解析のキーは「ミトコンドリア」「Y染色体」「SNP」
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解析のキーは「ミトコンドリア」「Y染色体」「SNP」
- DNA分析関連用語を学ぶ -
篠田 謙一 (著)
人類の起源 - 古代DNAが語る
ホモ・サピエンスの「大いなる旅」
中公新書
(以下水色部、本からの引用)
は、近年のDNA分析でわかってきた
人類の進化や、地域集団成立のシナリオを
広く解説している本だが、
それらの根拠となる分子生物学や遺伝学、
及びそこで使われる用語については
コラムとして本文から独立させ
簡潔に説明してくれている。
特に、いつくかのキーワードは
本書に限らず、類書で近年
よく見かける用語でもあるので、
今日はそれらについて学びたい。
「遺伝子」
さまざまなタンパク質の構造や、
それがつくられるタイミングを
記述している設計図です。
ヒトは2万2000種類ほどの遺伝子を持つ。
「DNA」
*この設計図を書いている
「文字」に当たるのがDNA。
*DNAと塩基はほぼ同義語
*GATCと4種ある塩基は
GとC, AとTが
それぞれペアになって存在するので、
「塩基対(つい)」と呼ばれる。
*ヒトのもつDNAは全部で約60億塩基対
*設計図が実際に
タンパク質を記述している部分は
2パーセント程度しかない。
大部分が意味のない
言葉の羅列でできていて、
そのところどころに
思い出したように
意味のめる文章を含んでいる、
というずいぶん奇妙なものなのです。
以前紹介した
石浦章一著
「サルの小指はなぜヒトより長いのか」
(新潮文庫)
にも
「私たちの体を作っているDNAの部分は
全体の2%と、非常に少ないんです」
と同じ2%が登場している。
ほんとうに奇妙だ。
「ゲノム」
最小限のセットを指す名称です。
したがってゲノムは
人ひとりをつくるための
遺伝子全体のセットで、
その遺伝子を記述しているのが
DNAという関係になります。
遺伝子は、もちろん
両親から受け継がれたものだ。
この二人分の遺伝子を
シャッフル(組み換え)して
一セットのゲノムをつくり、
配偶者のゲノムとあわせて
子孫に伝えています。
つまり子どもは、
両親から半分ずつの
遺伝子を貰うことになります。
しかし、そこには
「半分ずつ」ではない例外が2つある。
「例外その1:ミトコンドリア」
ミトコンドリアのDNAで、
これは母親のものが
そのまま子どもに受け渡されます。
「例外その2:Y染色体」
遺伝子の存在するY染色体で、
これは父親から息子に
受け継がれることになるのです。
「系統解析」
それぞれ母から子どもへ、
父から息子へと
直線的に受け継がれていきます。
したがってその多様性は、
もともとはひとつのDNA配列から
生まれたものなので、
その変化を逆にたどると
祖先を一本道で
さかのぼることができます。
この方法を「系統解析」と呼ぶ。
「祖先を一本道で
さかのぼることができる」
そんなルートがあるなんて。
「ハプロタイプ」
Y染色体の配列を
ハプロタイプと呼びます。
(中略)
集団の起源などを考える際には、
ある程度さかのぼると
祖先が同じになる
ハプロタイプをまとめて、
ハプログループとして
取り扱うことにしています。
母系をさがのぼることが、
ミトコンドリアDNAの系統解析で可能なので
まさに一本道で
共通祖先にたどり着けることになる。
アジア集団の祖先がアフリカ集団にいた、
といったことが明確に示せるわけだ。
加えて、もうひとつのキーワードが
「突然変異:一塩基多型(SNP)」
突然変異が起こります。
ヒトのDNAの配列には、
およそ1000文字にひとつの割合で
変異があることが知られており、
この変異を
一塩基多型(SNP)と呼びます。
SNPは交配によって
子孫に受け継がれていきますから、
新たに
突然変異によって誕生したSNPは
婚姻集団の中に
広がっていくことになります。
SNPを共有している集団かどうかを
調べることで、
集団同士の近縁性を知ることができる。
「ミトコンドリア」「Y染色体」
そして「突然変異:SNP」。
これらに関する遺伝における
基本的なしくみを知るだけでも
系統解析やSNP解析の意味が
よりよく理解できるようになる。
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