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2022年4月

2022年4月24日 (日)

和菓子の色が表現するもの

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和菓子の色が表現するもの

- 物だけでなく四季や自然も -

 

前回
食べ物の色について深く語っている

久野 愛 (著)
視覚化する味覚-食を彩る資本主義
岩波新書

(以下水色部、本からの引用)

を紹介したが、
本文中のコラム「和菓子の美学」に
印象的な言葉があったので
ここで紹介したい。

 

和菓子の意匠・菓銘では、
季節感を抽象化したものとともに、
自然を摸したものが多い。
動植物の姿形を真似たり、
自然現象(春霞など)や
風景を表現したもので、
カラフルな色づけがなされたものも
多くみられる。

例えば、
透明感のある水色は涼しさを伝え、
朱色の紅葉に似せた菓子からは
秋を感じる
ことができる。

つまりここでの色は、
同じ「自然の色」と言っても
完熟のオレンジの色、といったものとは
違う「自然の色」だ。

和菓子が表す自然の中には、
実際には食べられない自然
(例えば川の流れや金魚など)も
含まれており、
必ずしも「おいしそうな」色として
作られているわけではない


この意味で和菓子は、
自然のミニチュア化
だといえる。

菓子そのものを花や動物、
自然現象などの自然に見立て、
見る人・食べる人に四季や自然を
感じてもらう
ためのものである。

菓子で、
草花や動物といった物だけでなく、
季節や自然現象をも
表現しているところが
まさに和菓子の奥深い魅力だ。

和菓子に込められた自然の美学は、
その色・形に留まらず、
菓銘や、見る・食べる人の
教養や感性をも含めたものだといえる。

例えば茶席では、
菓子の意匠・菓銘の意味や趣向について
会話を交わすことも
重要な茶の湯の楽しみの一つである。

教養、感性といった
素養に支えられて
色と自然を感じ、愛でる美学は
さらに深まっていく。

以前、
和菓子のおいしさを表わす言葉
の中で、
和菓子の魅力を「水」「季節」「名前」
などの観点から語っていたコラムを
紹介したが、
あの小さな和菓子には
「見た目の美しい美味しい菓子」
を越える大きな魅力が詰まっている。

 

 

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2022年4月17日 (日)

「自然な」色って何?

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「自然な」色って何?

- 「自然」と「人工」の線引きは難しい -

 

五感を通して人々の生活や
社会の変化を理解しようという
「感覚史」という研究分野があることを

久野 愛 (著)
視覚化する味覚-食を彩る資本主義
岩波新書
(以下水色部、本からの引用)

を読んで初めて知った。

この本では題名通り、
食べ物を味覚ではなく視覚、
特に「色」から考えている。

「まえがき」には

農業生産者や食品加工業者らは、
その食べ物の「自然な」色を再現し、
時には「自然よりも自然らしく」
見せるための技術やマーケティングに
多大な資金と労力をかけてきた。

という記述があるが、
考えてみると「自然な」というのが
何を指しているのか、と問われると
的確に答えることは難しい。

多くの人が共有する
「自然な」色という認識が、
翻って食品生産者らによる
色作りを規定してきた側面もある。

ここで「自然な」色という時、
それは、
人々がイメージする食品の
「あるべき」色という意味で、
本書では「当たり前の」色と
ほぼ同義に用いている。

よって、
自然に(人工的な操作なく)出現した色
という意味ではない。

ここで注意してほしいのは、
この自然な色やあるべき色という概念は、
ある時代や場所において、
人々が自然・あるべきだと
考えるようになった色
である。

私たちは一般に
トマトの赤やバナナの黄色を
「あるべき」色として認識しているが、
それはそう「考えるように」なった
今の時代の色でもあるわけだ。

本書では

 *フロリダのオレンジと
  カリフォルニアのオレンジ

 *バターとマーガリン

などを具体例として取り上げ
詳細に論じているが、
それらの色を巡る争いを通して

「天然着色料」と「人工(合成)着色料」、
「自然」と「人工」
の対比をまさに「色」から
深く考えさせられる。

たとえば、
「合成着色料」を使って、と聞くと
反応してしまう人も、

例えば牛の餌にニンジンなど
黄色(またはオレンジ色)の
色素を含む植物を混ぜて
食べさせることで、
牛乳およびバターに
黄色っぽい色味をつけることを
推奨した。

着色料は「人工的」な色の操作だが、
餌の材料を調整することは
あくまで「自然な」生産方法
だと
考えたのである。

などには、どうコメントするのだろう?

バターの色素が餌の一部に
由来するものであったとしても、
故意(人工的)にバターの色を
作り出していることに変わりはなく、
「自然」と「人工」の線引きは難しい。

トマトの色素を用いて表現された、
より「自然な」イチゴ色は、
どの程度「自然」であり、
また「人工的」なのだろうか。

 

加えて近年では、着色料の世界において
化学合成によって「天然」着色料を
生成する
方法まで開発されているという。
生成されたものは
合成着色料なのか天然着色料なのか。

 

 *「自然」と「人工」
 *「おいしそうに見える」ことと
  「実際においしい」こと

そういうものの関係を
「色」から考えてみる、
そんな視点を提供してくれる本だ。

 

 

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2022年4月10日 (日)

AI・ビッグデータの罠 (3)

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AI・ビッグデータの罠 (3)

- 「規模拡大が格差拡大を助長」 -

 

キャシー・オニール (著)
 久保尚子 (翻訳)
あなたを支配し、社会を破壊する、
AI・ビッグデータの罠
インターシフト

(以下水色部、本からの引用)

を読んで、
現在社会で使われている
AI・ビッグデータを利用した
システムが持つ問題点を学ぶ3回目。

 * 「エラーフィードバックがない」
 * 「類は友を呼ぶ、のか」

に続くキーワードは、

keyword_3「規模拡大が格差拡大を助長」

 

これまでの記事でも書いた通り、本には
数学破壊兵器による破壊の状況が
いくつも並べられている。

効率性と公平性を謳いながら、
その陰で、高等教育を歪め、
人々を借金に駆り立て、
大量投獄に拍車をかけ、
人生の節目ごとに貧しい人々を苦しめ、
民主主義の土台を蝕んでいる

この現状を変えるには、
数学破壊兵器の一つひとつに対処し、
順に武装解除していくしかないように
思われる。

仮に各システムに問題があったとしても、
なぜ「民主主義の土台を蝕んでいる」
とまで表現されるほど、絶望的な状況に
なってしまうのであろう。


一般に、
特権階級の人ほど対面で評価され、
庶民は機械的に評価される

という面があることも関係している。

この「機械的に」に
数学破壊兵器が利用されることが
多くなっているからだ。

そのうえ、デジタルであったり
ネットワーク環境であったりという
システムの基盤自体が
より問題を大きくしている。

問題は、これらの数学破壊兵器が
互いに絡み合い、
補強し合っていること
だ。

貧しい人々ほど、
クレジットの状況は悪く、
犯罪の多い区域で
自分と同じように貧しい人々に
囲まれて暮していることが多い。

その事実を示すデータが
数学破壊兵器の暗黒世界に
一度でも流れれば

低所得層向けサブプライムローンや
営利大学の略奪型広告に
追い回されるようになる。

システム間の補強が、つまり
システム間でのデータの流用や共用が
どうしてそんなに簡単に
許されてしまっているのか、の疑問は
本文を読んでも解決されないのだが、
元データがデジタル化されている以上
どんな理由であれ
管理面での制限がはずれてしまえば
システム間での流用や共用は
技術的には簡単だ。

警官による警備が強化され、
すきあらば逮捕されるようになる。

有罪判決を受けることになれば、
刑期は通常より長くなる。

これらの情報は、さらに
別の数学破壊兵器へと引き渡される。

1つ目の数学破壊兵器で
不利な状況に追いやられた人々は、
別の数学破壊兵器でも
高リスクと評価され、
標的にされやすくなり、
就職の機会を奪われるようになる


こうなると、
住宅ローンや自動車ローンなど、
あらゆる種類の保険で
金利が跳ね上がる。

すると、
クレジットの格付けは一層低下し、
モデリングによる
死のスパイラルから抜け出せなくなる。

つまり、数学破壊兵器の世界では、
人々は貧困であるがゆえに、
ますます危険で
お金のかかる生活に
追いやられていくようになる。

システムの「規模拡大」が
格差をさらに拡大する
「死のスパイラル」を生み出してしまう。

 

ビッグデータは過去を成文化する。
ビッグデータから未来は生まれない。
未来を創るには、
モラルのある想像力が必要であり、
そのような力をもつのは
人間だけだ


私たちはアルゴリズムに、
より良い価値観を明確に組み込み、
私たちの倫理的な導きに従う
ビッグデータモデルを
作り上げなければならない。

それは、場合によっては
利益よりも公平性を優先させる
ということでもある。

* データを使って
  何をしようとしているのか?
* 使おうとしているデータは
  対象を正しく表現したものなのか?
* システムのアウトプットは
  間違っていなかったのか?
* 安易に他のシステムのデータを
  使おうとはしていないか?

極めて初歩的な内容への
フィードバックでさえ
暴走を始めたシステムでは、
「効率・利益」という名のもとに
どれも機能しなくなっているようだ。

それを修正できるのは技術ではない。

 

おまけ:
本書は米国社会をベースに書かれているが、
本文に何度も登場する「営利大学」の話、
妙に気になってしまった。
「教育の機会」という大義名分を隠れ蓑に
(AI・ビッグデータを使った
 「システムの問題」とは別に)
「学資ローン」と「大学」の間には
大きな大きな問題があるようだ。

 

 

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2022年4月 3日 (日)

AI・ビッグデータの罠 (2)

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AI・ビッグデータの罠 (2)

- 「類は友を呼ぶ、のか」 -

 

キャシー・オニール (著)
 久保尚子 (翻訳)
あなたを支配し、社会を破壊する、
AI・ビッグデータの罠
インターシフト

(以下水色部、本からの引用)

を読みながら、
今、社会で使われている
AI・ビッグデータを利用した
システムが持つ問題点を学ぶ2回目。

前回書いた、
 * 「エラーフィードバックがない」
に続くキーワードは、

keyword_2「類は友を呼ぶ、のか」

 

システムが導入される前から、
たとえば銀行家は、
借金を申し込みにきた人物を評価する際に、
住宅ローンを背負う能力とほとんど、
あるいはまったく関係のない
さまざまなデータポイントを検討していた。

人種による有利・不利の他、
父親に犯罪歴があれば不利になり、
毎週日曜日に教会に行く習慣があれば
有利になった。

このようなデータポイントは、
すべて代理データである。

財務責任能力を調べようと思ったら、
数字を冷静に検討すればいい
(まともな銀行家は
 必ずそうしていた)。

それなのにそうせず、
人種、信仰、家族関係と
財務責任能力とのあいだにある
相関を見ていた


そうすることで、銀行家は相手を
「個人」として精査するのを避け、
「集団」の一員として見ていた 
- 統計学用語では
  これを「バケット」と呼ぶ。

「あなたとよく似た人々」が
どんな人たちなのかを考えたうえで、
その人々が信用できるかどうかを
判断した。

このバケットの考え方は
システム作成時にも導入された。

つまり、eスコアのモデル作成者は、
「あなたは、過去に
 どのような行動を取りましたか?」 

と質問すべき時に、質問をすり替えて、

「あなたと似た人々は、過去に
 どのような行動を取りましたか?」

という質問の答えを探し出して
ごまかそうとしていたのだ。

この質問の差はどんな問題を
生むことになるだろう?

この2つの質問の違いは大きい。

たとえば、
移住してきたばかりで
質素な生活をしているが
非常に意欲的で責任感の強い人物が、
起業準備をしていて、
初期投資のために資金を借りようと
していたとする。

さて、
この人物に賭けてみようという人は
現れるだろうか? 

おそらく、移民という属性と
質素な生活行動をデータとして
取り込んだモデルでは、
この人物の有望さに気づけないだろう。

もちろん、代理データだから悪い
というわけではない。

念のために言っておくが、
統計学の世界では、
代理データは役に立つ存在
だ。

類は友を呼ぶもので、確かに、
似た者同士は
同じような行動を取ることが多い。

(中略)

このような統計モデルは、
見かけ上は有用であることが多く、
うまく活用すれば、効率も収益も上向く。

だからこそ投資家は、
大勢の人をそれらしい「バケット」に
分類する科学的なシステム

倍賭けする。ビッグデータの勝利だ。

問題は、起こりうる間違いに対して
前回も書いた通り
「適切なるフィードバックが
 かからない」
という点にある。

しかし、誤解され、誤ったバケットに
分類された人物はどうなるのか? 

そういうことは必ず起きる。

しかし、その間違いを正す
フィードバックは存在しない。

統計データを
高速処理するエンジンには、
学習する術がない

選ばれた代理データは正しいのか?
「類は友を呼ぶ」と言えるものなのか?
他に適切なデータはないのか?
そして
バケットへの分類は
適正に行われているのか?

そういったフィードバックや
学習ステップがなくても
システムは数字を吐き出しながら
正常(!!)に動き続け、
正しさの確認すらできないような結果を
出し続けている


恐ろしい話ながらも
思い当たる事例はいくつもある。
大きな問題の背景が
かなりはっきりしてきた。

(次回に続く)

 

 

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