「ノアの大洪水説」を覆す
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「ノアの大洪水説」を覆す
- ダ・ヴィンチの豊かな発想 -
以前録音したNHKラジオの番組
カルチャーラジオ
「過去と未来を知る進化生物学」(2)
「生物とは何か(1)
昔は地球も生物だった?」
古生物学者・更科功
2022年1月14日放送
の回を、
次の3つのキーワードに絞って紹介したい。
<Keyword_1:地球が生きている証拠>
<Keyword_2:ノアの大洪水説を覆す>
<Keyword_3:ボウフラがわく、の意>
内容は番組のメモをまとめたものだ。
名画「モナ・リザ」の作者として知られる
レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)は
今から500年以上も前の
フィレンツェに生きた芸術家だ。
芸術だけでなく科学全般あらゆる分野で
多くの業績を残している。
さて、ダ・ヴィンチ。
彼は当時「地球は生物だ」と考えていた。
これは、特別な考え方ではなく、
当時のフィレンツェの知識層では
そう考えていた人は多かったという。
<Keyword_1:地球が生きている証拠>
ダ・ヴィンチは単に
「地球は生物だ」と考えるだけでなく
「生きている証拠」を掴もうとしていた。
「生きているとは何だろう?」
人間の体は
心臓よりも上部をケガしても血が出る。
つまり液体(血液)が下から上に行っている。
このことが、
生物の特徴のひとつなのではないか、
と考えたわけだ。
名画「モナ・リザ」は
手前に女性と背景に大地が描かれている。
「人間の血液の循環と
地球の水の循環を対比させて
モナ・リザを描いた」と
ダ・ヴィンチ自身が、
手稿に残しているらしい。
当時、
地球の山脈は人間の骨、
地球の水は人間の血液にあたる
と考えられていた。
なので、地球の中には
血管のような水路があるのではないか、
そこでは水が下から上に
上っているのではないか、と
ダ・ヴィンチは考え探した。
ところが、残念ながら地球にそのような
水路を発見することはできなかった。
それでもダ・ヴィンチはあきらめない。
当時、万物は次の4つの元素でできていると
考えられていた。
土、 水、 空気、 火
重さもこの順
土 > 水 > 空気 > 火
「水」が下から上に行く水路を
見つけられなかったダ・ヴィンチだが、
「水」より重い「土」が
下から上に行く例があれば、
より軽い「水」が下から上に行く
証拠になるのではないか、と考えた。
これは、すぐに見つかった。
山の上で、海に住んでいた貝の化石が
見つかったからだ。
まさに海の底にあった土が
山の上にまで上がってきた証拠だ。
ところが、周りの人は納得しなかった。
当時、貝殻の化石が
山で見つかることについては
別の説明があったからだ。
それは「ノアの大洪水」
ノアの洪水によって、山の上まで
貝が流されたからだ、と。
<Keyword_2:ノアの大洪水説を覆す>
ダ・ヴィンチは、
この「ノアの大洪水説」を否定する
すばらしいアイデアを提示する。
注目したのは二枚貝。
貝殻は丈夫で簡単には壊れないが、
二枚貝の蝶番部は有機物でできているため
死ぬとたいへんに壊れやすい。
つまり、貝が死んだ状態で流されると
2枚の貝が離れてしまう。
貝がバラバラになってしまうわけだ。
ところが山の上で発見される
二枚貝の化石は、バラバラになっておらず
そのままの状態でみつかるものも多い。
これは、それまで貝が
そこで生きていた証拠。
洪水で流されて来たら
そういう状態では発見されない。
この説明により
「ノアの洪水説」を覆したのだ。
この考え方は、現在の古生物学でも
いまだに使われているという。
<Keyword_3:ボウフラがわく、の意>
現在では、
生物は次の3つの条件を満たすもの
1.仕切りがあること。
2.代謝を行うこと。
3.複製すること。
と一般には言われている。
1は細胞膜、
2は物質とエネルギーの流れ、
3は子孫を残す、
で具体的にイメージしやすいが、
実は昔は「子孫を残す」は
生物の要件として
あまり重要視されていなかったようだ。
それは
「ウジがわく」
「ボウフラがわく」
という言葉を見てもわかる。
親がなくても発生する、
の認識だったということだ。
こんな何気ない言葉からも
当時の生命観を
読み取ることができるなんて。
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