翅(はね)を食い合うGの研究者
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翅(はね)を食い合うGの研究者
- お互い一生飛べなくなる -
著書の中で
この世の何より面白い。時間を忘れる。
と言い切っている大崎遥花さんは
1994年生まれの若い研究者だ。
朽木を食べて生きている
クチキゴキブリを研究対象としている。
そんな大崎さんの、初の著書
大崎 遥花 (著)
ゴキブリ・マイウェイ
この生物に秘められし謎を追う
山と渓谷社
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
を楽しく読んだ。
世界で唯一のクチキゴキブリ研究者
の書いた、
世界で唯一のクチキゴキブリ研究本
である。
とあるが、その内容は、
研究本というよりも
駆け出し研究者の研究奮闘記
といった感じだ。
クチキゴキブリの生息地である
沖縄への調査旅行について
と思っていたが、金も食う。
とか、
それはハチでもクマでもハブでもない。
人間である。
とか、
研究している自分が好きだし、
自分の研究が世界で一番面白いと
本気で思っている。
しかし、だからといって
研究にまつわるすべての作業が
好きなわけではない。
とか、
正直で軽妙な文体で、
研究分野との出会い、
クチキゴキブリの採集、飼育、資金、
実験環境の構築、研究、論文、学会、
などが次々に語られていく。
研究者や知見の少ない分野に
右往左往・試行錯誤を繰り返しながらも
貫かれているのは一途なゴキブリ愛だ。
そんな大崎さんが研究対象としている
クチキゴキブリの習性は、
ほんとうに面白い。
* クチキゴキブリは朽木を食べながら
トンネルを作り、
そこで家族生活を営んでいる。
* 交尾前後、オスとメスは
互いの翅(はね)を付け根付近まで
きっちり食べてしまう。
「翅の食い合い」
* 交尾後約2カ月で子が生まれると、
両親ともに口移しでエサを与えて
子育てを行う。
* 父親と母親は生涯つがいを形成し、
一切浮気しないと考えられている。
なんと言っても興味深いのは
「翅の食い合い」、
この「翅の食い合い」の瞬間を
初めて動画で捉えたのが大崎さんだ。
なんと全世界の全生物のうち、
タイワンクチキゴキブリでしか
見つかっていない。
付け根しか残っていないので、
翅を食われたあとは
当然飛べなくなる。
もちろん新たに生えてくることもない。
つまり、
一生飛べなくなるのである。
なのになぜ食べてしまうのか?
オスとメスによる共同子育てや
オスが次のメスを探さないといった
昆虫にはめずらしい習性とも
おそらく深いつながりがあると思われるが
詳しいことはまだわかっていない。
本には、「翅の食い合い」の瞬間も含めて
みごとな点描画が挿絵として使われているが、
それらもすべて大崎さんの
筆によるものらしい。
絵を見ていると
「この世の何より面白い。時間を忘れる」
と言っている人の集中力と愛を感じる。
研究者の少ない領域での
ますますの活躍を期待したい。
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