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2023年4月16日 (日)

学術論文に「人種」は使えない

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学術論文に「人種」は使えない

- 定義も境界もない -

 

篠田 謙一 (著)
人類の起源 - 古代DNAが語る

ホモ・サピエンスの「大いなる旅」
中公新書

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下、水色部は本からの引用)

は、近年のDNA分析でわかってきた
人類の進化や地域集団成立のシナリオを
丁寧に解説している本だが、
そういった遺伝学研究の見地から
「人種」について
非常にクリアな発信をしている。

今日はその部分を紹介したい。

19世紀前半には、
ヨーロッパ人が認識する世界は
地球規模に広がりました。
そして自分たちと異なる
人類集団の存在が明らかとなると、
人間の持つ生物学的な側面に注目して
集団を区分する研究が
始まることになりました。

そこから「人種」という概念が
提唱されたのです。

ところが、
20世紀後半の遺伝学研究の進展は、
この「人種」に対する概念を
大きく変えることになる。

ホモ・サピエンスは
実際には生物学的にひとつの種であり、
集団による違いは認められるものの、
全体としては連続しており、
区分することができない
ということが明確になったのです。

そもそも種という概念自体も、
それほど生物学的に厳密な定義が
できるわけではないようだ。

よく用いられる種の定義として、
「自由に交配し、
 生殖能力のある子孫を残す集団」
という考え方
があります。

これにしたがえば、
人類学者が別種と考えている
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人、
デニソワ人のいずれも、自由に交配して
子孫を残している
ことから
同じ種の生物ということになり、
別種として扱うことはできなくなります。

おそらく他の原人も
すべて私たちと同じ種として
考えなければならなくなるでしょう。

種の定義というのは、
現生の生物に当てはめているものなので、
時間軸を入れると定義があやふやに
なってしまうようだ。

「種」という概念さえ
厳密に定義できないのですから、
その下位の分類である「人種」は、
さらに生物学的な
実体のないものになるのは当然です。

前回の用語解説にあった
SNP解析の結果においても、
ヨーロッパから東アジアにかけて
現代人の地域集団は
連続していてどこにも境界がない

人種を区分する形質として
よく用いられる肌の色にしても
連続的に変化しており、
どこかに人為的な基準を設けないかぎり
区分することはできません。

人種区分は、
科学的・客観的なものではなく、
恣意的なものだということを
知っておく必要があります。

「恣意的」という言葉を
篠田さんは使っている。
確かにそれでは科学的な議論はできない。

もともとは
ヒトの生物学的な研究から
導かれた区分である「人種」ですが、
現在では
自然科学の学術論文で
用いられることはありません


もし使っている研究があるとすれば、
それは科学的な価値の低いもの
判断できます。

「人種」という言葉を使った
自然科学の学術論文があれば
それは科学的な価値の低いものだ、
とまで言い切っている。

ゲノムデータから
集団同士の違いを見ていく際には、

同じ集団の中に見られる
遺伝子の変異のほうが
他の集団との
あいだの違いよりも大きい


ということも
知っておく必要があります。

同じもの、つまり共通性を調べるのか、
違いを調べるのか。

人の優劣を決める要因が
「違っている」ものの中にある、
と考えることは妥当なのか。

単なる研究成果の解説ではなく、
多くの視点・問題点を提供してくれる
終章となっている。

 

 

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