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2021年7月25日 (日)

片足と一本足は大きく違う

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片足と一本足は大きく違う

- そして、生まれかわって行く思索 -

 

田中克彦 (著)
ことばは国家を超える
―日本語、ウラル・アルタイ語、
 ツラン主義

(以下水色部、本からの引用)

から

 * フロマージは元フォルマージ
 * ロシア語には「熊」がない
 * 女帝エカテリーナの偉業
 * ラ行で始まる単語がない。ロシアはオロシアに。

を紹介してきたが、
長くなってしまったので
今日で一区切りとしたい。

 

これまで紹介した内容以外にも

外面的な文法形式を
持つことが少なければ少ないほど、
逆にそれだけ、
内的な文法形式は豊かである

といった、
書き手(話し手)だけでなく
読み手(聞き手)との関係も含めて
言語とその変遷を捉えるような
大きな問題提起から

 「片目」のことを
 印欧語では一つの目というが
 ハンガリー語では半分の目と表現する。

 日本語の片目や片足も同じ発想


といった
具体的な単語を通して、
言語の共通性を考えてみるような話題まで
いくつもの視点を提供してくれている。

ふたつで全部と捉えているから片目、
ふたつで全部と捉えているから片足。
背景にあるものの捉え方がにじみ出ている。
無意識に使い分けてしまっているが、
片目と一つ目、
片足と一本足、
は大きく違うのだ。

そんな中、最後の言葉は特に印象的だ。

 

本書では
言語学の基盤に「民族」をおいた
ロシアの
ニコライ・トルベツコーイ(1890-1938)に
多く触れている。

また最終段では、
ジュネーヴという環境で、
ドイツ語を母語とする学生が
フランス語で論文を書くときに出会う
困難について
学生からの相談にのったのがきっかけで
『一般言語学とフランス言語学』
(初版1932年)という書を著した
シャルル・バイイという言語学者も
登場している。

そして、バイイがトルベツコーイに
与えた影響についても。

寡聞にして私は二人の名前を
本書で初めて知ったレベルなので
その業績の偉大さは全くわかっていないが、
田中さんは、ふたりを紹介したうえで
こんな言葉で締めくくっている。

そしでこの二人の巨匠の協働は
かならずや「比較民族文体論」
とでも呼ぶべき新しい領域の開拓に
向かったのではないかと
期待の夢はひろがって行くのである。

すでにこの世に居ないこの二人に、
私はあえて「期待する」と言いたい


その期待の夢を実現するのは、
もちろん、
現代に生きている私たちである。

私たちは二百年、三百年前の
著作を読んで胸をうたれ、
夢をふくらませる。

このようにしてことばの思索は
絶え間なく新しい生命を得て
生まれかわって行く
のである。

亡くなった方に期待している。

それは、
亡くなった方の著作が、思索が
その影響を受けた
のちの世の人たちによって
生れかわって行くことになるから。

そういう世代を越えた
発展と生まれかわりこそが
学問であり、うれしい「期待」だ。

 

 

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