「生を養う」養生所
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「生を養う」養生所
- 「病」と闘うだけでなく -
現役のお医者さんとして活躍する
稲葉俊郎さんが書いた
稲葉俊郎 (著)
いのちを呼びさますもの
—ひとのこころとからだ—
アノニマ・スタジオ
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
から
前回は
「元気になったから病気が治る」
という言葉を紹介したが、
もう少し本を読み進めてみたい。
「Health」(健康)という言葉があるが、
その語源は
古英語「Hal」から来ている。
「Hal」は「完全である」
という意味であり、そこから
「Holism」(全体性)や
「Holy」 (神聖な)や
「Heal」 (癒す)、
「Health」(健康)という言葉に
分化していった。
つまり、
「健康」 (Health)という言葉には、
そもそも
「完全」 (Hal)、
「全体性」(Holism)、
「神聖」 (Holy)
といった意味合いが
含まれているのだ。
稲葉さんは、
古代ギリシャ時代の劇場が残る
世界遺産「エピダウロスの考古遺跡」を
訪問した際、あることに気づく。
おもに注目されている場所だが、
実際に足を運でわかったことは、
場全体が
総合的な医療施設であった
ということだ。
劇場を含む古代遺跡が
「医療施設」とはどういうことだろう。
演劇や音楽を観る劇場があり、
身体技能を競い合い
魅せ合う競技場があり、
さらに眠りによって
神託を受けるための神殿
(アスクレピオス神殿)もあった。
そこは人間が全体性を
回復する場所であり、
ギリシャ神話の医療の神である
「アスクレピオス」信仰の
聖地でもあった。
温泉、演劇、音楽、競技場、神殿・・・。
訪れた人はそこで夢を見る。
夢にはアスクレピオスが出てきて、
夢を見ることで
自分自身の未知の深い場所との
イメージを介した交流が起きる。
聖なる場での
そうした夢の体験そのものが、
生きるための指針や
方向性を得るための
重要な儀式的行為でもあったのだ。
夢までをも対象としたその空間を
稲葉さんは、
芸術のための空間でありながら、
同時に医療のための空間でもあると
確信したようだ。
こういう空間、
全く同じではないものの
考えてみると日本にも古くからある。
日本にやって来た医師ベルツも、
日本では草津温泉などの湯治場が
体や心を癒すための医療の場として
機能していることを、驚きとともに
医学専門誌で発表している。
日本では多くの温泉が療養地として
自然なかたちで愛好されているため、
政府は温泉治療を
進めていくべきであると
力説している。
「温泉」という人々が集う場が
心の全体性を取り戻す場となり、
健康を目指す医療の場となる。
「病」を扱う場所であるが、
江戸時代にあった「養生所」は
まさに「生を養う」ための
場所であった。
稲葉さんは、病院を補う場所として、
「健康」「生」を養う場所が
必要だと感じている。
「養生」
改めて見直してみるといい言葉だ。
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