絶えず欠乏を生み出している
(全体の目次はこちら)
絶えず欠乏を生み出している
- あらゆるものを「商品」にするために -
雑誌「中央公論」2021年9月号 に、
豊かな未来のための
「脱成長」戦略
とのタイトルで
独立研究者 森田真生さんと
大阪市立大学准教授 斎藤幸平さん
との対談が載っていた。
(以下水色部、本からの引用)
おふたりの主な研究分野と生年を書くと、
森田さんが 数学で1985年生まれ、
斎藤さんが経済思想で1987年生まれ、
と、研究分野が大きく違う
若き二人の対談だ。
その中にこんなやりとりがあった。
斎藤さんのご著書を読み、
読み、僕自身、自分がいかに
「商品」という発想に
縛られてきたかを痛感しました。
特に印象的だったのが、
カール・マルクスが若いころ、
地元紙に木材盗伐についての記事を
何度も書いていたという話です。
木材盗伐の記事とは・・・
マルクスが1842年に
『ライン新聞』主筆になったころの話
ですね。
当時は資本主義という
新しいメカニズムが、
ドイツの人々の暮らしを
激変させていました。
その象徴が、
森で枝を拾い集める行為を
「窃盗」と断じる法律が
できたことです。
貧しい人々が煮炊きをしたり、
暖をとったりする
薪の材料だった枝は、
マルクスが「富」と呼ぶ、
みんなの共有財産=コモンでした。
それを地主が私有財産として
囲い込んだ。
マルクスはこの法律を
何度も新聞で取り上げ、
資本家が「富」を
「商品」におきかえて
利益を独占する資本主義システムを、
痛烈に批判しました。
元来、土地も森林も河川も、
人々の間で共有・管理される「公」
だったはずだ。
それが、資本主義の勃興期、
私有地として囲い込まれ、
その後、無償だった自然の恵みも
次々と「商品化」されていくことになる。
私たちは資本主義が豊かさを
もたらしてくれると
思い込んでいますが、
実際のところ、
資本家が追求するのは利益であり、
そのために商品の「希少性」が
人工的に生み出されます。
土地や物を囲い込み、
あらゆるモノに希少価値をつけて
利益を得ようとする結果として、
豊かさどころか、
絶えず欠乏を生み出している。
作られた希少性から導き出された
「商品」の「価値」は
たとえそれが高価であったとして
「豊かさ」ではない。
あらゆるものを「商品」とみなす考え方に
あまりにも慣らされてしまっているが、
改めて「価値」や「豊かさ」について
考えてみたくなる象徴的なエピソードだ。
(全体の目次はこちら)
« 内に向かっていく無限もある | トップページ | 「今何が起きているのか」を見つめる感性 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- どんな読み方も黙って受け入れる(2025.01.05)
- 付箋を貼りながらの読書(2024.12.29)
- 後日に書き換えられたかも?(2024.12.22)
- 内発性を引き出してこそ(2024.12.15)
- 生物を相手にする研究(2024.12.01)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 絶えず欠乏を生み出している(2021.10.03)
- 「クーデター本部に顔パス」の外交官(2021.01.03)
- ニュースや数字を通して考えると(2020.05.24)
- 不要不急、お前だったのか(2020.04.12)
- 深谷の煉瓦(レンガ)(2017.04.09)
「社会」カテゴリの記事
- 接続はそれと直交する方向に切断を生む(2024.08.18)
- ついにこの日が来たか(2024.07.28)
- 「科学的介護」の落とし穴 (3)(2024.03.10)
- 読書を支える5つの健常性(2023.11.19)
- 迷子が知性を駆動する(2023.04.02)
コメント