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2020年8月16日 (日)

ジャーナリスト北村兼子 (3)

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ジャーナリスト北村兼子 (3)

- 「肉体は売る時があつても・・・」 -

 

北村兼子さんの残した
小気味いい文章を振り返る3回目。

北村兼子さんてどなた?
という方は 第一回目の記事の略歴だけでも
ご覧下さい。
ジャーナリストして優秀なだけでなく
飛行機の時代を予見し
自分で操縦してヨーロッパに行こうと
パイロットの資格まで取ってしまった
女性なのですから。

今回も参考図書はこれ。

大谷渡 (著)
北村兼子 - 炎のジャーナリスト

東方出版

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下色のついた部分は本からの引用。
 水色部は北村さんの文章そのまま、
 茶色部は著者大谷さんの文章

1926年、22歳のときに出版した
処女作「ひげ」に対しては
前回の記事の最後に記した以外にも

「鋭い観察眼」「ユーモアも巧」
「勢ひを持つ筆」「女人の門戸解放」

といった北村の主張と才能を
積極的に評価する書評が多かったが、

一方で、
女性に対する差別意識を背景に
女性記者としての彼女を
露骨に攻撃したり、
皮肉交じりの警告を書いたりする

新聞や雑誌もあったようだ。

 

北村さんの鋭い語り口は、
男性に混じって法学を学んでいた
関西大学の卒業前に書かれた
「卒業して、それから」という文章でも
すでに全開。
ストレートな言葉からは
熱い思いがダイレクトに伝わってくる。

私は女である。
女であるが為め何十年大学に在つても
学士にはなれない。

正式の卒業も出来ないが
併(しか)しそれで好い。

学問は人を造る。
学問によって人にならうとする
その高遠な理想に活きてゐる私は
幸福である


学問を売らうと言ふ邪念が交ざると
「人」の影が薄くなる。
それが身振るひするほど嫌(い)や。

「高遠な理想に活きてゐる私は幸福である」
この思いこそが、
ケチな処世術をズバズバと斬る
揺るぎない思想の基盤と
なっていたものなのだろう。


私が女子学生聯盟に加はつて
学問の機会均等を叫ぶのは
学士になりたいとか、
無試験検定の恩典を
裾分けしてもらいたいとか言ふ
ケチな考へはない。

ただ正義に反する条理に反する、
人道に反すると言ふ点を
男性に知らしめ
其悔悟を待つのみである。

女子の為めに叫ぶのではなくして、
男性の為にその蒙を
啓(ひら)きたい
のだ。

男性の頭痛を代理する余裕はない。

それ以外では私は現在の聴講生で
申分はない。

女性の権利獲得運動は、
女性のためではない。
問題に気づいていない
男性のためだ、と。


私は肉体は売る時があつても
学問は売りたくない。

学問は肉体より尊い


百円や二百円の端金(はしたがね)金に
面を叩かれ、
十年苦心の学問を売らうとは
何事である。

こんな言い回しが
当時どのように響いたのか
ちょっと心配になるくらいではあるが、
とにかく、学問への熱い思いは
痛いほど伝わってくる。

彼女は、男の学生と
ただ一人肩を並べて受講し、
試験を受け論文を書き、
男性を凌ぐ成績を修めて
全課程を終えた。

しかし、卒業したものの
聴講生扱いだったゆえ、北村さんに
「学位記」は授与されていない。
「證」と記した卒業証書が渡された。

 

北村兼子さんの文章、
もう少し見ていきたい。

 

 

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