女帝エカテリーナの偉業
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女帝エカテリーナの偉業
- 200言語の比較語彙集を -
田中克彦 (著)
ことばは国家を超える
―日本語、ウラル・アルタイ語、
ツラン主義
(以下水色部、本からの引用)
から
* フロマージは元フォルマージ
* ロシア語には「熊」がない
を紹介したが、今日はそれに続く3回目。
スケールの大きな話を紹介したい。
つきることのない好奇心を抱き、
それをロシアの所有になった
シベリアの諸民族のもとに、
実際に調査させようと企てた
のは、
ドイツの数学者、
ライプニッツ(1646-1716)
だった。
ライプニッツは
(リクツから言えば、
いくつものことばがあるのは
人類にとってムダなことなのに)
ことに深い関心を寄せ、
(中略)
ロシアのピョートル大帝(1672-1725)に、
征服したシベリア一帯の言語を
調べるよう促していた
が、それは、ロシアを治めた女帝
エカテリーナ二世の時代に
実現することになる。
調査をひきうけたのは、
ベルリン生まれの
P・S・パラスというドイツ人であった。
1787年と1789年に刊行された
『全世界言語比較語彙』
(Linguarum ToriusOrbis
Vocabularia comparativa)
は
200の言語だの方言だのの
単語の比較語彙集であった。
ロシアの女帝になったドイツの女が、
言語学に全く新しいページを開く、
歴史的な大事業を達成したのである。
200の言語の調査!
女帝エカテリーナとは、
どんな人物だったのだろう?
ドイツの田舎貴族の出身であったが、
結婚させられた夫のピョートルが
大人になっても、おもちゃの兵隊の
人形遊びをしているような
頼りない夫だったので、
こんな男に
ロシアをまかせてはおけない、
自分こそが
ロシアの母にならなければならない
と考えて
ロシア語を身につけ、
ロシアの学問を統合推進するための
科学アカデミーを作ったりして、
ロシアを世界の一流国にするために
大いに尽力したのである。
アンリ・トロワイヤの
『女帝エカテリーナ』
(上・下、工藤庸子訳、中公文庫)
が紹介されているので、
今度読んでみたい。
どこかハプスブルク家の
女帝マリア・テレジアを髣髴させる。
ちなみに生没年は
エカテリーナ(1729-1796)
マリア・テレジア(1717-1780)
偶然にも同時代に生きていたことになる。
大きなアウトプットは
続く時代にも
大きな影響を与えることになる。
『語彙集』が刺激となって、
さまざまな未知の言語を集めた
博言集が現れることになった。
有名なものに、
ドイツ人のヨーハン・クリストフ・
アーデルンクが
『ミトリダーテス』に、
約500の言語、方言の見本を集めて、
1806-17年にかけて
刊行したことが知られている。
ミトリダーテスとは
古代ギリシアの王様の名前で、
この人は征服した22の民族のことばを
話すことができたと伝えられ、
この語彙集の名は、その多言語に通じた
人の才にたとえたものであろう。
500言語の博言集、
22の民族のことばを話す王、
寡聞ゆえとはいえ驚かされるばかりだ。
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