座礁した船を救う方法
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座礁した船を救う方法
- 無理に引っ張れば壊れてしまう -
加藤 典洋 (著)
言葉の降る日
岩波書店
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
において、
著者加藤さんが鶴見俊輔さんについて
語っている言葉を、今日は紹介したい。
おふたりの経歴や業績については
ここでは触れない。
年齢差だけを記すと、
加藤典洋さん (1948-2019)
鶴見俊輔さん (1922-2015)
鶴見さんが26歳年上ということになる。
ふたりは1979年の秋、
カナダのモントリオールで出会う。
加藤さん31歳、鶴見さん57歳のころだ。
その後、鶴見さんから
大きな影響を受けることになる加藤さんだが
二人きりでいたことは
数えるほどしかない。
そのときも、一度を除いては、
ほぼ黙り合っていた。
しかしそれで十分だった。
と書いている通り、
俗に言う「べったり」という関係では
なかったようだ。
加藤さんは、大学卒業後の自分を
「座礁した難破船」のようだった
と言っている。
さて、座礁した船は
どうやったら救えるだろう。
そんなふうに海辺を遠く見る岩礁で
難破したままの船だったのだが、
鶴見さんが私のいる世界の海の水位を
グンと5メートルもあげてくれたので、
社会に出てから8年ほどたっていたが、
世界に復帰することができた。
「世界の海の水位をあげてくれた」
こんな表現ができるなんて。
無理に引っ張ろうとしたら、
船底が破れ、沈んでしまう。
世界中の海が、
すべて5メートル水位をあげないと、
水位はあがらず、
そうでないと、
離礁はかなわないのだが、
鶴見さんと会ったら、
そういうことが起こったのだった。
大きく心を動かされる体験は
人生のさまざまな場面にある。
でも、少し時間が経ってから振り返ると
「そのときだけ」であったり
「そのことについてだけ」であったり
することも意外に多い。
もちろん、仮にそうであったとしても
「いい思い出」や「いい経験」は
人生を支えてくれる貴重なものだけれど。
一方で、まさに
世界の見え方が変わるような体験もある。
思いもしなかった
「価値観」との遭遇、「視点」の発見。
それはまさに「そのときだけ」でなく、
それ以降の人生
すべてに影響を与えてしまうほどの
力をもつことになる。
それがきっかけで、
閉ざされていた世界が
開放されたように感じたり、
急に体が軽くなって
自由に飛び回れるように感じたり。
そのことを、
「世界の海の水位を上げてくれた」
と表現することのなんと的確なことよ。
水位が上がったからこそ、
船底を壊すことなく離礁できるのだ。
新たな航海に旅立てるのだ。
世の中には、ともすると
「世界の水位を下げる」ような
「視点」や「価値観」もあるので、
要注意ではあるけれど。
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