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2020年8月 2日 (日)

ジャーナリスト北村兼子 (1)

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ジャーナリスト北村兼子 (1)

- 「女は女らしく」が意味するところ -

 

北村兼子さんというジャーナリストを
ご存知だろうか?

1903年、明治36年の生まれ。
わずか27年という短い一生を
彼女が書き残したものとともに
丁寧に振り返っているこの本は、
ほんとうにエキサイティングで
おもしろい本だった。

大谷渡 (著)
北村兼子 - 炎のジャーナリスト

東方出版

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下色のついた部分は本からの引用。
 水色部は北村さんの文章そのまま、
 茶色部は著者大谷さんの文章

まずは、略歴をざくっと紹介。

***********************************
北村さんは、1903年(明治36年)の生まれ。

関西大学法学部で法律と経済を学ぶ。
当時女性は正科の学生として
受け入れてもらえなかったため
「聴講生」として卒業。

在学中から
大阪朝日新聞の記者として活躍。

特に婦人問題、女性の権利拡大に関して
積極的に取材・執筆活動を展開。

朝日新聞退職後、
ハワイやベルリンで開催された
国際会議に出席

婦人参政権運動等に関し、
英語およびドイツ語にて講演。

さらに、
飛行機によるスピード時代の到来は
世界の政治・経済・軍事を一変させると
日本飛行機学校にて操縦士資格を取得

自らの操縦によるヨーロッパ訪問飛行
準備中に27歳という若さで病死。
***********************************

あとから紹介するように
残した文章もすばらしいのだが
それに加えて
自分で操縦する飛行機で
ヨーロッパに行こうとしていたなんて、
それを今から90年以上も前の日本で
かつ女性で挑戦しようとしていたなんて。

 

大正から昭和にかけて、
同世代にはどんな人がいた時代だろう。
ちょっと棒年表で見てみたい。

Photo_20200219123901

(棒左側の青数字は生年、
 棒右側の黒数字は満年齢での享年、
 棒の色は60歳までは20年区切り)

のちに触れるが、北村さんは
藤田嗣治さんや市川房枝さんとは
直接会っている


人見絹枝さん以下は同世代の人から
数人を選んで並べているだけで
特に北村さんと
繋がりがあったわけではない。

 

パイロットの資格まで取って
ヨーロッパ行きを実現させようとしていた
その実行力にはほんとうに驚かされるが、
そもそもの職業であった
ジャーナリストとして書き残した
多くの文章は、
パイロットの資格をも越えるほどの
魅力にあふれている。

大正から昭和のころの文章ゆえ、
古文が不得手の私でも
スラスラと読めることも助かるが、
とにかく表現が明瞭で鋭くて
そのうえうユーモアもあるので
独特なリズムに乗せられ
ドンドン読めてしまう。

たとえば、女学校の教育について
こんなことを述べている。

彼女等が教はつた事は大きな嘘である。

先生は「女は奴隷に甘んぜよ」といふ
耳ざはりの悪い言葉を
修身に用ひないで、
女は女らしく」といつたやうな、
円滑で狡猾な陰険的感化を以て
限定せられた不自由な範疇の内に
女性を追ひ込んでしまふ。

「女は女らしく」が意味するところを
「女は奴隷に甘んぜよ」に結びつけて
教えは「大きな嘘」と言い切ってしまう
この語り口。


女学校が門戸を開いて
学生を迎へる主たる目的は、
奴隷観念の潜入的注射を施すためで、
女子教育拡張といふ美名の下に、
奴隷の大量生産を試みてゐる

彼女が、人間の自由さに目覚めたのは
正科の学生となれなくても
男子学生に混じって必死に勉強していた
関西大学での経験からだった。 

目覚めたと称するものでも
教育といふ催眠術にかゝり、
男子の暗示に従つて
フラフラとしてゐる。

それで私は、
女子に限定せられた教育を呪ふ。

現に女学校で虚偽の修身を
教へ込まれた私が
大学の法科で何千人といふ
男子ばかりの中に交つて
男性的教育を受けて、
始めて人間といふものは、
そんな卑屈な不自由なものでない
といふ事に眼が覚めた

「人間といふものは、
 そんな卑屈な不自由なものでない
 といふ事に眼が覚めた」
自分が受けた女子教育からは
得られなかったこの考え方が
のちの彼女に
大きな影響を与えることになる。

婦人が人類としての
差別撤廃を要求するのが尚早なら、
何時になつたら尚早でないのだ


女の進歩は亀のやうで、
男のそれは兎のやうな
教育の制度であつて、
此の兎は一卜眠りもしないから、
追ひつき得られる時があつたら、
おとぎ噺の奇跡に過ぎぬ。

十年二十年と待つて
男性から女に権利を
「施行」してもらふか、

はた女性自らのカを以て
権利を奪還するか

岐れ路に立つてゐる。

なんとも小気味いい文章ではないか。

北村兼子さんの魅力、
もう少しみていきたい。

 

 

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