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2020年12月

2020年12月27日 (日)

水一滴もこぼさずに廻る地球を

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水一滴もこぼさずに廻る地球を

- こういうところに棲んでいましたか -

 

世界の感染マップによると、
新型コロナウイルスの世界の感染者は
2020年12月27日時点で
累計で8022万人を超えた。
死者は175万人を上回っている

そんな2020年が暮れようとしている。

 

ナショナル・ジオグラフィックが
2年前の年末にこんな記事を公開している。

「月から昇る地球」
世界を変えた撮影から50年

NASAが撮影した
有名なこの写真についての記事だ。
(以下水色部、記事からの引用)

1968earth

(PHOTOGRAPH BY NASA)

1968年の

クリスマスイブ、月を周回する
アポロ8号に乗った3人の宇宙飛行士は、
月の向こう側に浮かぶ地球を
写真に収めた。

NASAはこれを、
アポロ8号が地球に帰還してから
3日後の1968年12月30日に公開した。

手前には荒涼とした月面が広がり、
宇宙の暗闇の中に
美しいマーブル模様の地球が
輝いている。

 

この写真を見た
詩人の茨城のり子さんは
「水の星」という詩を発表している。
その中の一節。

生まれてこのかた
なにに一番驚いたかと言えば
水一滴もこぼさずに廻る地球を
外からパチリと写した一枚の写真

こういうところに棲んでいましたか


これを見なかった昔のひととは
線引きできるほどの
意識の差が出る筈なのに
みんなわりあいぼんやりとしている

太陽からの距離がほどほどで
それで水がたっぷりと
渦まくのであるらしい

中は火の玉だっていうのに
ありえない不思議 蒼い星

 

新型コロナウイルスが人間世界に
どんな事態を引き起こしていようと
地球は来年も、水一滴こぼすことなく
廻り続けることだろう。

ここに書いた通り
年月日を8桁で表わした
今年の大晦日:20201231

明けて元日 :20210101
はどちらも素数だ。
(双子素数ではないけれど、
 名前を付けたくなる連続(?)素数だ)

慌ただしい年末、
人間世界のゴタゴタから離れたところで
いっとき遊んでみたくなる。

宇宙から地球を眺めるような気持ちで
来年のことを考えてみるのもいい。

皆様、どうぞ穏やかに
すてきな新年をお迎え下さい。

 

 

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2020年12月20日 (日)

さすが将来の天下人

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さすが将来の天下人

- 家康、敗走中のエピソード -

 

若かったころの秀吉が
草履取から始めての3年間を
今の浜松市内に位置する
引間城で過ごしたのが1553年~1555年頃

その後、落城した引間城に
家康が入城したのが1570年

そんな偶然があったことを
以前、この本から引用して紹介した。

磯田道史 (著)
日本史の内幕
- 戦国女性の素顔から幕末・
 近代の謎まで
中公新書

(以下水色部、本からの引用)

この本では、
徳川将軍の紅葉山文庫の古文書や、
昌平坂学問所で編纂された
徳川家康史料集『朝野旧聞裒藁
(ちょうやきゅうぶんほうこう)』
を解読したうえで、
その後の家康について、ある敗走の
興味深いエピソードが紹介されている。

 

徳川家康が天下を獲れたのは、
三方ヶ原の戦いで
死なずに逃げ延びたことによる。

三方ヶ原(みかたがはら)の戦い、とは
元亀3年12月22日(1573年1月25日)に
武田信玄と徳川家康・織田信長の間で
行われた戦いだ。

浜松では三方ヶ原を
「みかたっぱら」という。

大久保彦左衛門が
「家康、浜松より
 3里(12キロ)に及び打ち出で」と
『三河物語』で回想しているから
戦場は浜松城から12キロ離れた
「みかたっぱら」の何処かだろう。

徳川・織田の連合軍は、
上洛の途上にあった武田軍を
迎え撃つ形ではあったものの、
結果的に敗退している。

それでも家康は生き延びた。
浜松城に逃げ帰る際、
こんな伝説が残されている。

この時、
「家康は途中腹が減り、
 茶屋の老婆から小豆餅を買い
 むさぼり喰った。
 ところが敵が迫り、
 家康は銭を払わず逃げた。
 老婆は懸命に追いかけ、
 家康から銭を取った」という話だ。

家康が餅を食べた所が「小豆餅」。
銭を取られた所が「銭取(ぜにとり)」。
後世、地名になった。

現在、小豆餅は町名になっているが、
銭取はさすがに町名にはならなかった。
ただバス停「銭取」はある。

ここでバスを降りると
車内アナウンスに
「銭取。銭取」と連呼され、
借金取りか
泥棒にでもなった気分が味わえる。

小豆餅はともかく、
銭取(ぜにとり)が残るのはおもしろい。
ともあれこれらはいわゆる伝説だ。

現実の家康の敗走
古文書によれば、こうだったようだ。

家康は旗本放下の小姓衆(親衛隊)を
信玄軍に討たせまいと、撤退を決意。

(中略)

このときの家康のいでたちは
「鎧は朱色なり。敵兵、目を注ぐ」。

それで家臣の松平(松井)忠次の
目立たぬ鎧と取り換え闇のなか
逃げたという
(「大三川志(だいみかわし)」)。

浜松城の玄黙(げんもく)口に
たどり着いたが、
お供はわずか7人
(「寛元聞書(かんげんききがき)」)。

目立たぬ道を、目立たぬ格好で進み、
わずか7人のお供とともに
なんとか城まで逃げ帰ってきた家康。

ところが、ところが
門を開けてもらえない。

家康たちが「門を開けよ」と言ったが、
門番は怪しみ
二度三度確認しても開けない。

しまいには門番が 
そんな小勢で殿(家康)が
 御帰りになるはずがない

と言い出す始末。

つまり、門番として仕えていても、
門番が殿様を「個人として」
認識することはなかった、
認識することはできなかった
ということなのだろう。

殿様の顔や声を直接知っている人は
城内にどの程度いたのだろう。

「殿様のお供の
 畔柳(くろやなぎ)助九郎が
 帰ってきた」と言ったら、
門のくぐり戸がようやく開き、
家康は
「廿間(にじゅっけん
 :約36メートル)ほど
馬で引き返し
馬上のまま、ようやく入城できた
(「畔柳家記」)。

ようやく入城できた家康。
憤慨してもおかしくないと思うが
さすが、将来の天下人、
そのあとの対応がアッパレ。

疲れて帰城した家康は
なかなか城に入れてもらえず
内心腹が立ったろうが、そこは家康。

自分を入城させなかった
門番の用心深さをたたえ、
竹流し(銀の延べ棒)を褒美に与えた

そればかりか、命からがら
暗闇を敗走中の状況でさえも、
こんなことをしていたという。

また家康は暗闇を敗走中、
左右のお供の刀に
痰唾(たんつば)を吐き続けた。

後日それを証拠に
自分の馬脇についてきた者を見分け、
賞した(『三河之物語』)。

冷静な状況判断と
fairな部下の評価は、
いつの世も、よきリーダとなるための
大事な資質のひとつといえるだろう。

 

 

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2020年12月13日 (日)

「ヒトはどうして死ぬのか」(4)

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「ヒトはどうして死ぬのか」(4)

- アクセルが踏まれているのか、ブレーキが効いていないのか -

 

田沼靖一 (著)
ヒトはどうして死ぬのか
―死の遺伝子の謎
幻冬舎新書

(以下水色部本からの引用)

を読みながら、
新しい「死」の考え方を学ぶ4回目。

「遺伝子にプログラムされた細胞死」である
アポトーシスの発見は、
病気の治療方法に関しても
大きな発想の転換を引き起こすことなる。

アポトーシスの概念が
広がっていなかった頃、
臨床医学の分野では
「異常な細胞・組織を取り除くこと」
「正常な細胞・組織は保護すること」
が治療の基本
と考えられていました。

しかし
「遺伝子にプログラムされた細胞死」が
あるとわかったことで、
病気の根本的な治療法として
「アポトーシスを
 いかに制御するかが重要だ」

と発想の転換が起こってきたのです。

実際、多くの深刻な病気は、
多かれ少なかれ
アポトーシスの異常という観点から
とらえ直すことができます。

生または正のコントロールではなく、
死または負のコントロールから
考える病気治療。

もう少し詳しく見てみよう。

ガンや自己免疫疾患は、
本来死ぬべき細胞が死なない
ために起こる病気と言えます。

一方、
アルツハイマー病やパーキンソン病、
劇症肝炎などは
細胞が急速に死んでしまう
ことが病態と密接に関わっているのです。

 

たとえばの例で
ガンについて見てみよう。
最初に、ガンについての基礎情報から。

ガン細胞が
身体のなかで成長する場合と、
試験管のなかで
培養された場合を比較すると、
成長する速度は、
試験管での培養のほうが
圧倒的に速いのです


(中略)

しかし実際には、
多くのガンは何年もかけて
ゆっくりと成長していきます。

これは、ガン細胞が体内で増殖して
ガンを発病したとしても、
免疫細胞によるアポトーシスの誘発で
死んでいくガン細胞が
相当数にのぼることを示唆しています。

つまりガンの成長は、
ガン細胞の増殖とアポトーシスによる
歯止めのバランスによって、
その速度が決まる

考えられるわけです。

増殖と歯止め、そのバランスが
ガンの成長速度を決めている。
つまり、一方的に増殖することだけで
決まってくるわけではない、ということだ。

加齢によって
ガンを発症する割合が高くなるのは、
遺伝子のキズが蓄積してくることと、
免疫力が落ちてくるために
ガン細胞がうまく除去できず、
生き残ったものが塊となり、
悪性化するリスクが高まるためなのです。

高齢でのガンの発症が増えるのは、
歯止めのほうが
弱くなってしまっている
ことが
原因と考えられるわけだ。

フォーカスすべき領域に
「発想の転換」を引き起こした
アポトーシス。

かつて、ガンの研究は
「なぜ細胞が異常増殖するのか」
「細胞がどのようにして
 異常なガン細胞に変わっていくのか」
が二大テーマ
とされていました。

細胞増殖に関係する
遺伝子の異常が注目され、
「発ガン遺伝子
 =細胞を異常増殖させる遺伝子」を
特定しようという方向

研究が進められていたわけです。

しかし、遺伝的に
ガンを発病しやすい家系の人の
遺伝子を調べたところ、
異常が見られたのは
「ガン抑制遺伝子=細胞に
 アポトーシスを起こさせる遺伝子」
であることがわかってきた
のです。

このことを、著者田沼さんは、
以下のようなたいへんわかりやすい言葉で
表現してくれている。

ガンには必要条件として
「細胞が異常に増殖できること」、
十分条件として
「細胞がアポトーシスを
 抑制できること」が挙げられ、
必要十分条件がそろった場合に
初めてガンになるわけです。

ときおり「ガンが消えた」
という話を耳にしますが、
これは腫瘍にアポトーシスを
起こすカが残っており、
何らかの刺激や免疫細胞の攻撃によって
萎縮したり死滅したりしたケースと
言えるでしょう。

 わかりやすくたとえると、
発ガン遺伝子はアクセルで、
ガン抑制遺伝子はブレーキ
と言うことができます。

細胞が異常に増える理由を考える際、
「アクセルが踏まれて
 増殖のスピードが速まる」
ことだけでなく
「本来踏まれるべきブレーキが
 かからない」
ことに目を向けなければ、
ガンのメカニズムを
正しく理解することはできません

この視点、単純に病気の治療だけでなく、
あらゆる出来事を
客観的に分析するときに応用できる
かなり重要な視点だと思う。

「アクセルが踏まれて
 スピードが速まっているのか」
「本来踏まれるべきブレーキが
 踏まれていないのか」

ものごとは
常にバランスの中で動いている。

 

 

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2020年12月 6日 (日)

「ヒトはどうして死ぬのか」(3)

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「ヒトはどうして死ぬのか」(3)

- DNAには分裂回数のカウンタがある! -

 

田沼靖一 (著)
ヒトはどうして死ぬのか
―死の遺伝子の謎
幻冬舎新書

(以下水色部本からの引用)

を読みながら、死を考えていく3回目。

前回
細胞が一定のプロセスを経て
自ら死んでいく
壊死とは別の「死に方」
アポトーシス(apoptosis)について、
発見当時は研究者の間でも
「死の研究」への関心が低かったこと、
その後の解明により
その役割が見えてきたこと、
などについて要点のみをお伝えした。

アポトーシス(apoptosis)は
病気の治療方法に関しても
大きな発想の転換を引き起こすことなるが
その説明の前に、
対象となる細胞について
もう少し整理しておきたい。

 

人間の細胞には、
分裂・増殖する機能を持つ
「再生系」細胞と、
ほとんど増殖せずに生き続ける
「非再生系」細胞とがある。

【非再生系の細胞】

非再生系の細胞の
代表例として挙げられるのは、
脳の中枢の神経細胞や
心臓の心筋細胞
です。

神経細胞は記憶や思考といった
脳の高次機能を司り、
心筋細胞は
心臓の拍動を担っています。

こうした細胞は生命の維持において
高度な役割を果たしており、簡単に
置き換わるわけにはいきませんから、
生まれてからずっと同じ細胞が
生き続けるのです。

置き換えがきかない以上
非再生系細胞については
アポトーシスとは違う
「プログラムされた細胞死」があると
考えたほうがよさそうだ。

実際、神経細胞が
死んでいく様子を観察すると、
アポトーシスの場合と比べて、
DNAが大きな断片に切断されるという
明確な相違点があります。

アポトーシス小体の形成も、
ほとんど見られません。
非再生系の細胞は、
アポトーシスとは異なる
特殊な「死の制御の仕組み」を
持っている
と考えられるのです。

私は、非再生系の細胞に
プログラムされた死を
アポビオーシス(apobiosis=寿死)
と呼んで区別しています。

"bios"は
ギリシャ語で「生命」を意味しており、
アポトーシスと同じ
「離れる(apo)」という接頭辞を
つけることで
「生命から離れる」
「寿命が尽きる」
ことを表現した言葉です 

これまでの話を大きくまとめると

(a) 遺伝子に支配された細胞死
  アポトーシス(自死):
       再生系細胞 ⇒ 統制

(b) 遺伝子に支配された細胞死
  アポビオーシス(寿死)
      非再生系細胞 ⇒ 寿命

(c) 遺伝子に支配されない細胞死
  ネクローシス(壊死):
      すべての細胞 ⇒ 事故

と3つの細胞死が存在していることになる。

【アポトーシスは「回数券」】

再生系の細胞は分裂・増殖と
アポトーシスによる消去を
繰り返すことができますが、
その回数には上限があります。

分裂できる回数は
動物によって異なり、
人間の場合はおよそ50~60回。

いわば、
「回数券」のようなものなのです。

回数に上限があるということは、
回数を数えている、ということになる。
細胞は自分が何回分裂したかを
どうやってカウントするのだろうか?

分裂回数のカウンタとして
注目されているのが、
「テロメア」
と呼ばれる
特殊なDNA配列部分。

DNAの末端には
「TTAGGG」という順に並んだ
6文字の配列が
1000~2000回も続いている部分がある。
テロメアとは、この「TTAGGG」の
繰返し部分のこと。

ここには遺伝子は存在せず、
その役割はDNAの二重らせん構造を
安定させることであると見られている。

このテロメア、細胞が分裂するたびに、
「TTAGGG」の文字列が約20個分ずつ
短くなる
ことがわかっている。
そして、長さが半分ほどになると、
細胞は分裂を止めてアポトーシスを
迎える。

まさに回数券の仕組みを
DNA内に持っているわけだ。

【アポビオーシスは「定期券」】

アポビオーシスは
耐用時間の上限を迎えることによる
「定期券」的な細胞の死と
とらえることもできるでしょう。

 再生系の細胞は、回数券
非再生系の細胞は、定期券

このふたつの期限切れは
遺伝子に支配されている細胞死だ。

 

さて、準備は整ったので
ここで、ガンについて考えてみよう。

ガン細胞は再生系の細胞群からしか
生まれてこないことがわかっている。

アポトーシスを視野に入れることで
治療方法の発想が大きく変化した。

次回はその話から始めたい。

 

 

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