あそこに戻れば大丈夫
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あそこに戻れば大丈夫
- 財産とはまさにこういうもの -
二回続けて、2003年に放送された
テレビドラマ「すいか」について
書いてきたが、もう一回だけ書いて
一区切りとしたいと思う。
冒頭部、DVDと
書籍化された脚本の紹介部分は
前回と同じ。
繰り返しの掲載、ご容赦あれ。
(前記事との重複部分は読み飛ばしたい
ということであれば
ここをクリック下さい)
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夏になると
木皿泉さんの脚本で放送された
テレビドラマ「すいか」を
見返したくなる。
主演は小林聡美さん。
放送は2003年の夏だったので
もう20年も前のドラマということになるが、
今でもブルーレイやDVD-BOXが
On Sale状態なのは、
ファンとして嬉しい限りだ。
三軒茶屋にある
賄いつきの下宿「ハピネス三茶」を舞台に
そこに住む四人の女性を中心に描かれる
小さな物語。
小林聡美さん、ともさかりえさん、
市川実日子さん、浅丘ルリ子さん
が四人をみごとに演じている。
当初シナリオブックも出たが、
たった3千部だったらしく、
手に入れるのが難しかった。
ところがその後、
河出書房新社からの文庫で再発売となり
今は入手可能。
木皿 泉 (著)
すいか 1
河出文庫 <2巻構成>
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに)
Kindleでは「合本版」もある。
今日は、上の河出文庫「すいか2」にある
「文庫版あとがき」を紹介したい。
(以下水色部は本からの引用)
前回も書いた通り、
「木皿泉」というのは実際にはご夫婦で、
共同執筆。
「二人」「私たち」
という言葉を使っているのは、
そのせいだ。
執筆時をこんな風に振り返っている。
書く仕事だけでは食べてゆけず、
魚を売ったり
コーヒー豆を売ったりする
パートに出ていた。
いつもお金はなく、
名前も知られず、野望もなく、
二人でしょーむない話をしては
ゲラゲラ笑い、
お金にならない話を考えては
二人で褒めあい、
本をよく読み、ビデオを観て、
食べたい時に食べたい物を食べ、
眠りたい時に眠っていた。
経済的にはともかく
精神的に豊かな時間を
過ごしていたことはよくわかる。
だからこそ
あんな脚本が書けたのであろう。
こうあらねばならない、
というものを捨てていた。
フツーでないことに、
少し焦りもしていた。
でも、自分たちが
おもしろいと思うものは、
けっして手ばなさなかった。
「すいか」を読み返すと、
その時の私たちの生活や
考えていたことが立ち上ってくる。
こんな台本、もう書けないと思う。
いまだに人に会うごとに
「『すいか』観ましたよ」と
声をかけてもらえるらしいが、
そういったヒットは
これまでにない制約を
課してくる面もある。
書くのが遅いのは昔のままだが、
今は木皿泉という名前が少し売れて、
売れればその期待を背負わねばならず、
「すいか」を書いていた時のように
全てのものから
解放されることはもうないだろう。
それでも木皿さんは、
次のような素敵な言葉で
この作品を位置づけている。
コワイものなど何ひとつなかった。
これは私たちの財産だ。
何があっても、あそこに戻れば
大丈夫と今も思っている。
そう、創作に限らず、
人生における財産とは
つまりはこういうものなのでは
ないだろうか。
「あそこに戻れば大丈夫」
と思えるものがあることの
なんと心強いことよ。
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