養殖の餌を食べ始めた人工知能(AI)
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養殖の餌を食べ始めた人工知能(AI)
- いったい何が「過去」なのか -
前回に引き続き、
下西風澄さんが
雑誌「新潮」に寄せた文章を
読んでいきたい。
下西風澄
生まれ消える心
― 傷・データ・過去
雑誌新潮 2023年5月号
新潮社
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
「過去」の膨大なデータを学習し、
それらを「理解することなく」
それらしい出力を生成し続けるAI。
「過去のデータ」の
「過去」とはナンなのかを
考えながら先を読んでみよう。
「合成データ(Synthetic Data)」と
呼ばれる手法も注目されている。
つまり、
現在のAIが学習しているデータは
主に、
実際に人間が「かつて」書いた言葉や、
「かつて」描いた絵などの
「過去の(現実の)データ」だが、
それは必ずしも
学習に「最適」だとは限らない。
たとえば、
GPT-3の学習に用いられたデータは
英語版のWikipediaのテキストデータのみ。
まさに既存のテキストを
そのまま使っていた。
そうではなく、
「学習に最適のデータを与えたら」
の発想だ。
学習させるのに最適なデータそのものを
人工的に合成しようという発想だ
(かつて残飯を餌に
牛を肥やしていたのを、
良質な肉の生産のために
専用の餌を作りはじめたのと同じだ)。
実際すでに、秘匿性が高くて
現実のデータを収集することが難しい
金融や医療などのAI開発の領域では、
合成データを利用した学習が
行われている。
1年ほど前に、
将棋の世界におけるAIについて
実戦でまだ指されていないものが定跡!?
という記事を書いた。
その中で、将棋の渡辺名人は
『AIで研究して、
みんな知っているよね』
というのが、今の定跡です」
と明言していた。
これまで
「過去の実戦例から学ぶもの」
とされていた「定跡」は
誰もがAIを使うようになった現在においては
違うものになっているようだ。
人間もAIも
もはや、学ぶべき過去データとは
そもそも過去である必要すらない、
というわけだ。
天然の餌(現実の過去)を
食べて生まれた天然の知能だとしたら、
これからのAIは
養殖の餌(作られたデータ)を
食べて生まれる養殖の人工知能である。
新たな時代のAIが
学習するであろう過去は、
人間が起こしてしまった事実でもないし、
書いてしまったテクストでもない。
それは学習のための
餌に捧げられる過去(データ)である。
過去とは単なるデータなのだろうか?
下西さんは、人間にとっての「過去」を
一種の「傷」と表現して、
AIにおける「過去」とは区別している。
そこから何が見えるのか。
次回、紹介したい。
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