« 学術論文に「人種」は使えない | トップページ | 研究者から見た「次世代シークエンサ」 »

2023年4月23日 (日)

ゲノム解析が歴史解釈に与える影響

(全体の目次はこちら


ゲノム解析が歴史解釈に与える影響

- 遺伝子研究と政治形態の関係 -

 

篠田 謙一 (著)
人類の起源 - 古代DNAが語る
ホモ・サピエンスの「大いなる旅」
中公新書

(以下水色部、本からの引用)

を読みながら
「ミトコンドリア」「Y染色体」「SNP」
学術論文に「人種」は使えない
などについて書いてきたが、
本には、ゲノム研究が
歴史の解釈に影響を与えた例について
たいへん興味深い話があったので、
今日はその部分を紹介したい。


世界史でも日本史でも、
私たちが学校で習うのは、
文化や政治形態の変遷です。

他方で、ヒトの遺伝子が
どのよう変わっていったのかについては
考えることはありませんでした。

政治形態の変遷と遺伝子研究、
いったいどんな関係があると言うのだろう。

次の例で見てみよう。

「弥生時代になって
 古代のク二が誕生した」
という言い方をします。

このように表現すると、
日本列島に居住していた人びとが、
弥生時代になって自発的にク二を
つくり始めた
と考えがちです。

「自発的」かどうかはともかく
基本的には確かにそう考えることが
自然な気がする。

と言うか、
ほかにどんな可能性があるというのだろう。

けれども、
これまでのゲノム研究の結果からは、
おそらくその時代に大陸から
ク二という体制を持った集団が
渡来してきたと考えるほうが
正確だ
ということがわかっています。

古代ゲノム解析は、
これまで顧みられることが
あまりなかった文化や政治体制の変遷と
集団の遺伝的な移り変わりについて、
新たに考える材料を
提供してくれているのです。

なるほど。
大きな変化の前後で、主役であるヒトが
入れ替わっている可能性
もあるわけだ。

文化と集団(ヒト)の関係性ついて、
ちょっと整理しながら引用すると

(1) 文化だけを受け入れて
  集団を構成するヒトは変わらない
  というパターン

(2) 集団間で混血が行われるパターン

(3) 完全な集団の置換

の3パターンがある。

つまり、今回の例で言えば、
「クニ」の発生前後で、
別の集団の渡来を裏付ける
ゲノムデータが収集できたのであろう。

その文化を成立させているヒトは
同じ集団の子孫とは限らないわけだ。

こうした分析について、
文字史料がない地域や時代では、
ゲノムの解析だけが頼りです。

まだまだ実例は多くないようだが

それでも、
これまでまったく考慮されなかった
両者の関係が明らかになっていけば、
文化の変遷に関して
新たな解釈が生まれ、
考古学や歴史学、言語学にも
大きな影響を与えることが
予想されます。

文化の変遷において
主役であるヒトが、ヒトの集団が
たとえ同じ土地であっても
入れ替わっている可能性がある。
そのことを確認できるゲノム解析。

考古学との組合せで
新しい発見につながるかもしれない。
たのしみだ。

 

 

(全体の目次はこちら

 

 

 

 

« 学術論文に「人種」は使えない | トップページ | 研究者から見た「次世代シークエンサ」 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

歴史」カテゴリの記事

科学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 学術論文に「人種」は使えない | トップページ | 研究者から見た「次世代シークエンサ」 »

最近のトラックバック

2023年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ