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2022年1月

2022年1月30日 (日)

深部感覚と白衣の色

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深部感覚と白衣の色

- 人体と医療に関する軽い二題 -

 

山本 健人 (著)
すばらしい人体
あなたの体をめぐる知的冒険
ダイヤモンド社

(以下水色部、本からの引用)

から前回
「エピジェネティクス」という
興味深い学問分野があることを書いたが、
今日は軽い話題を2件紹介したい。

 

(1)深部感覚・固有感覚

ここで、一つの実験をしてみよう。
右手で握りこぶしをつくり、
親指を立てる。

この状態で目をつむり、
何も見ずに左手で右手の親指を
つかんでみてほしい。

親指の位置を
探し当てるまで時間がかかった、
などという人はいないだろう

そんなことは当たり前だ、
とつい思ってしまうが、
目で見なくても体の各部の位置がわかる、
というのは考えてみると
不思議なことだ

視覚を遮ってもなお
何かのありかがわかるというのは、
その「何か」が「ここにいる」
という情報を
(視覚以外の)何らかの方法で
発信している以外にありない。

これは、
「深部感覚」や「固有感覚」
と呼ばれる感覚
である。

温度覚や痛覚、触圧覚などと比べると、
普段から意識されにくい感覚だ。

意識されにくいどころか、
言われないと意識したことすらない。

深部感覚の受容器は
骨の表面や関節、筋肉、腱などにある。

この受容器が受け取るのは、
関節の曲げ伸ばしの程度、
筋肉の収縮・弛緩の具合、
それぞれの位置に関する情報である。

これらの情報を、
脊髄を通して脳に伝えることで、
私たちは自分の体の位置や姿勢を
認識している
のだ。

体が常に
「位置情報」を発信しているからこそ

目をつむったまま
誰かとじゃんけんをしても、
相手が何を出したのかは
決してわからないが、
自分が何を出したかだけは
正確にわかる。

わけだ。

 

(2)白衣の色
医療従事者は「白い」ものを
着ていることが多い。

だが、手術や処置の際に身につける
使い捨ての物品となると、
断然「青系統」のものが多くなる。

ドラマの手術シーンを思い浮かべると
わかりやすいが、マスクや帽子、ガウン、
手術台にかかったシーツなど、
あらゆるものが薄い青~緑色である

緑色の白衣、という言葉は
考えてみるとちょっとヘンだが
白くない白衣を目にすることは確かにある。

色にもなにか理由があるのだろうか?

実は、青や緑が赤の補色だからである。
血液を見る機会の多い処置では、
医療従事者は赤色を
じっと見ることになる。

もしシーツやガウンが白いと、
視線を移した際、そこに
青緑の残像がちらついて見えにくく
なってしまう


これを補色残像現象という。

そこで、補色である青系統の物品を使い、
残像による視野の妨害と
目の疲れを軽減する
のだ。

なるほど。
補色残像現象の低減に
あの色は効果を発揮しているということか。

薄い青~緑色とは別に
ピンク系の白衣も目にするが
あれにもなにか特別な理由が
あるのだろうか?

 

 

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2022年1月23日 (日)

エピジェネティクス - 世代をこえて

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エピジェネティクス - 世代をこえて

- 生後に獲得した性質は子に伝わらない? -

 

山本 健人 (著)
すばらしい人体
あなたの体をめぐる知的冒険
ダイヤモンド社

(以下水色部、本からの引用)

を読んでいたら、
たいへん興味深い記述があったので
今日はその部分を紹介したい。

よく知られているように

激しい筋力トレーニングをして
筋骨隆々になれば、
筋骨隆々の子が生まれるわけではない。

美容外科手術を受けて鼻を高くすれば、
鼻の高い子が生まれるわけではない。

子に伝わるのは、原則として
DNAに書かれた遺伝情報だけ
である。

遺伝子情報が書き換わってしまう
いわゆる「進化」を
世代間が年単位の長い生き物で
観察することは難しいが、
分単位で次の世代を生み出す細菌類では
その観察も可能だ。
「がん」についても同じことが言える。

がんは抗がん剤によって
一時的に小さくなるが、
完全に消えてしまうことは少ない。
あるときから抗がん剤は効かなくなり、
再びがんは増大に転じる。

(中略)

特定の抗がん剤から
逃れるしくみを身につけ、
耐性を獲得したがん細胞に
置き換わっている
のだ。

偶然生まれた耐性細胞は、
抗がん剤によって自然選択され、
多数派の座を奪ったのである。

より環境に適応できる特徴は
「自然に選択されてきた」結果ではあるが、
そこには必ず遺伝子レベルでの変異がある。
まさに「進化の過程」だ。

ところが、これらの説明のあと、
やや小さな文字でこんな記述があった。

近年、環境因子が遺伝子に影響を与え、
これが次世代に引き継がれる現象
存在することがわかってきた。

これを「エビジェネティクス」という。
限定的ではあるが、
生後に獲得した性質は子に伝わらない、
とする説明は
必ずしも正しくないことが
わかっている

つまり、生後に獲得した性質が
DNAの遺伝子情報の変化を介せず
子に伝わることがある

ということだ。

エピジェネティクスについては

(1) 国立環境研究所
(2) 遺伝性疾患プラス編集部

などで初心者向けに
やさしく説明してくれている。

(2)のリンク先には

エピジェネティクスとは、
DNAの塩基配列を変えずに
細胞が遺伝子の働きを制御する
仕組みを研究する学問です。

とあるが、
塩基配列を変えずに
遺伝子を制御するしくみ
の研究が
進んでいるようだ。


エピジェネティックな変化とは、
遺伝子のオン、オフを制御するために
DNAに起こる化学的な修飾となります。

「修飾」という言葉が
特殊な意味で使われている。

エピジェネティックな修飾は、
細胞の分裂に伴って
細胞から細胞へと保たれることがあり、
場合によっては世代を超えて
継承されることもあります

DNAの塩基配列が変わることなく、
生後に獲得した性質が
子に伝わることが
DNAへの「修飾」によって
実現される場合があるようだ。

なんて不思議で
おもしろそうな世界なんだろう。

私自身はもちろん専門外で
詳しいことは何も知らないが、
今後、注目すべき単語として
「エピジェネティクス」を
メモしておきたい


たとえ詳細はわからなくても、
こういう感度のアンテナが増えることは
読書のたのしみのひとつだ。

 

 

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2022年1月16日 (日)

抜き打ちテストのパラドックス

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抜き打ちテストのパラドックス

- どこが間違っているの? -

 

「抜き打ちテストのパラドックス」
とか
「死刑囚のパラドックス」
とか
「プレゼントの箱のパラドックス」
とか、問題文によって
その呼び名は異なるようだが、
内容的には全く同じ、
ある問題をご存知だろうか。

1940年代にはすでに知られていた
かなり古い歴史のあるものらしい。

初めて聞く、という方のために
代表選手として
「抜き打ちテストのパラドックス」
を紹介させていただきたい。

問題は実にシンプル。

教師が学生に言った。

1.来週の月曜日から金曜日のどこかで
 抜き打ちテストを実施する。
2.抜き打ちテストとは、実施日を
 前日に予測することができない
 テストのこと。


それを聞いた学生Aは
「先生の言う1と2を満たす形で
 抜き打ちテストを実施することは
 不可能である

と結論づけた。

という話だ。

どうしてそういう結論になるのか。
学生の推論のロジックはこうだ。

「金曜日にテストを
 実施することはできない。
 なぜなら、
 木曜日までに実施されなかった時点で、
 テストは金曜日ということが
 確定してしまい、2.を満たす
 抜き打ちテストにならないからだ。

 金曜日に実施できないのだから、
 同様の論理で
 木曜日にも実施できない。

 水曜日までに実施されなかった時点で、
 「金曜日はありえない、
  だったら木曜日」と予測できてしまい
 抜き打ちテストにならないからだ。

 同様に繰り返すと、
 水曜日も火曜日も月曜日も
 実施できないことになる」



「死刑囚のパラドックス」
では死刑執行日を、
「プレゼントの箱のパラドックス」
ではプレゼントの入っている箱の番号を、
抜き打ちテストの曜日の代わりに
使っているだけで、
どれも全く同じロジックで
「執行日に期限があるなら」
「期限までには執行できない」し、
「プレゼントの箱が有限個なら」
「どの箱にも入れられない」
という結論になる。


でも、最初の抜き打ちテストの例で
考えればすぐにわかる通り、
「来週中に、
 (前日に予測することができない)
 抜き打ちテストを実施すること」は、
実際には明らかに可能だ。

「実施できない」と
結論づけた学生のロジックは
いったいどこが間違っているのだろう?

シンプルなことなのに
いまだにうまく説明できない、
長く抱えたままになっている
宿題のひとつだ。

うまい説明をお持ちの方、
ぜひ教えて下さい。

 

 

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2022年1月 9日 (日)

新たな3つの音楽メディア

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新たな3つの音楽メディア

- 増えているのはネット配信だけではない -

 

前回

 烏賀陽弘道 (著)
 「Jポップ」は死んだ
 扶桑社新書

(以下水色部および表とグラフの
 元となる数値・用語は本からの引用)

から「著作権使用料徴収額」の総額を
1998年と2016年の比較で見てみた。

  <表A 著作権使用料徴収額>

Jpop2a
Jpop2ga

CDを中心とした
オーディオレコードの著作権使用料は
ほぼ1/3に減っているが
成長している分野もある。

表Aにおいて増えている
「通信カラオケ」と「ビデオグラム」
にはどんな背景があるのだろう?

 

そこに詳しく触れる前に、
著作権使用料を稼ぎ出している曲、
上位には具体的にどんな曲があるのか
見てみよう。

JASRACは毎年度、
著作権使用料の分配金額ベスト3
JASRAC賞の金・銀・銅賞として
発表・表彰している。

著作権使用料の多寡を元にした
「ヒットチャート」だともいえる。

そのランキングを見て
「ほんと!?」と目を疑ってしまった。
2015年-2017年の上位3曲は・・・

2015年
①「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)
②「進撃の巨人BGM」(アニメ映画の背景音楽)
③「ルパン三世のテーマ'78」(アニメのテーマ曲)

2016年
①「R.Y.U.S.E.I.」(三代目J Soul Brothers)
②「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)
③「糸」(中島みゆき)

2017年
①「糸」(中島みゆき)
②「名探偵コナンBGM」
③「ドラゴンクエスト序曲」

この記事を書くきっかけになった前回
大野雄二作曲「ルパン三世のテーマ」は
ここに登場している。

「ルパン三世のテーマ」は1977年、
「糸」は1992年に発表された曲。
どちらも名曲とはいえ、
38年前、24年前の曲が
ベスト3に入っているということは
いったいどういうことだろう?

 

まずは「ルパン三世のテーマ」。
これがまさに「ビデオグラム」の代表選手で、
「ビデオグラム」とは、
「大半がパチンコ・スロットマシン」

のことらしい。
アニメや歌手の動画や音楽を
再生する機能をもったパチンコ機
(スロット機を含む)を、パチンコ業界では
「版権もの」「タイアップもの」と呼ぶが、
これらが著作権使用料をもたらしている。

いまやパチンコ機は
「音楽再生機」
として、
日本人にとって重要なマスメディアに
なったということだ。

長引く不況に苦しんでいるとはいえ
パチンコ業界(貸玉料基準売上)
1995年 30.5兆円
2015年 23.2兆円

パチンコ産業はコンサート産業の
75倍という巨大な国民的娯楽
なのだ。

そして著作権使用料額でいえば、
パチンコは通信カラオケの約2倍の金額を
著作権者にもたらしている。

「なんだ、パチンコか」と
軽視してはならない。

「巨大な音楽マスメディア」。
それが現在のパチンコの姿である

 

「糸」のほうはどうだろう。

結婚式での音楽の使用から発生する
著作権使用料を専門に扱う
「ISUM」(アイサム)
という団体がある

ロシア人のアブラモフさんが
2013年に立ち上げた一般社団法人だ。

「新郎新婦が安心して人生の
 スタートの記録を残せるよう、
 権利処理の代行をする。
 それがISUMです」

結婚式で使われる音楽についても
記録として残されるビデオも含めて
著作権使用料が回収される仕組みが
今はしっかり機能している。

ちなみにどの程度の費用がかかるかと言うと

披露宴のBGMやプロフィールスライドに
5分未満の曲を使うと、
一曲あたり著作権料200円+
著作隣接権料(複製、演奏・歌唱など)2000円
=2200円である。
ISUMは手数料として
その10%=220円を取る。

最終的には一曲2420円を払う計算

 

もうひとつカラオケ関連で
見逃せないトピックスがある。

カラオケボックス等の施設は
2005年 22万施設
2015年 17万施設
と減っているが、

「老人ホーム」「高齢者住宅」
「デイケア施設」などの
「高齢者介護施設」は増えているのだ。

カラオケは、
誤嚥の改善にも効果があると
「娯楽産業」から「医療・福祉分野」に
進出しているとも言える。

 

上記見てきた通り

新たな音楽メディアとして
姿を現したのが
 「パチンコ」
 「結婚式」
 「高齢者用カラオケ」

だった

増えているのはネット配信だけではない。
著作権料から見ていくと
音楽メディアの変化が
意外な角度から見えてきて
新たな発見、驚きがある。

 

 

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2022年1月 2日 (日)

CD売上げ1/3でも著作権料総額は増加

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CD売上げ1/3でも著作権料総額は増加

- 音楽需要の変化はどこに -

 

明けましておめでとうございます。

備忘録を兼ねた
まさに気ままなブログではありますが、
今年もボチボチ続けていこうと
思っていますので
今後ともどうぞよろしくお願いします。

 

昨年末2021年12月18日の朝日新聞beに
「進化続けるルパンサウンド」
の見出しで、
アニメ「ルパン三世」の音楽を
作曲、編曲している大野雄二さんの
話が出ていた。

記事ではその件には触れられていないが
大野さんの名前を見て
あるトピックスを思い出したので
今年はその話から始めたい。

驚きのトピックスが載っていたのは

 烏賀陽弘道 (著)
 「Jポップ」は死んだ
 扶桑社新書

(以下水色部、本からの引用)

この本の中に、
日本音楽著作権協会(JASRAC)が
毎年度発表している
著作権使用料の分配金額ベスト3
の話が出てくる。

著作権使用料を稼ぎ出している曲
というわけだ。

実は大野さんが作曲した
「ルパン三世のテーマ'78」は
2015年のなんと3位に位置している

77年に作曲された曲が
38年後の2015年に
著作権使用料で第3位とは!

もちろん曲は
アニメを見ないような人でも知っている
よく知られた名曲だが、
それにしても数ある曲の中で第3位とは。
ちなみに2015年の第1位はAKB48の
「恋するフォーチュンクッキー」だ。

著作権使用料、
どうも単なるヒットチャートだけでは
説明できないようだ。

というわけで、
まずは、前提となる音楽市場の動向から
見ていきたい。

 

CDを中心としたディスク市場は
ここ20年で大きく変化した。

日本のオーディオレコード
(CDなど音楽を記録したディスク、
 テープなどの総称)市場の縮小は
深刻である。

過去最高を記録した
1998年には6075億円あった。

それがほほ毎年減り続け、
2016年には3分の1を切る1777億円である
(日本レコード協会)。

20年足らずで
市場の3分の2が消えてしまった

上記引用を含め、
本には数字がいくつも出てくるので、
本の数字を元に簡単な表とグラフを作成、
それらを挟みながら話を進めたい。
(元となる数字も用語も本からの引用)

  <表1 オーディオレコード市場>

Jpop1a

グラフにすると

Jpop1ga

1/3以下になってしまった
CD関連の減り具合はたしかに凄まじいが、
ネット配信等は増えているので
当然ながらこの数字の変化が、
直接音楽産業の衰退を
意味しているわけではない。

こういうとき、私が調べるのは
日本音楽著作権協会(JASRAC)の
統計
である。

同協会はテレビやCM、コンサート、
カラオケ、細かいところでは、
カフェや美容室のBGMで音楽を流せば、
その著作権使用料を徴収する。

そしてそのお金を著作権保持者
(作詞・作曲家だけではなく企業が
 著作権を持っていることもある)
に支払う。

そのための組織である。
その執行が厳格なことで知られる。

その「著作権使用料徴収額」の総額を
同じ1998年と2016年の比較で見てみよう。

  <表2 著作権使用料徴収額>

Jpop2a
Jpop2ga

グラフを見るとわかる通り
オーディオレコード市場に連動して
オーディオレコードの著作権使用料も
ほぼ1/3に減っている。

ところが、総額はむしろ増えているのだ。

何が増えているのだろう?

1998年当時はなかった
インタラクティブ配信、
つまりインターネット配信による
著作権使用料の約100億円は
もちろん今後も伸びるであろうが、
全体の伸びはこれだけでは説明できない。

JASRACの統計から、
1998年-2016年の期間に
2~3倍の伸びを示している項目を
書き出してみた。

テレビ、ラジオなど「放送等」やCATV、
「有線放送」あるいは「映画上映」などは
2.5~2.9倍の増加を示しているが、
これは需要が伸びたからというより
「料率を値上げしたから」というのが
同協会の説明である。

需要の伸び、で気になるのは
表2にある
「通信カラオケ」と「ビデオグラム」
である。

カラオケって増えているの?
ビデオグラムって何?

どちらについても
私の全く知らない事実が背景にあった。

到達できなかった大野さんの
「ルパン三世のテーマ'78」の話も含めて
次回、そのあたりについて紹介したい。

 

 

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