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2024年11月10日 (日)

この話、この雑誌にぴったり

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この話、この雑誌にぴったり

- 岩波書店の雑誌「図書」から -

 

岩波書店の雑誌「図書」2024年9月号
Tosho2409s

作家の原田宗典さんが
「読書ということ」
というエッセイを寄せている。
(以下水色部、エッセイからの引用)


もう20年も前の話だが、
早稲田のカルチャー講座で、
三カ月だけ講師をつとめたことがある。

当時、私は小林秀雄の講演を
CDで聴くことにハマっていて、
講座でも小林秀雄の話ばかりしていた。

すると何回目かに、生徒の一人が
講師である原田さんのところへ来て、
こんな話をしたという。

「今日、ここへ来る時、地下鉄の中で
小林秀雄の文庫本を読んでいたんです。

そしたら、
僕の目の前に座っていた老紳士が

『君、小林先生の本を読むなら、
 座って読みたまえ』
と言って、
席を譲ってくれたんです」

原田さんは、

この話に私は驚き、感心した。
さすが小林秀雄。
そういう真撃な読者を持つ作家は、
他にはそういないだろう。

と書いている。

いい話だなぁ、と思うと同時に、
雑誌「図書」にはこういうエピソードが
ほんとうにしっくりくるなぁ、と
ヘンなところに感心してしまった。
もちろん「図書」に対する
私個人の偏見というか思い込みによる
単なる感想だが、雑誌を読むときは
その雑誌特有のカラーを期待して読んでいる
部分がある気がする。

前回、出版社をひとりで設立した
島田潤一郎さんの言葉を紹介したが、
雑誌も含めて、まさに本は、
「情報をただ束ねたものではない」
のだ。

最近、
特に雑誌の衰退はほんとうに激しくて、
隆盛の時代を知っている
昭和のオヤジとしては寂しい限りだが、
その衰退は、
ネットの普及だけが原因ではないだろう。

雑誌でしか読めない記事や
魅力ある雑誌の特集、
雑誌のカラーを支える執筆陣、
そういったネットにはない
雑誌ならでは魅力を、
ある時期から、雑誌自らが
放棄し始めてしまったかのような
紙面づくりが広がってしまったことが、
その原因の一端ではないだろうか。

実際、今も生き残っている雑誌には
そういったネットにはない魅力が
維持されているものが多い気がする。

「こういうのって、
 ここでしか読めないンだよね」
があると、買って読もうという気になる。

媒体が何であれ、プロの編集力に支えられた
「情報をただ束ねたものではない」
特徴ある雑誌が残ることを切に願っている。

 

ちなみに、上記小林秀雄のCDについては
本ブログでも
「歳をとった甲斐がないじゃないか」
と題して記事にしたことがある。

(小林さんの肉声を聞いてみたい方は、
 上のリンクの記事の中で
 そのごく一部を聞くことができます)

書籍だけを読むと、その内容から
「じっくり座って読む作家」
のイメージなのだが、
小林さん自身の声・話っぷりを聞くと
記事にも書いた通り、
私は志ん生の落語を思い出してしまうせいか
イメージが大きく変わっておもしろい。

 

 

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