「だから、まわりの話だけしているの」
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「だから、まわりの話だけしているの」
- 古い記憶の再確認 -
ヘミングウェイの小説
「日はまた昇る」
の最後のほうに確かこんなセリフがあった。
「話をすると思い出が消えちゃうよ」
「知っているわよ。
だから、まわりの話だけしているの」
些細なことがきっかけとなり
ウン十年も前に読んだ小説の一節が
急に蘇ってきたのだが、
とにかく古い記憶ゆえ
その正確さには全く自信がない。
読んだときの気分で、
自分勝手に組み立て直して
頭に収めてしまっているのかもしれないし。
そう思うと急に確認してみたくなった。
近くの図書館で検索すると、
文豪の本だけあって在庫分だけでも
新潮文庫、岩波文庫、原書
の3冊がある。
日曜日、いい加減な思い出の
確認作業に出かけてみた。
まずは新潮文庫から。
「その話は
もうしないんじゃなかったかい」
「ついしゃべっちゃうのね」
「あまり話すと、
せっかくの体験が色褪せてしまうぞ」
「だから、肝心な点には
触れずに話してるんじゃない」
岩波文庫では、
「もうその話は
やめるんじゃなかったのか」
「仕方がないじゃない?」
「あんまりしゃべると、
いいとこが消えちゃうぜ」
「まわりの話をしてるだけよ」
英語の原文では、
'I thought you weren't going to
ever talk about it.'
'How can I help it?'
'You'll lose it
if you talk about it.'
'I just talk around it.'
他にもいくつかの訳本が
出回っているようだ。
当時、私が読んだのが誰の訳だったのか
全く覚えていないが、自分の記憶が
大きく間違っていなかったようで、
ちょっとホッとした。
それにしても
たった4行だけを比べてみても、
訳によってずいぶん印象が違うものだ。
色褪せてしまったり、
消えてしまったりしないように
まわりの話だけをしたくなるような
大切な思い出がもしあるならば、
もうそれだけでずいぶん幸せなことだと思う。
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