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2021年8月 8日 (日)

「相寄る魂」が作った一冊

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「相寄る魂」が作った一冊

- 立花隆さん、18年後の出版 -

 

ジャーナリスト、ノンフィクション作家の
立花隆さんが、今年(2021年)
4月30日に亡くなっていたことが
6月になってから明らかとなり、7月には
様々な分野からの追悼記事を
目にすることになった。

立花さんは、
政治、宇宙、生命、サル学、臨死体験等々、
多くのテーマに取り組んで
作品を発表してきたが、
徹底した下調べをベースに展開される
内容の濃い本は、どれも
「知の巨人」と呼ばれることが
決して大げさではないことを
痛感させられる、すばらしいものだった。

立花さんの人柄や偉業については
交流のあった方々からの追悼記事で
詳しく紹介されているので、
今日は、少し違った角度からの
エピソードを紹介したい。

以前、本ブログで、
千枚のラブレターと題して、
若かりし立花さんの
ラブレターエピソードを
紹介したことがある。
センセーショナルな著作
「田中角栄研究」の
「まえがき」
にあった
ちょっと意外な(?)思い出話だ。

今日の話は、
立花さん76歳のときの著書
「武満徹・音楽創造への旅」
の「おわりに」
からの
エピソードだ。
(以下水色部、本からの引用)

「武満徹-」は、雑誌「文學界」で
約6年わたって続いていた連載を
まとめたものだが、
連載は1992年-1998年なのに、
出版は2016年。

18年もの隔たりののち、
二段組で780ページにおよぶ大著が
なぜ形になったのか。

そのきっかけになったのは
私が生涯の友と思って
長い間付き合ってきた
O・Mなる女性の死である。

 

O・Mさんは、
あらゆるがんのうちで
最強最悪のがんと言われる
甲状腺の未分化がんだった。

彼女とは長い付き合いがあったので、
最期の二週間ほぼフルに付き添った

 

立花さんと彼女は
8年に渡るがん友だったという。

ほぼ同時にがんになり、がんのこと、
その他もろもろを
しょっちゅう語りあってきた。

しかし今回は側にいても
何もしてやれなかった。

できることは「好きだよ」といって
毎日手を握るだけだった


「治ったらあそこに行こう、
 ここに行こう」と
できもしない夢を一方的に
語るだけだった。

できもしない夢にもニッコリ笑って
うなずいていた。

 

O・Mさんは武満徹さん作曲の名曲
「ノヴェンパー・ステップス」の
尺八奏者・横山勝也さんの高弟子の一人
だった。

本職は箏のお師匠さんで、
尺八は吹かないが、
三味線、胡弓をよくし二胡も弾いた。

箏は華麗で美しく、
地唄、小唄、端唄、
清元の江戸歌謡にも見事な色香があって
男を魅了した。

天はこの人に二物も三物も与えていた

らしい。
邦楽に詳しいO・Mさんには、
連載時、多くの助言解説で
助けてもらっていた。

 

「相寄る魂」という言葉があるが、
彼女との仲はまさにそれだった。

激情をもって愛しあう男と女の間の、
ホレタハレタ的な動きは何もなかったし、
口説き口説かれ的な言葉のやりとりも
全くなかったが、いつのまにか、
二人はごく自然にくっつき、
ただくっついているだけで幸せだった

死の直前、声を失ったO・Mさんの
「あの本お願いね」のくちびるの動き
立花さんは見逃さなかった。

「あの本お願いね」
この言葉が立花さんの心に火を点けた。

この本を完成させないうちは、
向うに行って武満さんに会っても
O・Mに会っても顔向けできないと
思っていたが、
O・Mの没後わずか数週間で
本書を一気完成させることができた。

彼女にはほらちゃんと持ってきたよと、
早く言いたかったのだ

76歳でのこの集中力、このパワー!

立花さん、O・Mさん、
そして武満徹さん、
今頃は分厚い本を囲んで
談笑していることだろう。

立花隆さん、享年80。
お三方のご冥福を改めてお祈りいたします。
合掌。

 

 

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