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2020年9月27日 (日)

高校生が著した「タネの未来」

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高校生が著した「タネの未来」

- 全国各地の伝統野菜のタネを求めて -

 

有機栽培
協生農法
と農業関連のネタが続いたが、
農業関連でもうひとつ
大事なトピックスを並べておきたい。

それは、種(たね)。

参考書は
現役高校生の小林宙(そら)さんが書いた
この本。

小林 宙(著)
タネの未来
僕が15歳でタネの会社を起業したわけ
家の光協会

(以下水色部は本からの引用)

まずは、
タネの問題を考えるうえでの
キーワードを教えてもらおう。

【固定種】

その木の中からまた、
とくに甘い実を選んで、
そのタネを植えつける -。

これを何度も繰り返すほど
純度が増していき、
やがてとれるタネのほぼすべてから
甘い実をつける木が育つようになる。

これが、タネが固定されていく過程だ。

つまり、ある特性を持つタネを
繰り返しとって植え、
その純度を高めていくことを、
「品種を固定する」といい、

そうして何世代もかけて作られたタネは、
一般的に「固定種」と呼ばれている。

起点となる「固定種」はわかりやすい。
「甘い実」等ほしい特性を強化したタネは
イメージしやすい。
で、それをベースにした「F1品種」がある。

【F1品種】

二つの異なる固定種を掛け合わせて作る、
F1品種というタネ
だ。

これはつまり、ものすごく簡単にいうと
「味のよいトマト」と
「耐病性のあるト」を掛け合わせて
「味がよく、病気にも強いトマト」を
作るというもの。

(中略)

日本では、稲や麦などの穀物を除き、
野菜のタネの9割をF1品種が
占めている
といわれている。

これも馴染みのある話だ。
ところが、このF1品種には
特徴となる大きな問題点がある。

【F1品種の問題点】

いいことずくめに思えるF1品種だけど、
そうとは言えない面もある。

この品種は、またの名を
「雑種第一代品種」ともいう。

説明したように、
異なる品種を掛け合わせることで、
顕性遺伝の法則によって、
「甘い」とか「病気に強い」とかの、
出したい性質を確実に
出すことができるのだけど、

それができるのは「第一世代」だけ
なのだ

「第一世代(F1品種)」の作物から
タネをとって植えた「第二世代」は、
これまた遺伝の法則で、
親の世代では顕性の性質に隠れていた
潜性のほうの性質がきっちり現れる。

「甘くて、病気に強い」親の性質を
受け継がない
のだ。

そんなF1品種が、
販売されているすべての野菜の
9割を占めるという。つまり
農家も、採れたタネ(第二世代)を
植えるわけではなく、

「農家でさえ、毎年新しいタネを
 よそから買っている」


ということを意味する。

一方、規制されながらも
一部で利用されるようになってきている
遺伝子組替え品種(GM品種)には、
この問題点がない。つまり
「F1品種と違って二代目のタネも
 一代目の性質を失わない」
という大きな特徴をもつ。

なので、
品種改良された部分を活かし
こんな販売方法も導入されている。

【農薬とのパッケージ販売】

販売戦略的な点からいえば、
もっとも主流なのがパッケージ販売だ。

この売り方はすでに、
世界中で多くの例がみられる。

これはどういうことかというと、
たとえば、
GM品種と農薬のセット販売だ。

自社製の除草剤Xと、
遺伝子組換えによって
除草剤Xに対する耐性をつけた作物Aとを
セットで販売する。

このGM作物Aを栽培する畑に
除草剤Xを全面的に散布すれば、
雑草はすべて枯れ、
作物Aだけが無事に生長する
というわけだ。

良し悪しは別な議論としても、
生産性や経済性が優先されていることは
農業の、そしてタネの世界もまた同じ、
ということのようだ。

 

続いて、タネに関する法律を
ふたつだけチェックしておこう。

【種子法と種苗(しゅびょう)法】

タネについて考えるとき、
押さえておきたい法律が二つある。

一つは
「種子法(主要農物種子法)」

二つめは、
「種苗法」
だ。

タネの開発に重視されるのは 
「公益性」なのか、
それとも「権利」なのかということを
先ほど述べたけど、
ものすごく大まかに言うと、
「公益性」を守るための法律が種子法で、
「権利」を守るのか種苗法だ

この法律、近年動きがあった。

【種子法の廃止、
 種苗(しゅびょう)法の強化】

種子法は、世間一般では
とくに大騒ぎになることもなく、
2018年4月1日をもって廃止された

これまで国が負ってきた
米、麦、大豆のタネの開発と管理を、
民間に開放したわけだ。

公益性を守る法律である
種子法が廃止され、

独占の権利を守る種苗法が
強化されつつあるというのが、
タネをめぐる現代の情勢

だということは、
知っておいてほしいと思う。

 

固定種、F1品種、GM品種
種子法、種苗法

本を読むと、タネに関する
基礎的かつ重要なワードを
駆け足で知ることができる。

 

著者の小林さんには
生後5ヶ月のころに発見された
食物アレルギーがある。

小林さんのお母さんが本の中で
「ありとあらゆる食べ物に
 アレルギー反応が出た」
と書いているが、発見当初は
小麦、卵、乳製品、ゴマ、ソバ、
お米、大豆、鶏肉、牛肉がダメという
かなり厳しい状況だったようだ。

「大丈夫だったのは野菜・魚・果物くらい」

親御さんもさぞや大変だったことだろう。

一方で、
そういった多くの制限があったからこそ、
小林さんの関心が食べ物、
そして野菜、野菜のタネに
向かっていったのかもしれない。

 

タネへの興味はぐんぐんと伸び
小林さんは、わずか15歳で伝統野菜の
タネの流通会社を起業してしまう。

全国各地に足を運び、
タネ情報を収集することが
楽しくてしかたがないことが
読者にも伝わってくる。

たとえば、山形県などでは、
昔から各家庭ごとに
固有のマメ(タネ)をとり続けていて、
娘が結婚するときには
嫁ぎ先に実家のマメを
少し持っていかせるというような
風習があり
、今も一部の地域では
残っている。

こんなふうにして、
各家庭レベルで、
品種が受け継がれているのだ。

ちなみに、甘くて
味噌の原料にするときに
麹が少なくて済むから「麹いらず」、
白黒の模様をしているから
「パンダささぎ」
(ささぎ=ササゲマメ)など、
マメの名前も各家庭ごとに
様々に呼ばれていて、おもしろい。

 

本の題名は「タネの未来」だが
「タネの未来」がわかるわけではない。

ただ、
未来に向けてどんな課題があるのか、
どんな点を見なければならないのか、は
タネのド素人が読んでもよくわかるように
書かれている。

なによりも本人のタネへの情熱が
清々しくて心から応援したくなる。

重要なわりに目立たないタネ。
農業問題を考えるとき、
ぜひ立ち戻って考えたい
視点のひとつを与えてくれる。

 

 

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