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2022年4月17日 (日)

「自然な」色って何?

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「自然な」色って何?

- 「自然」と「人工」の線引きは難しい -

 

五感を通して人々の生活や
社会の変化を理解しようという
「感覚史」という研究分野があることを

久野 愛 (著)
視覚化する味覚-食を彩る資本主義
岩波新書
(以下水色部、本からの引用)

を読んで初めて知った。

この本では題名通り、
食べ物を味覚ではなく視覚、
特に「色」から考えている。

「まえがき」には

農業生産者や食品加工業者らは、
その食べ物の「自然な」色を再現し、
時には「自然よりも自然らしく」
見せるための技術やマーケティングに
多大な資金と労力をかけてきた。

という記述があるが、
考えてみると「自然な」というのが
何を指しているのか、と問われると
的確に答えることは難しい。

多くの人が共有する
「自然な」色という認識が、
翻って食品生産者らによる
色作りを規定してきた側面もある。

ここで「自然な」色という時、
それは、
人々がイメージする食品の
「あるべき」色という意味で、
本書では「当たり前の」色と
ほぼ同義に用いている。

よって、
自然に(人工的な操作なく)出現した色
という意味ではない。

ここで注意してほしいのは、
この自然な色やあるべき色という概念は、
ある時代や場所において、
人々が自然・あるべきだと
考えるようになった色
である。

私たちは一般に
トマトの赤やバナナの黄色を
「あるべき」色として認識しているが、
それはそう「考えるように」なった
今の時代の色でもあるわけだ。

本書では

 *フロリダのオレンジと
  カリフォルニアのオレンジ

 *バターとマーガリン

などを具体例として取り上げ
詳細に論じているが、
それらの色を巡る争いを通して

「天然着色料」と「人工(合成)着色料」、
「自然」と「人工」
の対比をまさに「色」から
深く考えさせられる。

たとえば、
「合成着色料」を使って、と聞くと
反応してしまう人も、

例えば牛の餌にニンジンなど
黄色(またはオレンジ色)の
色素を含む植物を混ぜて
食べさせることで、
牛乳およびバターに
黄色っぽい色味をつけることを
推奨した。

着色料は「人工的」な色の操作だが、
餌の材料を調整することは
あくまで「自然な」生産方法
だと
考えたのである。

などには、どうコメントするのだろう?

バターの色素が餌の一部に
由来するものであったとしても、
故意(人工的)にバターの色を
作り出していることに変わりはなく、
「自然」と「人工」の線引きは難しい。

トマトの色素を用いて表現された、
より「自然な」イチゴ色は、
どの程度「自然」であり、
また「人工的」なのだろうか。

 

加えて近年では、着色料の世界において
化学合成によって「天然」着色料を
生成する
方法まで開発されているという。
生成されたものは
合成着色料なのか天然着色料なのか。

 

 *「自然」と「人工」
 *「おいしそうに見える」ことと
  「実際においしい」こと

そういうものの関係を
「色」から考えてみる、
そんな視点を提供してくれる本だ。

 

 

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