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2023年7月30日 (日)

エルピス 希望は悪か

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エルピス 希望は悪か

- 異常【アノマリー】の世界 -

 

小説を読んでいて
思わず声が出てしまったのは
何年ぶりだろう。

エルヴェ ル・テリエ (著)
加藤 かおり (翻訳)
異常【アノマリー】
早川書房

(以下水色部、本からの引用)

どこかしっくりしないまま
登場人物が次々と紹介される、
そんな導入となっている第1部の最後で、
しっくりしなかった理由とともに
明かされる事実には、
思わず声がでるほどびっくりさせられた。

なので、これから読もう、という方には、
いわゆるスジに関する事前情報なしで
読み始めることをお薦めしたい。

もちろん謎解きミステリーではないので
「それ」自体が
この小説の魅力ではないし、
「それ」から始まる第2部以降は
さらに豊かな想像力で
支えられているのだけれど、
驚き、という意味での要素は
まさに第1部の最後にある。

というわけで、
「それ」には触れないが、
第2部以降、
まさに本筋とは関係ないところで、
書き残したいような
印象的な表現が多かったので、
一部紹介したい。

 

まずは、軽くコレから。

(1) 私自身が技術者で、
理系人間が苦労させられる、に
敏感なせいかもしれないが。

「なぜって、なぜ科学者だけが
 いつも夜なべ仕事

 しなきゃならないんです?」


(2) こんな露骨な表現もでてくる。
どこぞの元大統領の顔が浮かんで
ニヤけてしまう。

大統領はあんぐりと口を開けている。
その姿は、金髪のかつらを被った
肥えたハタのようだ。


(3) 小説の中とはいえ、
あの人気キャラクタを実名(!?)で
「サタンの創造物」と
言ってしまうある種の勇気も。

しかし、あんた方の神学者、
ムハンマド・アル・ムナジッドは
ミッキーマウスを〝サタンの創造物〞と
呼んだ気がするんだが


(4) 宗教や哲学者についても
さらには
フランスでのトークショーについても
皮肉たっぷり。 

宗教が教義にもとづく
偽りの回答を人びとに授け、
哲学が抽象的で誤謬に満ちた答えを
提示する
からだ。

世界中でトークショーが
頻繁に開催されるが、
とりわけ盛況なのはフランスだ。
フランスでは
メディアに露出する哲学者の数が
ずば抜けて多い。


(5) 今後「運命」という言葉を使うときは
思わず思い出してしまいそうなひと言も。

わたしは〝運命〞という言葉が
あまり好きではありません。
それは矢が突き刺さった場所に、
あとから的を
描き足すようなもの
ですよ


言葉という意味では、
次の部分もはずせない。

(6) 古代ギリシャ神話に登場する
「パンドラの箱」について。

神ゼウスから
開けることを禁じられた
「パンドラの箱」。
ところが、パンドラは
好奇心に負けて
ゼウスの言いつけに背き
箱を開けてしまう。

すると

箱のなかから
人類にとっての悪が
一斉に飛び出してきた


老い、病気、戦争、飢餓、狂気、
貧困…。

そのなかにひとつ、
逃げ出すにはのろますぎたのか、
はたまたゼウスの意思に従ったのか、
箱のなかにとどまった悪があります
それの名前を憶えていますか?

昨年(2022年)、カンテレの
ドラマのタイトルにもなっていた
アレだ。

〝エルピス〞- 希望ですよ。
これこそ悪のなかでも
もっとも始末の悪いもの
です。
希望がわたしたちに
行動を起こすことを禁じ、
希望が人間の不幸を
長引かせる
のです。

だってわたしたちは
反証がそろっているにもかかわらず、
〝なんとかなるさ〞と
考えてしまうのですからね。
〝あらざるべきこと、起こり得ず〞の
論法ですよ。

ある見解を採用する際に
わたしたちが真に自問すべきは、
〝この見解に立つのは
単に自分にとって
都合がいいからではないか、
これを採用すれば
自分にどんなメリットがあるのか?〞
という問いです」

ちなみに、2022年のドラマのタイトルは
「エルピス —希望、あるいは災い—」

それにしても
「希望が人間の不幸を長引かせる」とは。
でも、
「反証がそろっているにもかかわらず」
やってしまうことは確かにある。

それは「悪」の仕業なのだろうか?

 

この本、読み終わってから
Amazonへのリンクにも使われている
装画(ブックカバーの表紙の写真)を
改めて見るとちょっとドキッとする。

まさに本の内容を象徴するような
ほんとうによくできた写真だ。

 

 

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