大きく貢献する
不思議な力を持っている。

 

 

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2022年1月 9日 (日)

新たな3つの音楽メディア

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新たな3つの音楽メディア

- 増えているのはネット配信だけではない -

 

前回

 烏賀陽弘道 (著)
 「Jポップ」は死んだ
 扶桑社新書

(以下水色部および表とグラフの
 元となる数値・用語は本からの引用)

から「著作権使用料徴収額」の総額を
1998年と2016年の比較で見てみた。

  <表A 著作権使用料徴収額>

Jpop2a
Jpop2ga

CDを中心とした
オーディオレコードの著作権使用料は
ほぼ1/3に減っているが
成長している分野もある。

表Aにおいて増えている
「通信カラオケ」と「ビデオグラム」
にはどんな背景があるのだろう?

 

そこに詳しく触れる前に、
著作権使用料を稼ぎ出している曲、
上位には具体的にどんな曲があるのか
見てみよう。

JASRACは毎年度、
著作権使用料の分配金額ベスト3
JASRAC賞の金・銀・銅賞として
発表・表彰している。

著作権使用料の多寡を元にした
「ヒットチャート」だともいえる。

そのランキングを見て
「ほんと!?」と目を疑ってしまった。
2015年-2017年の上位3曲は・・・

2015年
①「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)
②「進撃の巨人BGM」(アニメ映画の背景音楽)
③「ルパン三世のテーマ'78」(アニメのテーマ曲)

2016年
①「R.Y.U.S.E.I.」(三代目J Soul Brothers)
②「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)
③「糸」(中島みゆき)

2017年
①「糸」(中島みゆき)
②「名探偵コナンBGM」
③「ドラゴンクエスト序曲」

この記事を書くきっかけになった前回
大野雄二作曲「ルパン三世のテーマ」は
ここに登場している。

「ルパン三世のテーマ」は1977年、
「糸」は1992年に発表された曲。
どちらも名曲とはいえ、
38年前、24年前の曲が
ベスト3に入っているということは
いったいどういうことだろう?

 

まずは「ルパン三世のテーマ」。
これがまさに「ビデオグラム」の代表選手で、
「ビデオグラム」とは、
「大半がパチンコ・スロットマシン」

のことらしい。
アニメや歌手の動画や音楽を
再生する機能をもったパチンコ機
(スロット機を含む)を、パチンコ業界では
「版権もの」「タイアップもの」と呼ぶが、
これらが著作権使用料をもたらしている。

いまやパチンコ機は
「音楽再生機」
として、
日本人にとって重要なマスメディアに
なったということだ。

長引く不況に苦しんでいるとはいえ
パチンコ業界(貸玉料基準売上)
1995年 30.5兆円
2015年 23.2兆円

パチンコ産業はコンサート産業の
75倍という巨大な国民的娯楽
なのだ。

そして著作権使用料額でいえば、
パチンコは通信カラオケの約2倍の金額を
著作権者にもたらしている。

「なんだ、パチンコか」と
軽視してはならない。

「巨大な音楽マスメディア」。
それが現在のパチンコの姿である

 

「糸」のほうはどうだろう。

結婚式での音楽の使用から発生する
著作権使用料を専門に扱う
「ISUM」(アイサム)
という団体がある

ロシア人のアブラモフさんが
2013年に立ち上げた一般社団法人だ。

「新郎新婦が安心して人生の
 スタートの記録を残せるよう、
 権利処理の代行をする。
 それがISUMです」

結婚式で使われる音楽についても
記録として残されるビデオも含めて
著作権使用料が回収される仕組みが
今はしっかり機能している。

ちなみにどの程度の費用がかかるかと言うと

披露宴のBGMやプロフィールスライドに
5分未満の曲を使うと、
一曲あたり著作権料200円+
著作隣接権料(複製、演奏・歌唱など)2000円
=2200円である。
ISUMは手数料として
その10%=220円を取る。

最終的には一曲2420円を払う計算

 

もうひとつカラオケ関連で
見逃せないトピックスがある。

カラオケボックス等の施設は
2005年 22万施設
2015年 17万施設
と減っているが、

「老人ホーム」「高齢者住宅」
「デイケア施設」などの
「高齢者介護施設」は増えているのだ。

カラオケは、
誤嚥の改善にも効果があると
「娯楽産業」から「医療・福祉分野」に
進出しているとも言える。

 

上記見てきた通り

新たな音楽メディアとして
姿を現したのが
 「パチンコ」
 「結婚式」
 「高齢者用カラオケ」

だった

増えているのはネット配信だけではない。
著作権料から見ていくと
音楽メディアの変化が
意外な角度から見えてきて
新たな発見、驚きがある。

 

 

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2022年1月 2日 (日)

CD売上げ1/3でも著作権料総額は増加

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CD売上げ1/3でも著作権料総額は増加

- 音楽需要の変化はどこに -

 

明けましておめでとうございます。

備忘録を兼ねた
まさに気ままなブログではありますが、
今年もボチボチ続けていこうと
思っていますので
今後ともどうぞよろしくお願いします。

 

昨年末2021年12月18日の朝日新聞beに
「進化続けるルパンサウンド」
の見出しで、
アニメ「ルパン三世」の音楽を
作曲、編曲している大野雄二さんの
話が出ていた。

記事ではその件には触れられていないが
大野さんの名前を見て
あるトピックスを思い出したので
今年はその話から始めたい。

驚きのトピックスが載っていたのは

 烏賀陽弘道 (著)
 「Jポップ」は死んだ
 扶桑社新書

(以下水色部、本からの引用)

この本の中に、
日本音楽著作権協会(JASRAC)が
毎年度発表している
著作権使用料の分配金額ベスト3
の話が出てくる。

著作権使用料を稼ぎ出している曲
というわけだ。

実は大野さんが作曲した
「ルパン三世のテーマ'78」は
2015年のなんと3位に位置している

77年に作曲された曲が
38年後の2015年に
著作権使用料で第3位とは!

もちろん曲は
アニメを見ないような人でも知っている
よく知られた名曲だが、
それにしても数ある曲の中で第3位とは。
ちなみに2015年の第1位はAKB48の
「恋するフォーチュンクッキー」だ。

著作権使用料、
どうも単なるヒットチャートだけでは
説明できないようだ。

というわけで、
まずは、前提となる音楽市場の動向から
見ていきたい。

 

CDを中心としたディスク市場は
ここ20年で大きく変化した。

日本のオーディオレコード
(CDなど音楽を記録したディスク、
 テープなどの総称)市場の縮小は
深刻である。

過去最高を記録した
1998年には6075億円あった。

それがほほ毎年減り続け、
2016年には3分の1を切る1777億円である
(日本レコード協会)。

20年足らずで
市場の3分の2が消えてしまった

上記引用を含め、
本には数字がいくつも出てくるので、
本の数字を元に簡単な表とグラフを作成、
それらを挟みながら話を進めたい。
(元となる数字も用語も本からの引用)

  <表1 オーディオレコード市場>

Jpop1a

グラフにすると

Jpop1ga

1/3以下になってしまった
CD関連の減り具合はたしかに凄まじいが、
ネット配信等は増えているので
当然ながらこの数字の変化が、
直接音楽産業の衰退を
意味しているわけではない。

こういうとき、私が調べるのは
日本音楽著作権協会(JASRAC)の
統計
である。

同協会はテレビやCM、コンサート、
カラオケ、細かいところでは、
カフェや美容室のBGMで音楽を流せば、
その著作権使用料を徴収する。

そしてそのお金を著作権保持者
(作詞・作曲家だけではなく企業が
 著作権を持っていることもある)
に支払う。

そのための組織である。
その執行が厳格なことで知られる。

その「著作権使用料徴収額」の総額を
同じ1998年と2016年の比較で見てみよう。

  <表2 著作権使用料徴収額>

Jpop2a
Jpop2ga

グラフを見るとわかる通り
オーディオレコード市場に連動して
オーディオレコードの著作権使用料も
ほぼ1/3に減っている。

ところが、総額はむしろ増えているのだ。

何が増えているのだろう?

1998年当時はなかった
インタラクティブ配信、
つまりインターネット配信による
著作権使用料の約100億円は
もちろん今後も伸びるであろうが、
全体の伸びはこれだけでは説明できない。

JASRACの統計から、
1998年-2016年の期間に
2~3倍の伸びを示している項目を
書き出してみた。

テレビ、ラジオなど「放送等」やCATV、
「有線放送」あるいは「映画上映」などは
2.5~2.9倍の増加を示しているが、
これは需要が伸びたからというより
「料率を値上げしたから」というのが
同協会の説明である。

需要の伸び、で気になるのは
表2にある
「通信カラオケ」と「ビデオグラム」
である。

カラオケって増えているの?
ビデオグラムって何?

どちらについても
私の全く知らない事実が背景にあった。

到達できなかった大野さんの
「ルパン三世のテーマ'78」の話も含めて
次回、そのあたりについて紹介したい。

 

 

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2021年9月12日 (日)

「ノヴェンバー・ステップス」琵琶師 鶴田錦史

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「ノヴェンバー・ステップス」琵琶師 鶴田錦史

- 琵琶が軸にある波乱万丈の人生 -

 

立花隆 (著)
「武満徹・音楽創造への旅」
文藝春秋

(以下水色部、本からの引用)

から、
「ノヴェンバー・ステップス」初演前のリハーサル
「ノヴェンバー・ステップス」指揮者のひと言
「ノヴェンバー・ステップス」2週間の事前合宿
「ノヴェンバー・ステップス」決闘と映画音楽と

と名曲「ノヴェンバー・ステップス」
に関する話を続けてきたが、
今回で最後としたい。

最後にどうしても触れておきたかったのは
琵琶を担当した鶴田錦史さんについてだ。

鶴田錦史さんって?、という方は
ここにリンクを貼った
動画を見ていただき、
その演奏と容姿を確認いただければ、と思う。

そのうえで紹介を始めたい。

 

実をいうと、
「ノヴェンバー・ステップス」は、
鶴田錦史を「頭において」どころか、
「すぐそばにおいて」
作曲されたのである。

「ノヴェンバー・ステップス」は
武満が長野県小諸近くの
御代田に持つ山荘に
3ヵ月間閉じこもって作曲されたのだが、
その間鶴田は、
そのすぐ隣りに別荘を買って、移り住み

武満の求めに応じて、
琵琶のあらゆる奏法を解説し、
武満の考案した独特の記譜法で
書かれた譜に従って
音を出してみせるという形で、
作曲を助けたのである。

「別荘を買って移り住み」??
もうこの一行で
興味を抱かないわけにはいかない。

その鶴田さんのことを
武満さん自身も次のように書いている。

鶴田さんは、私が、
真に精神的な師匠と呼べるひとだ

音楽家として傑れているばかりではなく、
人生の達人でもあられるし、
その人格は無垢で、
これは大先達に対して礼を失することに
なりかねないが、時に、
まるで幼児のように無邪気で、
その豊かな人間的な滋味は量りしれない

いったいどんな方なのだろう?

実はちょっと変わった経歴をお持ちだ。

鶴田錦史は、1911年
北海道滝川市生まれで、
本名をキクエといった
(1964年に戸籍を変更し、
 芸名の錦史を本名とした)。 

「本名 キクエ」
えっ!?と思った方。
はい、私も思わず読み返してしまいました。

そうなんです。

鶴田錦史の
舞台や写真を見たことがある人は
ご存知の通り、
鶴田はいつも男装である。

洋装のときは背広にネクタイだし、
和装のときは紋付き羽織袴である。

顔付きも男だし、声も男である。

おまけに名前も男性風だから、
たいていの人は
鶴田を男だと思ってしまう

演奏動画は何度も見ているし
CDまで持っているのに
女性ということは
この本で初めて知った。

鶴田さんは

7歳の頃から琵琶を学んだ。
驚くほど上達が早く、
早くも12歳で演奏活動を開始する
とともに、弟子も取り、
13歳でレコードを吹き込み
(「白虎隊」三枚組)、
16歳でNHKに出演するなど、
天才児の名をほしいままにした。

その後、お弟子さんも増えていき
まさに順風満帆だったのだが、
ある日突然琵琶をやめて、
実業界に乗り出してしまう。

その理由をこう語っている。

「あの世界の裏側には、いろいろ
 きたないものがありましてね、
 それがいやになってしまったんです


 結局、お金なんですね。
 弟子がふえると、
 演奏会をやるでしょう。

 わたしのところは、
 最盛期500人くらいいたわけですから、
 結構な会をやるわけです。

そんなとき、
実力主義でやりたいと思っても、
流派を盛りたてて、
琵琶の世界で食っていこうとする限り、
金持ちの弟子をチヤホヤし、
いい場所に出してやる、みたいなことを
しなくちゃいけない事情から
逃げることができなかったのだ。

 それがいやになったんですね。

 要するに琵琶で食べようとするから
 こうなるのだ。
 いやなものはやめちゃえばいい。
 稼ぐのはよそで稼いで、
 琵琶はその稼いだ金で、
 好きなようにやればいいのじゃないか


 どんな手段でも金が儲かればいい。
 とにかくまず稼ぐことだと考えて、
 商売をはじめたわけです」

で、水商売を始めるのだが
こちらも大成功!

江東区の亀戸駅前で、東京でも
有数の巨大なナイトクラブを経営し、
喫茶店、レストラン、飲み屋などを
何軒も持ち、
貸しピル、マンションなども
複数所有して
不動産業も営んでいたから、
一時期は、江東区の
高額所得者ランキングの常連
だった
のである。

「稼ぐのはよそで稼いで」を
実現させてしまった鶴田さん。

 商売が成功してからは、
 実力はあるけれど
 お金がない弟子たちを、
 ナイトクラブの社員という形にして、
 月給を与えて
 養成したりもしていました

そんな中、芸術祭参加公演にて
武満さんとの運命的な出会いを
果たすこととなる。

その後、

武満との
「怪談」での仕事をきっかけに、
鶴田は再び琵琶の世界にのめりこみ、
それまでの実業家としての成功を
すべて投げ捨ててしまう
ことになる

そして、それまでの成功で蓄えた
巨額の資産も
ほとんど使い尽くしてしまう。

「いまは琵琶だけの生活です。
 琵琶の世界に戻ってから、
 まず、水商売を
 全部やめてしまいました。

 そのあとしばらくは、
 貸しビルやマンションを
 やっていたんですが、だんだん、
 そういうものも
 全部売り払ってしまいました

 琵琶なんて、
 お金が儲かるわけじゃなくて、
 持ち出しですから

 お金はどんどんなくなっていくんです。

 でも、もともと、
 あたしの資産は、
 いずれ琵琶の世界に戻ることを
 目ざして蓄えていたものですから、
 これでいいんです。

 みんな自分の才覚で
 貯めたものですから、
 全部使いつくして
 死ねればいいと思ってるんです

1995年4月4日没 享年83。
もう一度演奏を聞きながら
合掌したい。

 

 

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2021年9月 5日 (日)

「ノヴェンバー・ステップス」決闘と映画音楽と

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「ノヴェンバー・ステップス」決闘と映画音楽と

- 新しい試みのうらにある交友関係 -

 

立花隆 (著)
「武満徹・音楽創造への旅」
文藝春秋

(以下水色部、本からの引用)

から、
「ノヴェンバー・ステップス」初演前のリハーサル
「ノヴェンバー・ステップス」指揮者のひと言
「ノヴェンバー・ステップス」2週間の事前合宿

と名曲「ノヴェンバー・ステップス」
初演にむけて様々なエピソードを
紹介してきたが、
曲そのものは専門家の眼から見て
どううつっていたのだろう。

ここにリンクを貼った
演奏を聞いていただければわかる通り、
その特徴はなんと言っても、
尺八と琵琶が作りだす独特な世界だ。

小澤さんもこう語っている。

特にあの深い精神性に打たれました。
精神と音楽が
くっついているという感じだった。

そして、つくづく思うんですが
あの曲は二人の合奏というより、
二人の決闘みたいなものですね


西洋人にもそれがわかるんです。

二人の闘いが
火花を散らせば散らすほど、
聴衆が沸く。

ぼくなんかいってみれば、
決闘の介添人みたいなものです。

どうしても強烈なソロの2楽器に
目を奪われてしまうが、注意して聴くと
オーケストラも新しい響きに溢れている。

やっぱり、尺八や琵琶と
対話させるというので、
オーケストラの側にも
新しい音を出させたい
ということ
だったんじゃないかな。

(中略)

ブラスの強い持続音なんかも、
明らかに尺八を意識してるんですね。
西洋のオーケストラ楽器の持っている
いろんな機能とか、コードとか、
リズムとか、持続音とか、
あらゆる要素を駆使して、
武満さんは新しいオーケストラの音を
作っているんです

 

一方で、作曲した武満さんにとっては、
音楽における「時間構造の探求」という
流れの中に位置づけられる作品でもあり、
武満さん自身

小澤君は、
『これは対話だね』
と言っていたけれども、
そういう意味じゃないんだ、
対話なんかできっこないんだ。
まったく違うものを、
二つ同時にやるんだ

とかなり刺激的なコメントをしている。

演奏時『縦が合わなくてもいい』
と言うような作品を発表したり、
一つの曲の内部に複数の時の流れを
持ち込もうとしたり、武満さんは
まさにさまざまな試みに挑戦している
ころだった。

一つの作品の中に
異質の時間の流れを
持ち込んでみたら
どうなるか
というのが、武満の問題意識だった。

 

ところで、武満さん、
こういった演奏会用の作品だけを
自分が思うままに
自由に作っていたわけではない。

なぜなら、ご本人曰く

作曲家というのは、
 自分の音楽作品だけでは
 絶対食えません


 どうしても、食うためには、
 映画やテレビの
 いわゆる劇伴の仕事を
 やらざるをえないんです」

だからだ。

「ノヴェンバー・ステップス」発表前の数年
じつに精力的に映画音楽の仕事をしている。

「食べるために
 やりたくない仕事までやる
 という意味なら、それはありませんが、
 結果的に
 自分が満足できない作品に終る
 ということは、映画の場合ありますよ。

 映画は台本の段階で
 やるかやらないか決めるわけです。

 すると、台本はよかったけど、
 できたものはどうしようもない
 ということがあります。

 それから、
 監督と意見が合わない場合
 どうするかという問題もあります」

担当した映画の監督には、
大島渚、市川崑、勅使河原宏
小林正樹
といった名前が並ぶ。

そのひとり、篠田正浩さんは
こんな思い出話を披露している。

-そうやって次々に仕事を
 いっしょにするようになると、
 日常生活でもよく会ってたわけですか。

「ええ、武満が
 赤坂に住んでいたころなんか、
 ほとんど毎日のように
 会ってましたよ。

 よく篠田桃紅とか、寺山修司が
 いっしょでした。

 武満と一柳(慧)と湯浅譲二と
 四人でマージャンをしたり、
 なんだか毎日
 不思議な取り合わせの人間で、
 しょっちゅう会ってました

篠田正浩、篠田桃紅、寺山修司
一柳慧、湯浅譲二、武満徹

なんともすごいメンツだ。

いったいどんな話をしながら
卓を囲んでいたのだろう。
お互い、新しい試みに向けて
刺激しあっていたに違いない。

 

 

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2021年8月29日 (日)

「ノヴェンバー・ステップス」2週間の事前合宿

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「ノヴェンバー・ステップス」2週間の事前合宿

- ギフトショップのチョウチンではないからこそ -

 

立花隆 (著)
「武満徹・音楽創造への旅」
文藝春秋

(以下水色部、本からの引用)

から、
「ノヴェンバー・ステップス」初演前のリハーサル
「ノヴェンバー・ステップス」指揮者のひと言

と新しい音楽がニューヨークで
産声をあげる瞬間を
簡単に紹介させていただいた。

上記記事に引用した通り、
ニューヨーク・フィルとの間では
和楽器との共演に向けて
緊張した時間が流れたわけだが
実は小澤さん、
「ノヴェンバー・ステップス」 
の初演を成功させるべく
事前に周到な準備をしていた。

ニューヨークの連中は
やっぱりプライドが高くて、
異質のものに対する包容力に
欠けているところがありますから
『ノヴェンバー・ステップス』を
受け入れてくれるかどうか、
ぼくは不安だったんです。

ニューヨークの場合、新曲でも、
2、3日しか練習時間がとれません
から、
あんな難しい曲を
仕上げられるわけがない。

は、小澤さんの弁。

武満さん作曲の
琵琶と尺八の二重奏「エクリプス」を
聞いて感激した小澤さんが
それをバーンスタインに聞かせたことが
「ニューヨーク・フィルから
 武満さんへの作曲依頼」
につながったのだが、
当時の小澤さんはまだ32歳。

ご本人曰く
「ニューヨークじゃまだ
 チンピラ扱いされてるみたい」
だった小澤さんは、
その2年前から音楽監督になっていた
カナダのトロント交響楽団の協力を
仰いだのだ。

「トロント交響楽団にすれば
 ニューヨーク・フィル公演のための
 練習台にされるわけで、
 そこまでぼくに付き合う必要は
 ないわけですが、
 大協力してくれたんです。
 ほんとに感動的でした。

トロント交響楽団の協力が
得られることになったため
ニューヨークに行く前に、
なんと2週間も
カナダのトロントで
ビッチリ練習に打ち込んだのだ。

 きっとぼくたちが
 あまりにも真剣になっていたからだと
 思いますよ。

 なにしろ日本から、
 作曲家と二人のソリストがやってきて、
 2週間も泊り込みで、
 毎日毎日練習に明け暮れた

 わけですからね。

 あの頃、日本なんて貧乏国で、
 1ドル360円の時代です。
 その費用だって大変なわけですよ。

 あの連中を助けてやろうという
 気特ちになったんだと思いますね」

今回の作品が、
和楽器との融合という新しい世界を
ハイレベルで実現できていることへの
確信みたないものが
「あまりにも真剣」を
生み出していたのだろう。

日本の音楽との融合が、ときに
安っぽくなってしまう場合がある
ことについて、小澤さんは
「棒ふり一人旅」(週刊朝日)
の中で、
実にうまい表現を使っている。

これまで、多くの作曲家が
われわれ自身の音楽、現代の
日本の音楽を書こうとこころみた。

あるときは日本の民謡を取入れ、
日本のリズムを取入れ、
お寺の鐘の音を書入れたり、
雅楽の響きを
オーケストラでまねてみたりした。

むろんうまくいく場合もあるが、
下手をすると、
ニューヨークの町角でみられる安っぽい、
いわゆる
『オリエント・ギフト・ショップ』
『東京ギフト・ショップ』の、
チョウチン、日ガザ、ゆかたがけ的な
日本ムードに堕する恐れがある

『東京ギフト・ショップ』のチョウチンか。
思わず笑ってしまうほど表現が的確だ。

初演の成功は、
そんな安っぽいものではない、
深い精神性を伴う日本発の新しい音楽を
ぜひ聞いてもらいたい、の
強い動機に支えられた
周到な準備の成果だったのだ。

 

 

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2021年8月22日 (日)

「ノヴェンバー・ステップス」指揮者のひと言

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「ノヴェンバー・ステップス」指揮者のひと言

- ようやく迎えられた初演本番 -

 

前回、
「ノヴェンバー・ステップス」初演前のリハーサル
と題して

立花隆 (著)
「武満徹・音楽創造への旅」
文藝春秋

(以下水色部、本からの引用)

から武満徹さん作曲の名曲
「ノヴェンバー・ステップス」
初演前のリハーサルの様子をお伝えした。

作曲者の武満さんにも
尺八の横山さんにも
琵琶の鶴田さんにも

「こんなに不真面目なやつらと
 やれるかと思いました」

「うまいけれど、
 音楽やるのはメシの種という感じで、
 真剣みが
 あんまり感じられなかった」

「自分のやり番のときだけ
 指示された音を忠実に出す。
 それが終ると
 また勝手なことをしている。
 ああいうのは
 いやだなと思いました」

という思いを抱かせてしまった
ニューヨーク・フィルの面々。
指揮者の小澤さんはこういった状況に、
さてどう対応したのだろう。

武満さんはこう語っている。

そしたら小澤さんが、
『まあいいや、みんな
 きょうは練習やらなくてもいいから、
 鶴田さんと横山さんに
 日本の伝統的な曲をやってもらおう

といって、まず、
『ノヴェンバー・ステップス』の
ソロ・パートを
二人に弾いてもらったんです。

さすが指揮者、さすが小澤さん。
あの曲のソロパート、
初めて聞いたらそりゃぁ驚いたことだろう。

(演奏へのリンクは
 前回の記事に貼りましたので
 ご興味のある方は
 そちらから聞いてみて下さい)

さて、ニューヨーク・フィルの反応は?

そしたら
やっぱり向こうも音楽家ですから、
わからないにしろこれはいい音楽だ。
素晴らしい演奏だと感じるところが
あったんですね

みんな『ブラボー!』といって、
それからはうまくいったんです。

もちろん、全員の賛同が
得られたわけではなかったようで、
リハーサルが終わってから

『しょうがないから吹くけど、
 おれはお前のこんな音楽は
 大っ嫌いだ』

と言ってきたオーボエ吹きもいたようだ。

指揮の小澤征爾さんも、
当時はまだ32歳。

 

そうして迎えた初演本番。
小澤さんは「棒ふり一人旅」に
こう書いている。

演奏が始まると、はじめ好奇心で
なんとなくざわついていた会場が、
音楽の真実さ、強さ、
美しさにひっぱられて、
みなシーンとしちまうのが感じられる

会場には大物作曲家も聴きに来ていた。

聴きに来ていた作曲家の
ペンデレツキ(ポーランド)や
コープランド(アメリカ)は
真赤な顔をして、感激、興奮していた。

二日目に来たバーンスタイン
『まあ、なんという強い音楽だ。
 人間の生命の音楽だ』
と涙を流していた。

感激したバーンスタインは、
武満さん、小澤さん、
鶴田さん、横山さんの4人を
自宅に招待して、さらに
尺八や琵琶の演奏に触れることなる。

ニューヨーク・タイムズや
サン・フランシスコ・クロニクルなどの
批評も上々で、
結果的に初演は大成功をおさめた。

小澤さん自身にも

この音楽は、
ぼくの血の中で、肉の中で、心の中で、
またぼくがこれまでに得た
音楽教養の中で、
いちばんしゃべりたかったことを
しゃべっている

と響いていたようだ。

小澤さんのリハーサル時のひと言が
団員の心を動かす
大きなきっかけであったことは
間違いないが、
実は小澤さん、
「ノヴェンバー・ステップス」
成功のためにもっともっと
周到な準備をしていたのだ。

(次回に続く)

 

 

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2021年8月15日 (日)

「ノヴェンバー・ステップス」初演前のリハーサル

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「ノヴェンバー・ステップス」初演前のリハーサル

- 絶望的な雰囲気の中で -

 

前回、
「相寄る魂」が作った一冊 と題して

立花隆 (著)
「武満徹・音楽創造への旅」
文藝春秋

(以下水色部、本からの引用)

の「おわりに」からのエピソードを
紹介させていただいた。
「おわりに」は、著者立花さん自身の
ことについての話だったが、
本文のほうは書名の通り、
作曲家・武満徹さんを立花さんらしく
ガッツリ取材した内容になっている。

約百時間にも及んだ
インタビューに支えられた内容は、
様々な角度から武満さんご自身と
武満さんの交友関係、
武満さんの作品(音楽)に
光をあてている。

特に武満さんの代表作のひとつ
「ノヴェンバー・ステップス」
に関する記述は多く、
なにも知らずに聞くだけでも
衝撃的な作品なのに、
本を読むことで、さらなる陰影を伴って
より立体的に聞こえてくるようになる。

「ノヴェンバー・ステップス」って何?
という方も
もちろんいらっしゃることだろう。

もしご興味があれば
ぜひ下記をご覧になって見て下さい。
尺八、琵琶とオーケストラのための作品。
約23分。

指揮:岩城宏之
   NHK交響楽団
尺八:横山勝也
琵琶:鶴田錦史
録音:1984年6月13日、東京文化会館

音声にノイズはあるもの
尺八の横山さん、琵琶の鶴田さんをはじめ
演奏の様子がわかる動画は貴重だ。

 

CDで聴くなら

指揮:小澤征爾
   サイトウ・キネン・オーケストラ
尺八:横山勝也
琵琶:鶴田錦史
録音:1989年9月15日、ベルリン

がお薦め。
動画はないがYouTubeでも
その録音を聴くことができる。
約19分。
こちらは音もかなり鮮明だ。

 

「ノヴェンバー・ステップス」は、
ニューヨーク・フィルの創立125周年を
記念しての委嘱作品だった。

1967年初演。
作品としても高く評価され
のちに世界中で演奏されることになる
この曲も、初演前の
リハーサルの様子は読むのも辛い。

作曲者、武満さんの言葉。

いやもう最初はひどかったです。
まず尺八が出てきたとたんに、
舞台の上にいた人の半分ぐらいが
笑い出しちゃって、
舞台から飛びおりて客席のほうにまで
ころげまわっていったのがいた。
 (中略)
とてもじゃないけど、
こんなに不真面目なやつらと
やれるかと思いました


それで小澤征爾に、
ぼくはもうイヤだ、
作曲料も何もらない、
キャンセルしたいと・・・

 

尺八、横山さんの言葉も

なんか心が通いあうという感じに
なれなかったですね。
みんな演奏はうまいですよ。
それこそどんな曲でも鼻歌まじりで
弾いてしまうくらいうまい。
うまいけれど、
音楽やるのはメシの種という感じで、
真剣みが
あんまり感じられなかった
ですね

 

琵琶、鶴田さんの言葉も

リハーサル中に、
なんかおしゃべりしたり、
ちがうことをやったりしていて、
自分のやり番のときだけ指示された音を
忠実に出す。

それが終ると
また勝手なことをしている。

人がやっているときでも
その音を真剣に聞こうとする態度に
欠けてるんですね。

ああいうのは
いやだなと思いました


だから、
日本人の演奏はあんたがたと
ちがうんだという気持ちで、
いつもピシッとしていました

三人が三人ともこう思うような
ある意味絶望的な雰囲気の中で
あんな難曲のリハーサルが
よくできたものだ。

三人をガッカリさせてしまった
オーケストラを前に、
指揮者の小澤征爾さんは
いったいどんな態度をとったのか?

この話、次回に続けたい。

 

 

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2020年9月 6日 (日)

2020年 夏の小語録

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2020年 夏の小語録

- わかりやすさの過剰摂取で -

 

コロナウイルスにより
かつて経験したことのない
夏を過ごすことになった2020年。

いわゆる三密を意識的に避けた生活も
すでに半年にも及んでいるせいか、
夏祭りや花火、繁華街や旅先での
人があふれかえっている過去の映像を見ると
妙に遠い世界のことのように感じてしまう。

というわけで、
実際にはあんなに暑かったのに
なぜか夏を実感しないまま
9月に入ってしまった、という感じだ。

涼しくなる前に、この夏に目にした言葉から
印象に残ったものを
いくつかここに留めておきたい。


(1) わかりやすさの過剰摂取
ドイツ在住の雨宮紫苑さんこの記事

「わかりやすい表現で
 わたしを納得させてみろ」という
 尊大なクレーム精神は、現代人の病。

というタイトルに
みごとに内容が集約されているが、

「わかりやすさの過剰摂取で、
 わたしたちは考える努力をしなくなった」

は、グサリと突き刺さる言葉だ。

わかりやすい説明を人に求めるのではなく
「自分で考えることの楽しさ、おもしろさ」
を、もう少し広められないものだろうか?

ここにも書いた通り、
我々は無痛(わかりやすさ)を求めるがあまり
「欲望」が「よろこび」を奪っている
面があることを
すっかり忘れてしまっている。
目を覚ます路はありやなしや。

 

(2) 蓋(ふた)をする
2020年8月24日に、佐藤栄作氏が持つ
連続在職日数の2798日を超え、
最長政権の記録を更新した安倍首相は
その4日後の8月28日
持病が悪化したことを理由に
総理大臣を辞任する意向を明らかにした。

さまざまな問題が表面化しながらも
長期化した政権の奇妙さについては
「朝日川柳」に掲載されていた
井原研吾さんの川柳が、
たった17文字で表現しきっている。

蓋(ふた)をする ただそれだけでこうも持ち

 

(3) 症状でググるな
この歌詞、
誰でも思い当たるフシがあるだろう。

決して症状をググるな!!
「咳」と「病気」でググれば
お前はすでに結核だ。

少しでも安心できるネタを探して
検索しているのに、病気関連の場合、
それをやると
なぜか心配ネタが増えるばかりだ。

 

(4) 生きがいって、
大好きなアイリッシュバンド
Dé Domhnaigh(ジェ・ドゥーナ)で
フィドルを演奏している大谷舞さんの言葉。

生きがいって、
生きた心地がしない時ほど強く感じる。

「生きた心地がしない」ほどの時間を
過ごせれば、おそらくそこに
生きがいは必要ない気がするが、
いずれにせよ、
何ものにも代えがたい時間を
体験できた人のみが口にできる言葉だ。

そういう経験は、
簡単に手に入るものではないけれど
だからこそそれは貴重で愛おしい。

そんな心豊かな奏者による
素晴らしい演奏を1セットどうぞ。
リンクをひとつだけ貼っておきます。
 polka set 
(クリックするとYouTubeに移って
 再生されます)

 

(5) 浜松の日本歴代最高気温
2020年8月17日、静岡県浜松市で
41.1度が記録された。
これは2018年に埼玉県熊谷市で記録された
日本歴代最高気温に並ぶ。

その翌日のTwitterでみかけたつぶやき。
リツイートの繰り返しで原作者不明。
浜松、熊谷の関係者限定ネタではあるけれど。

日本歴代最高気温を記録した
浜松市民が騒いでいるようだが、
君たちには「うなぎ」も「餃子」も
「YAMAHA」もあるじゃないか。

熊谷から日本歴代最高気温を奪ったら
何が残るか考えてやったほうがいい。

 

 

 

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