生物を相手にする研究
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生物を相手にする研究
- 顔色が読めるまでとことん付き合う -
私は、学生時代は理工学部、
就職してからは
エンジニアとして仕事をしてきたので、
主に電気回路と
ソフトウェア関連分野については
実験の経験がそこそこあるのだが、
「生物を対象とした実験」の経験はない。
森山 徹 (著)
ダンゴムシに心はあるのか
新しい心の科学
PHPサイエンス・ワールド新書
PHP研究所
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以下、水色部は本からの引用)
を読むと、生物を相手にする研究の
難しさがよくわかる。
ヒキガエルの捕食行動に関する実験を例に
実験者の眼を学んでみよう。
実験対象は「空腹なヒキガエル」だ。
所定の期間空腹にし、
「はい、がんばって」と
本実験に供してもだめなのです。
どうしてそれではダメなのか。
実験者が気をつけなければならない点は
多々挙げられているが、
わかりやすい例で言えば、
たとえばこんなこと。
動機づけたい実験者が気にするのは、
個体の「顔色」です。
「落ち着いているかどうか」、
すなわち、
個体が食欲だけを生み出せるかどうか、
です。
落ち着きをなくした個体も
空腹なのですから、
食欲を生じているでしょう。
しかし、落ち着きのない個体は、
実験装置に置いた瞬間、
逃げようと暴れるかもしれません。
落ち着いている個体ですら、
何をするかわかりません。
もしかしたら、ある個体は
実験室の扉の丸いドアノブを
捕食者であるヘビの目玉と捉え、
逃げ出すかもしれません。
そして、すべての個体が
落ち着きを保てなければ、
私たち実験者は
彼らに食欲が生じていたかどうかを
判断することなどできません。
つまり、準備実験(段階)では
空腹にすればいいだけではなく、
実験ができるような
「落ち着いた」空腹のカエルを準備する、
ことが必要になるわけだ。
その間にヒキガエルが
「実験室という特殊な空間で、
食欲以外の欲求を抑制できる」
ようにするということなのです。
そもそもそんなことができるのだろうか?
なにを頼りにすればいいのだろう。
つくることが必要なのです。
そのような状況は、
論理的に導けるものではありません。
「とことん付き合い」、
「顔色を見ているうちに」
わかってくるものです。
結局、拠り所はここしかないようだ。
「とことん付き合い顔色を見る」
ヒキガエルに対しても・・・
実験室の気温や湿度、
提示刺激の均一化などの、
実験環境の厳密な設定と
計測機器による行動などの
正確な記録のように見えます。
もちろん、
それは実験者の大事な仕事です。
しかし、それらは手続きにすぎません。
実験者が自分を研究者たらしめる仕事、
それは、
実験を始めるまでの準備期間に、
動物の心を育んでおくことです。
準備期間に「実験対象の心を育む」。
ヒキガエルと付き合っていくという
「コミュニケーション」を通して
つかんでいくしかないのです。
実験に必要な環境を
「実験対象とのコミュニケーション」を
通じて掴んでいく。
対象の「顔色」を見る。
私が長く居た電気工学の分野にはない
実験準備期間中の仕事だ。
そのあたり、研究の苦労話としてはあっても
論文に出てくることはない。
素人ながら、そこには
研究の成果以上に大事なことが
含まれているような気がする。
「観察・観測しやすい個体を選ぶ」
そのとき含まれるものと落ちるもの。
それ自体を研究対象にすることは
できないものだろうか?
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