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2021年2月14日 (日)

リアリズムって?

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リアリズムって?

- リアルな博物画は幻想絵画? -

 

「日本資本主義の父」とも称される
渋沢栄一をモデルにした
NHKの大河ドラマ「青天を衝け」が
今日2021年2月14日から始まった。

渋沢の出身地である
埼玉県深谷市を訪問した話は
深谷の煉瓦(レンガ)なる題で
このブログでも以前簡単に書いた。

深谷に行くと、渋沢家の旧宅
通称「中の家(なかんち)」のほか
誠之堂(せいしどう)、
清風亭(せいふうてい)といった
移築した建物も
近くで見学できるのだが、
建物以上に
中の家の「血洗島(ちあらいじま)」という
なんとも恐ろしい響きの住所が
いまでも忘れられない。

さて今日は、渋沢栄一で思い出した
(と言ってもご本人ではなくお孫さん)
小さなエッセイを紹介したい。

荒俣宏さんが
雑誌「文藝春秋」の1989年8月号の
巻頭随筆として寄せていた
「新巻鮭とルナールに始まる」
というエッセイ。
(以下水色部、エッセイからの引用)

 

渋沢栄一から
孫の敬三が受け継いだ渋沢財閥は
近代日本の経済をリードしたが、
日本の魚類学をもリードした

渋沢栄一の孫敬三さんは、
「祭魚洞文庫」という名で
漁業史関係の文献を残したらしい。

荒俣さんは、この「祭魚洞文庫」を
調査するのだが、
そこですごいものを発見してしまう。

世界最初の太平洋産魚類図譜、
 ルイ・ルナール刊
 『モルッカ諸島魚類彩色図譜』
 (1718-19)

である。

発見時の衝撃をこんな言葉で書いている。

これを見た瞬間、思わず手がふるえ、
目がかすみ、口ら泡を吹き、
髪の毛が立ち、肌がニワトリになった。
そのくらい驚いても、
ぜんぜん不思議はない珍本なのだ。

なぜなら、この本は
初版以来三版を閲(けみ)しているが、
出版総数三百冊を超えないと思われ、
現存するもの二十点にすぎない、という
魚類図鑑史上
もっとも貴重な書物
だったからである。

そこには、シュールな魚類彩色図があった。

この絵を描いたサムエル・ファロアーズは、
序文で
「この絵は実につましい模写にすぎない。
 現物はこれよりもっと信じがたい
 体色と形をしている」と述べている。

ルナール図譜の最大の特徴は、
生きた魚を現地で精写したところで
魚屋に並ぶような死んだ魚を
描いていない点。

普通の魚類図鑑は
だいだいこの死んだ姿を
あたかも生時の姿のように描くのが
普通なのである。

ところがファロアーズは、
熱帯の魚の生きた姿を
突然リアルに描いて、西洋人に示した。

そこに成立した絵は、
魚屋の店頭の認識を出ない西洋人の
リアリズム感覚から大きく逸(そ)れた、
まさにシュールで
幻想的なファンタジー絵画に
ならざるをえなかった。

換言すれば、
博物画はリアルに描けば描くほど、
幻想絵画になってしまうという
皮肉な運命
をたどる。

博物学に詳しい、
まさに荒俣さんらしい指摘だ。

近代日本の油絵にリアリズムを
獲得しようとした高橋由一が、
生きた鮭でなく新巻鮭を描いたのは、
まこと、理にかなっていた。

なぜなら魚の死体画こそが、
陸上にいるわれわれに
陸上の魚(魚屋の魚)のリアリズムを
保証するからである。

そうなると、リアリズムなんて
じつにいいかげんな概念にすぎない

さてさて、実際はどんな絵なのだろう。

ここで簡単に紹介されている。
ポストカードでも購入できるようだ。

それにしても形だけでなく
色に驚く。
300年前のものだなんて。

 

 

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