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2023年12月

2023年12月31日 (日)

アスリートの語学力

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アスリートの語学力

- ピエ、日本語で説明するとすごく長い -

 

2023年12月26日の朝日新聞の記事
「スポーツ回顧2023」が

「海を渡りチェコ語を覚え
 気づきを得られたから」

なる見出しをつけて、2023年8月に
ハンガリー・ブダペストで開催された
陸上の世界選手権で金メダルをとった
北口榛花(はるか)さんのことを
書いていた。
(以下水色部、記事からの引用)

2312261 

北口さん、「チェコ人のコーチ、
セケラク氏のもとに単身で渡って4年半」
とのことだが、
金メダル獲得の際のインタビューも
チェコ語メディアに対しては
流暢なチェコ語で対応していた。

ほぼ独学でチェコ語を身につけ、
今は地元メディアの取材にも
チェコ語や英語で対応しているという。

また、日本の大会に
チェコ選手が出場した際には
日本メディアに対して
通訳役になることもあるという。

チェコ語を習得したことで、

競技面でも新たな気づきを得られた
投げる指導が主だった日本と比べ、
セケラク氏は
投げること以外の練習に重きを置いた
助走を強化するための走り込みや
筋力トレーニングも、
「なぜ必要なのか」を
丁寧に説いてくれた

 

アスリートの語学力と言えば
今年(2023年)5月に引退会見をした
卓球の石川佳純さんの流暢な中国語も
思い出すが、
2023年6月27日の朝日新聞の記事には
語学に対する
たいへん印象的な石川さんの言葉があった。
(以下緑色部、記事からの引用)

230627 

中国語習得のきっかけはやはりコーチ、
トレーナーとの出会いだ。

卓球の強豪校、
大阪・四天王寺羽曳丘中に入学すると、
卓球部に
中国人のコーチ、トレーナーがいた


上達の近道だと考え、
中国語を習得しようと本気になった。

もちろん最初はコーチとの
コミュニケーションが目的だったと思うが、
中国語を学ぶことで、
そこには、簡単には日本語に訳せない
でも強くなるためには重要な言葉が
いくつもあることに気づいていく。

興味深いのは中国語には
ショットの種類を端的に表す単語が、
日本語より豊富なこと
だ。

「例えば、ピエと発音する言葉は、
 ボールに横回転を加えて
 流すように振る
 ショットなんですけど、
 日本語で説明すると、すごく長い

 卓球のタイムアウトは
 1試合に1分間しかないので、
 中国語ならピエだ、ピエ、で済む。
 すぐ理解できて、
 時間短縮になるんです」

強くなるための練習を支える語、が
独自に発達していくのだろう。
「強い国から学ぶ」ためには
それら全部を受け止める能力が必要だ。

加えて、インターネットで中国選手の
中国語でのインタビューを視聴して
理解できるようになると、
こんな効果もあった。

「昔は、中国選手の強さは
 異次元のレベルだと
 感じたんですけど、
 動画を見て、
 ふだんは気さくな性格なんだとか、
 試合で競り合った場面で
 こんな風に緊張しているんだとか、
 身近に感じられて、
 劣等感が減りました

また

中国で試合をしたときも
アウェーの雰囲気はなく
 温かく応援していただけて、
 すごくうれしかった」。

「勝ちたい」「強くなりたい」への執念と
圧倒的な向上心に支えられた言語習得は、
* コーチの言葉の理解
だけでなく、
* 強い国が持つ効率的な用語の活用
* 競技相手のメンタルも含めた理解
* 会場の雰囲気をも味方にする力

なども同時に運んできてくれるようだ。

それを実際に実行し、結果を残してきた
アスリートの言葉には説得力がある。

 

今年も大晦日。
気ままに続けているブログですが、
本年もご訪問いただき
ありがとうございました。

皆さま、どうぞよいお年をお迎え下さい。

 

 

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2023年12月24日 (日)

山頂はひとつだけ?

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山頂はひとつだけ?

- ヒマラヤ登山における大きな変化 -

 

標高8000mを超える山14座のうち
12座に登頂した写真家石川直樹さんが
雑誌新潮に書いていた

石川直樹
地上に星座をつくる
第121回 山頂はひとつだけ
雑誌新潮 2023年10月号

(以下水色部、本からの引用)

を読んで、2点メモを残しておきたい。

(1) 山頂はひとつだけ?

ヒマラヤ登山には近年、
ある変化が起きている。

空撮技術の発展や登山者が
SNSに頻繁に写真をアップすることで、
8000メートル峰の
頂上付近の様子が詳らかになり、
その山の最高点、
すなわち真の頂上というものが
ビジュアルとして
はっきりわかるようになった

えっ!? それまでは
頂上がよくわからなかったの?

鉛筆の先のように尖った頂は
間違えようがない一方、
ノコギリの刃のように
いくつか小さなピークがある頂は、
最高点がわかりにくい


8000メートル峰のなかでは、
特にダウラギリ(8161メートル)と
マナスル(8163メートル)という
二つの山で
「だいたいこのあたりを
 頂上としていいだろう」
いう地点があり、
そこで登山者が引き返してきた
歴史がある

「だいたいこのあたりを
 頂上としていいだろう」
で下山していたとは。

ものすごい困難に立ち向かっていながら、
肝心なゴールが「このあたり」というのが
なんだか不思議な感じだ。
だって、違っていたら
たとえすぐ近くまで行っていたとしても
登頂した山として
カウントできないのだろうから。

今では本当の頂に
立っていない登山者は
写真などによって検証されて、
登頂者のリストの修正が
迫られる
という事態にもなっている。

14座の登頂者はこれまで50人弱
いたことなっていたのだが、
真の頂に明確に立った人だけを
カウントしていくと、
たった8人になってしまう

登頂者リストの修正!?
なんと、50人弱が8人に!

もちろん「正確な」事実としては
そうなのかもしれないが、
今後の分について、というならともかく
過去分についての「検証」って
意味があるのだろうか?

 

(2) 登山のサポートとヘリの利用

ヒマラヤ登山、昔は準備に
*許可の取得
*ベースキャンプへのアプローチ
*高所順応
*上部のルート工作
等々、多くの苦労を伴っていた。
それが今はずいぶん
様変わりしているようだ。

14座に登る手順はシステム化され、
そうしたことに慣れた
ネパールの会社が
すべてお膳立てをしてくれる


登山者は自国の低酸素室などで
訓練を積み、人工的な環境で
(或いは別の高い山などで)
ある程度の高所順応をしてから
ヒマラヤに辿り着けば、
長い順応期間もなく、
すぐに登攀に入ることができる。

さらには
ヘリの使用が当たり前になり、
ベースキャンプまでの
長いキャラバンも
必要なくなりつつある。

昔はヘリは
費用の高い移動手段だったが、
特にネパールでは安価でヘリを
利用できるようになった。

その結果、
最短登頂記録争いなんてものまで
登場しているとのこと。

ヘリコプターを駆使した
その移動方法に賛否はあるものの、
3ヶ月ちょっとで14座全山を
登り終えてしまった、という記録まで
あるらしい。

そう言えば、11月の新聞記事でも
別な登山家が同じようなことを言っていた。

標高8000m超14座のうち
日本人女性として初めて
13座の頂に立った渡辺直子さん。

2023年11月4日
朝日新聞 be
登山家・看護師 渡辺直子さん

(以下緑色部、記事からの引用)

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の記事の中で、

19年くらいから、
登山経験がなくてもお金を積んで
手厚いサポートで
お膳立てをしてもらい、
次々と8千メートル峰を踏破する
リッチな登山者
が増えました。

それを悪いことだとは思いません。

ヒマラヤ登山も
多様性が増しているのです。

 

私は登山については
何も知らないド素人だが、
ヒマラヤ登山について
* 山頂/登頂の確認
* お膳立て業者とヘリの利用
に関する分野が、
過去とずいぶん変わってきていることは
間違いないようだ。

まさに命がけの挑戦の
何が魅力なのか、
何が苦しいのか、
何が達成感で、
何に駆り立てられているのか。

特に近年の登頂記を読む時は、その背景に
そんな変化が伴っていることを
頭のすみの置いておきたい。

 

 

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2023年12月17日 (日)

名盤 CANTATE DOMINO

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名盤 CANTATE DOMINO

- 美しいエコーに包まれて -

 

今年(2023年)は、
クラシックCDの専門誌「レコード芸術」が
6月20日発行の7月号を最後に休刊となった。

創刊1952年、70年以上も続いていた雑誌も
音楽媒体を含めた環境の変化に
ついていけなかったようだ。

新譜CD店もレンタルCD店も
驚くほど閉店してしまい、
いまや音楽は、
スマホから小さなイヤホンで聴く、が
主流になってしまった。

CDで聴かない、
ステレオのスピーカで聴かない、
そういった時代となった今、
「お薦めCD」だの
「超優秀録音」だのと言った言葉も
事実上死語なのかもしれない。

と、そこまでわかっていながらも
今日は
「超優秀録音」の「お薦めCD」
について書きたいと思う。

紹介したいのは、
毎年12月になるとかけたくなる

CANTATE DOMINO
 Oscar's Motet 合唱団
 Torsten Nilsson, 指揮
 Alf Linder, オルガン
 Marianne Melläs, ソプラノ

スウェーデンのPROPRIUSというレーベル。
ストックホルムのOscar教会で、
1976年に録音されたもの。

オルガンと合唱による
クリスマス音楽をメインにした選曲ゆえ
この時期に聴くのにピッタリだ。

どんなCDか? まずは2曲、どうぞ。

Cantate Domino


White Christmas


パイプオルガンの響き、
合唱の透明感、
ホールエコーの美しさ、
そしてなによりも、
左右のスピーカから広がる
立体的な音場感がすばらしい。

revoxのA77という
民生用のオープンリールデッキと
たった2本のマイクだけで
録音したというのだから、
録音エンジニアは
まさにプロ中のプロなのだろう。

「弘法は筆を選ばず」だ。

Stille Nacht


Lullaby


今回、ブログを書くにあたって
公開されているものもあるかな?と
YouTubeをのぞいてみたのだが、
なんと全曲版まであった。

「超優秀録音」の「お薦めCD」ゆえ
可能ならCDで、かつ
できるだけいいステレオセットの
スピーカから、大きめな音量で
少し離れて聴くことを強くお薦めしたいが、
もしそれが叶わなかったとしても
その録音と音楽のすばらしさは
間違いなく伝わることだろう。

私が輸入盤CDとして購入したのは
もう30年近くも前。
いまだにSACD-HYBRID版が流通しており
簡単に購入できるというのも
より多くの人に
知ってもらえることに繋がるので
ファンとしては嬉しい限りだ。

CANTATE DOMINO 全曲版


12月には、なぜか人の声による
「うたもの」がよく似合う。

 

 

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2023年12月10日 (日)

「電車」を伝えるために何を保存する?

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「電車」を伝えるために何を保存する?

- 保存されたものも生きている -

 

哲学対話で知られる永井芽衣さんが
雑誌群像に書いていた

永井芽衣
世界の適切な保存
16 適切な保存
雑誌群像 2023年8月号

(以下水色部、本からの引用)

を読んでいると、
「記憶」や「保存」について
ちょっと立ち止まって考えてみよう、
という気になる。

もし電車というものが
いつかなくなってしまうのならば、
わたしたちは何を保存するだろうか

いったい何を保存すれば
電車を知らない世界の人々に
電車を伝えられるだろうか。
電車での「体験」を伝えられるだろうか。

電車を知らないどころか
今の人でも・・・

今のかたちですら、
刻一刻と変容している。
子どものころは、
広告は動画ではなかった。
アナウンスはなめらかではなかった。
監視カメラはついてはいなかった。

あのときの電車の体験が何だったのか、
もう思い出せない

永井さんは、こんな歌を挙げている。

河川敷が朝にまみれてその朝が
電車の中の僕にまで来る
岡野大嗣

日常の中の瞬間をとらえた歌だが、
同時に電車に乗るとは
どういうことなのかについての、
貴重な保存の試みとも言える。


完全に止まったはずの地下鉄が
ちょっと動いてみんなよろける
岡野大嗣

電車や地下鉄に関する
図解や技術の説明をいくら詳細に残しても、
それを知らない人が
それに乗っていた人の
こんな共通体験を知ることは
難しそうだ。

技術資料もあるだろう、
文学的表現もあるだろう、
でも、たとえ
過去のものに対してであっても
固定した完璧なパッケージを
作ることはできない。

保存しようと試みつづけることが、
消え去っていくことに
抗うことなのだ。

最初の問いをもう一度思い出してみよう。

「もし電車というものが
 いつかなくなってしまうのならば、
 わたしたちは何を保存するだろうか」

完壁さや不変さを
急いで求めなくてもいい。
保存されたものは生きているのだから、
年を重ねながら、
誰かの中で育つだろう。

保存されたものも生きている、
の感覚。
そしてそれが誰かの中で
育っていく感覚。

保存とは凍結ではないのだ。

育ってさえいれば、
もしかするとこんな思いも
伝えられるかもしれない。

そうだとは知らずに乗った地下鉄が
外へ出てゆく瞬間がすき
岡野大嗣

 

 

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2023年12月 3日 (日)

KAN+秦基博 『カサナルキセキ』

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KAN+秦基博 『カサナルキセキ』

- 2曲同時演奏による合体 -

 

シンガーソングライターのKANさんが、
2023年11月12日に
61歳という若さで亡くなった。
KANさんと言うと、

♪信じることさ 必ず最後に愛は勝つ

というストレートな歌詞で
1991年 第33回日本レコード大賞 を
受賞した大ヒット曲「愛は勝つ」の印象が
あまりにも大きいが、
コロナ禍で萎縮していた空気の中
リリースしてくれたあの曲も忘れられない。

「いろいろな意味で」すばらしい曲なのに
残念ながら広く知られておらず
なんともさみしいので、
ひとりでも多くの方に知っていただきたく
今日はその曲について紹介したい。

ただ、その曲の紹介には
次の4ステップが必須となる。
「いろいろな意味で」の背景も
この4ステップにある。

(1) KAN 『キセキ』
(2) 秦基博 『カサナル』
(3) KAN+秦基博 謝罪会見
(4) KAN+秦基博 『カサナルキセキ』

 

2020年11月、KANさんが「キセキ」
という曲を発表。続いて
2021年1月、秦基博さんが「カサナル」
という曲を発表した。
ますはこれら2曲をYouTubeで聴いてみよう。

(1) KAN 『キセキ』
  2020年11月
  アルバム「23歳」の中の一曲

 

(2) 秦基博 『カサナル』
  2021年1月
  CDシングル「泣き笑いのエピソード」
  の中の一曲

 

初めて聴いた方、これら2曲を聴いて
気づいたことがあるだろうか?

発表後、(1)(2)の2曲が、
同じ収録時間 かつ 同じコード進行
であることに気づいたファンがいたらしい。

で、3か月後の謝罪会見(?)に繋がっていく。
2021年4月23日、「謝罪会見」と称して
2人がこの件について釈明する
パロディ風記者会見動画が
YouTubeで公開された。

(3) KAN+秦基博 謝罪会見

この会見の中で、
*「キセキ」と「カサナル」は、
 のちに合体され「カサナルキセキ」という
 曲になるよう念入りに計画され
 作られた2曲であること、
そして、
*完成版とも言える
 「カサナルキセキ」の配信が
 開始されること、
が明かされた。

この動画、謝罪会見のパロディとしても
よくできていて、
伝えたいことはしっかりと伝えながらも
笑える遊びの要素満載だ。

ここまで入念に準備された(1)(2)(3)を
通して完成し発表された「カサナルキセキ」

2曲同時演奏による合体は
いったいどんな世界を作り出しているのか。
できればヘッドホンでお楽しみあれ。

(4) KAN+秦基博 『カサナルキセキ』

頭韻で始まりながらも
歌詞が重なる部分は最小限、なのに
言葉の拡散と収束の感じが絶妙で
日本語によるポップスの
他にはない世界を見せてくれている。

おおいなる挑戦だったと思うが、
ここまでハイレベルな作品に仕上げる
KANさんと秦さんの
プロの技には敬服しかない。

聴き込めば聴き込むほどに
メロディにもハーモニーにも
歌詞にも声色にも新発見がある、
まさにキセキのような名曲だ。

 

『カサナルキセキ』は、
重なった状態のまま、分解せずに
全体をまるごと味わってこそ
その魅力を最大限に楽しめる楽曲
だが、
それを成立させている緻密な仕組みを
詳細に見てみたい、ということであれば、
双方の歌詞がリアルタイムで表示される
こんな動画もある。

(歌詞が読めるよう表示サイズを
 すこし大きくしています)

カサナルキセキ (KAN+秦 基博)
Covered by YOSHIKANE & Mecori

キセキ(KAN+)
Covered by Mecori+ フル・歌詞付き

 

KANさんのご冥福をお祈りします。

 

 

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