ロシア語には「熊」がない
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ロシア語には「熊」がない
- 元の言葉が忘れられてしまう -
前回の、
* フロマージは元フォルマージ
に続いて、
田中克彦 (著)
ことばは国家を超える
―日本語、ウラル・アルタイ語、
ツラン主義
(以下水色部、本からの引用)
から興味深いトピックスを。
今日は、
簡単なひとつの単語をきっかけに
奥の深い世界を感じてみたい。
クマと
あれだけなじみの深いロシア語に、
元来あったはずのクマを表す単語が
実証されてないことだ。
えっ、どういうこと!?
クマを表す単語がないの?
一文で引き込まれてしまう。
メドヴェーチという
(ロシアのえらい人の名に
メドヴェーデフという名が
よく登場するが、
これはクマさんという意味だ)。
メドが蜂蜜で
ヴェーチは「食うやつ」であり
今では本来のクマにあたる単語は
あとかたもなく消え去り、
この「蜂蜜を食うやつ」という
言い方しか残っていない。
田中さんは、
こんなを思い出話を添えている。
夜になってネズミということばを
言ってならないと
祖母にたしなめられた。
とりわけ「夜、ネズミの悪口を
言ってはならない」と。
ネズミどもが聞いてて、
夜のうちに現れて
米を食い荒らしてしまうからと。
実際に着物がずたずたに噛まれて、
破れていたことがあった。
こういうのを言語学では
「タブー語」ということになっている。
タブーにしている間に、
もとのことばが
忘れられてしまうというのである。
クマについても
もともとそれを指す単語があったはずだ。
ところが、人々が
人間がおそれて口にしなくなった
ため、婉曲に呼んでいた
「蜂蜜を食うやつ」
だけが残って、元の単語が
忘れ去られてしまった、
と考えられているようだ。
よほど迷信深かったのだろう。
ゲルマン語世界には、
ベルリン(Berline)とか
ベルン(Bern)とか、
都市の名前にもber-(クマ)が起源と
考えられる名前が残っているのに
と思ったが、
ふと、次のようにも考えてみた。
このゲルマン語のベアも、
もとは茶色を指すこの語で
本来のクマ(ラテン語ではursus)を
かくしてしまったのかも知れないと。
タブー語について、
集めてある本もあるようだ。
こういう話がたくさん集めてある。
たとえばバナナを食べたあと、
むいた皮を
道端などに捨ててはならない。
その皮を拾って呪いをかけると、
バナナを腹におさめた人間のからだに
大きな害となって現われるからだと
以前、
このブログでも
言霊思想と大山古墳
という記事で、
「言霊思想」に触れたことがある。
まさに、
単にモノを指すだけのものとして、
単なる物質のように
軽々しく扱ってはならない。
のだ。
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