ストレートのほうが変化球
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ストレートのほうが変化球
- 1秒間に40回転!のバックスピン -
道尾秀介さんの小説に
「N」という作品がある。
道尾秀介 (著)
N
集英社
(以下水色部、本からの引用)
この本、「本書の読み方」として
次のような始まり方をしている。
読む順番は自由です。
どの章から読み始めるのか。
次にどの章を読み進めるのか。
最後はどの章で終わらせるのか。
(中略)
読む人によって色が変わる物語を
つくりたいと思いました。
読者の皆様に、自分だけの物語を
体験していただければ幸いです。
なお本書は、章と章の
物理的なつながりをなくすため、
一章おきに上下逆転させた状態で
印刷されています。
6章で構成されているため、
読む順番の組合せ数は
6P6 = 6! = 6x5x4x3x2x1 = 720
物理的には
720通りの物語が隠れていることになる。
「一章おきに上下逆転印刷」
というのもかなり大胆な決断で
実際にそうやって読んでみると
確かに本のどこを読んでいるのかが
全くわからなくなる。
紙の本でのみ体験できる不思議な感覚だ。
装幀も逆転して読むことを前提に
上下のない表紙デザインとなっている。
と、他に例のない独特な企画部分の説明が
長くなってしまったが、
この本に
野球の投手が投げる球種について
こんなセリフがでてくる。
打者の前で落ちると言われている
フォークボールについて。
もちろん少しは落ちているけれど、
その軌跡はごく普通の放物線に近い。
いっぽうでストレートは
強い上向きの回転がかかっているから、
なかなか落ちずに球が伸びる。
それと比べてしまうので、
逆にフォークボールのほうが、
すごく落ちてるように見えてしまう。
「要するに、どちらかというと
ストレートのほうが
変化球らしいです!」
これ、おもしろい視点だ。
自然落下となる放物線に近いのは
フォークボール。
強力なバックスピンと球速により
ボールの上側と下側に気圧の差が生じ、
その結果、
ボールを上に持ち上げるような
「揚力」が発生、
ボールが浮き上がったように見えるのが
ストレート。
つまり、自然に落ちる軌道から見ると
上方向に「変化」させている。
でも、まっすぐで落ちないボール、
つまりストレートを見慣れた目から見ると
フォークボールはすごく落ちている、
つまり変化しているように見える。
「変化」を考えるときは
基準が何か、を忘れてはいけないことを
改めて考えさせてくれる。
特に、何が「自然」か、は
意外と見誤りがちだ。
目にする機会が多いことが
自然とは限らない。
ちなみに、
「ストレートの回転数って
実際にはどのくらい?」
と思って調べてみたら驚いた。
こちらに具体的な数字があるが、
2400rpm以上の選手が何人もいる。
つまりボールは
1秒間に40回転以上もの
バックスピンがかかった状態で
飛んでいっていることになる。
1秒間に40回転!
コマ以上に速く回転するボールを
時速150km以上で投げられるなんて。
ほんとうにプロの世界とは
想像を超えた世界だ。
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