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2023年4月 2日 (日)

迷子が知性を駆動する

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迷子が知性を駆動する

- 「危機」か「新たな地図」の契機か -

 

雑誌 新潮 2021年7月号に
対談 藤原辰史+森田真生
「危機」の時代の新しい地図

(以下水色部、本からの引用)

が載っている。

農業史に詳しい藤原さんと
数学に詳しい森田さんという
めずらしい組合せによる対談だ。

その中で、題名にも含まれている
「地図」について
ちょっとおもしろいやり取りがあったので、
今日はその部分を紹介したい。

 

「ESP Cultural Magazine」という
日本で発行されていながら
全文英語のカルチャーマガジンに
アーティストの
オラファー・エリアソン
(Olafur Eliasson)

詩人で認知科学者の
プリーニ・サンダラリガム
(Pireeni Sundaralingam)
の対話が掲載されていて

その中で次のような
興味深い指摘がされていました。

すなわち、現代は誰もが
スマートフォンを
携帯するようになったことで、
「自分の現在地を見失う
 (ロストになる)」感覚を
忘れてしまった
のではないかと。

グーグルマップをはじめ
それらマップアプリを起動することで、
私たちはいつでも自分の現在位置を
正確に知ることができるようになった。

それが革命的な便利さを
もたらしてくれていることは認めつつも、
森田さんはこうコメントしている。

しかしその一方で、
「ロストになる可能性」が
無くなったことは、
人間の知性に大きなインパクトを
与える可能性があると
僕は考えています。

なぜならば、
生き物の知性は基本的に、
「自分の居場所がわからない」
状況でこそ働いてきた
からです。

古代の人類が
サバンナを彷律っていたときは、
感覚のセンサーをすべて開いて、
星々などの
自然現象を手がかりとしながら
「地図のなかの現在地」が
わからないまま旅をしていたでしょう。

「迷子の状態」であることは、
生き物にとっては知性が駆動する
条件ですらあるのではないか。

迷子が知性を駆動する、か。

ここでおもしろいのは、
「地図は確定したひとつのものではない」
ということ。 

先程藤原さんが例に挙げてくれた
「虚数」に関して言えば、
虚数と出会ったときの数学者は、
これを位置付ける「地図」を
持ち合せていませんでした。

虚数というものが何を意味し、
どういう広がりを持つ可能性があるか、
まったくわからなかった。

実は「数学が好き」と思う人と、
「苦手」と思う人の大きな分かれ目は、
「地図がないこと」を
ポジティブに捉えられるかどうか

にあるかもしれないと思うんです。

地図そのものを探す旅、
それを楽しむことだってできる。

よく「分数の割り算から
算数が嫌いになりました」という話を
聞くのですが、これも、
それまで数を理解するために
使っていた地図の上では、
分数を割ることの意味を
位置付けられないからかもしれません。

今回のようなパンデミックにおいても、
地図上で現在地がわからないことを
「危機」と考えるのか、
それとも「新たな地図」を
手に入れる契機
と思うかで、
捉え方が
まったく異なってくると感じます。

迷子になったとき、
「危機」と捉えるか、
「新たな地図」を手に入れる契機
と捉えるか。

このあと対談は、藤原さんの
地図というのは「支配者の道具」
という話に繋がっていくのだが、
本欄での紹介は
「迷子」と「新たな地図」の話までに
とどめておきたい。

ご興味があるようであれば、
本を手にとってみて下さい。

 

 

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