接続はそれと直交する方向に切断を生む
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接続はそれと直交する方向に切断を生む
- 『Barbed Wire(有刺鉄線)』から -
「パリ五輪の開会式が行われる予定の
2024年7月26日、
フランスで高速鉄道TGVを狙った
同時多発的な放火事件が発生した」
なるニュースを聞いて、
思い出した話があるので
今日はそれについて書きたいと思う。
森田真生 (著)
数学の贈り物
ミシマ社
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
の中で紹介されていた、
スタンフォード大学の
リヴィエル・ネッツ(Reviel Netz, 1968-)
さんの著書『有刺鉄線』からの話。
鉄道への攻撃、が印象的に語られている。
この本、原題は"Barbed Wire"。
未邦訳らしく日本語で読むことは
現時点ではできないようだ。
話は、
金鉱目当ての大英帝国とボーア人の間で、
南アフリカの植民地化をめぐって争われた
第二次ボーア戦争から始まる。
1899年10月12日の宣戦布告以降、
はじめこそはボーア人の攻撃に
苦しめられた英国軍だったが、
年明けから攻勢に転じ、
1900年6月にはボーア側の二つの首都が
占領された。
戦争はここで終わらなかった。
ボーア軍が、
英国の鉄道、電信網を寸断する
ゲリラ戦を開始したからである。
ボーア人の主な移動手段は馬。
対する英国側にとっては、
鉄道が移動と物資輸送の命綱だ。
広大な草原に散らばる
馬の動きを阻止することは難しいが、
鉄道の機能を麻痺させることは簡単だ。
線路を局所的に爆破するだけで
こと足りるからだ。
馬の動きをせき止める方法を
早急に考案する必要があった。
そこで目をつけられたのが
「有刺鉄線」である。
1870年代にアメリカで発明されて、
主に牛を中心とする家畜の動きを
制御するために利用された有刺鉄線を
英国軍はボーア人と
彼らの馬の動きを食い止めるために
使うことにした。
寄りそうように
有刺鉄線が張り巡らされ、
その破壊を試みるボーア人を
監視するために、
急ごしらえで
「ブロックハウス」と呼ばれる
簡易な要塞が、線路に沿って
等間隔に打ち立てられた。
この「ブロックハウスシステム」には、
予期せぬ効能があった。
南アフリカの大草原が
有刺鉄線の網の目で覆われることにより、
広大な土地が、境界の制御された
いくつもの小規模な領域に
分割されたのである。
有刺鉄線で守られることで、
領域を「分断」する機能を
帯びるようになったのだ。
分割された小領域ごとにボーア人を追い詰め、
英国側は勝利をおさめる。
それと直交する方向に
切断を生む」-
これが、ネッツが
この事例から読み解く教訓だ。
その後、第一次世界大戦では
有刺鉄線が戦術として
本格的に用いられるようになる。
高速で飛び交う方向と
直交するように、
塹壕(ざんごう)と有刺鉄線によって
人の移動がせき止められた。
接続はそれと直交する方向に切断を生む。
新しい接続が実現すると、
接続の価値ばかりが注目されがちだが、
同時に生まれる切断、分断にも
着目を促す、まさにいい教訓だ。
「直交する方向に」が印象的で
忘れられない。
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