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2020年8月 9日 (日)

ジャーナリスト北村兼子 (2)

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ジャーナリスト北村兼子 (2)

- 夜が明けたから太陽が昇るのではない -

 

北村兼子さんの残した
小気味いい文章を振り返る2回目。

北村兼子さんてどなた?
という方は 前回記事の略歴だけでも
ご覧下さい。
ジャーナリストして優秀なだけでなく
今から90年前の日本で、
飛行機の時代を予見し
自分で操縦してヨーロッパに行こうと
パイロットの資格まで取ってしまった
女性なのですから。

今回も参考図書はこれ。

大谷渡 (著)
北村兼子 - 炎のジャーナリスト

東方出版

(書名または表紙画像をクリックすると
 別タブでAmazon該当ページに。
 以下色のついた部分は本からの引用。
 水色部は北村さんの文章そのまま、
 茶色部は著者大谷さんの文章

今日は、婦人参政権獲得に向けての
この文章から見てみよう。

政権を与へたら
家を外に奔走するからいけない
とは何だ。

家の内に燻(くす)ぶつて
政治を理解せぬやうな動物が
あつてこそいけないので、
国民の半数たる婦人
政治上の趣味のないやうでは
国家は振はぬ

「国民の半数」「国家は振はぬ」
簡潔な言葉には引力がある。


家を外にするといふ。
その家とは何である。
巣である塒(ねぐら)ある。

眠るときに雨露さへ凌げば
それで足るものではないか。

その家のため
精神まで束縛せられてはたまらぬ

「女性は家を」の考え方があったとしても
だからと言って
精神まで縛られる必要はない、
との指摘は明解で説得力がある。

 

そして次の記述も
実にいい。

婦人が向上したら
権利を与へやうといふが、
権利を呉れないで
束縛せられては向上のしやうがない。
束縛を解いてくれゝぱ
女の手足が伸びる。

夜が明けたから
太陽が昇るのではない。
太陽が昇るから
夜があけるのである

「夜が明けたから
 太陽が昇るのではない。
 太陽が昇るから
 夜があけるのである」
なんともうまい言い回しだ。
これは応用が利く。
ほかでも使わせていただこう。

当時、婦人参政権に当たっては、
なんだかずいぶんヘンな説も
まかり通っていたようだ。

生理上から
脳髄が男より軽いとか重いとかいつて
狡い商人が
砂糖の小売をするやうなことが
理屈とみなされるなら
入学試験には脳味噌の軽重を測る法を
案出したら
メンタルも入らねば競争も無用、
代議士選挙にもこの法を用ひるがよい。

ケチの付け方が頭から間違つてゐる

ユーモアを交えて
まさに「頭から間違っている」とバッサリ。
その通りだ。

もちろん、同性に「甘い」わけではない。
ちゃんとfairにかつ冷静に見ている。

要は跛(あしなえ)をひかぬことだ。
下駄の高さは揃つてゐるがよい

異性を説服するよりも、
因循な同性を刺戟して覚醒させる方が
却つて大事業
で、
街頭に叫ぶ声は悪魔の吼えと響き、
家庭を出ることを恐れること
風邪を気使ふ肺病人の臆病さを持つ。

跛(あしなえ)とは、
 足が不自由で正しい歩行ができないこと。

因循(いんじゅん)な、とは
 すすんで事をなそうとしないこと。
 消極的でぐずぐずしているさま。
   (小学館国語大辞典)

 

1926年、
北村さんは記者生活一周年を迎えるが、
その一年の間に「婦人」「週刊朝日」
「淑女」「民衆の法律」などの雑誌に書いた
随筆や評論のうち評判のよかった作品を集め、
「ひげ」と題する初めての著書を出版する。
22歳のときのことだ。

読売新聞」掲載の書評には、
「関西大学の法科に学び、
 現在「大朝」の
 婦人記者をしているといふ」著者は、
立論も筆もまさに
 所謂(いわゆる)男まさりの
 達者である
」とあり、

週刊朝日」は、
「今日の日本婦人で、
 これほどまで思ひ切つて物を言ひ得る人
 一寸他に類を求め得ざるべく、
 更に才学と文筆の涵養につとめ、
 一層の大成を期待する」と書いた。

民衆の法律」には、
「参政権に、或は
 閉ぎされたる女人の門戸解放に、
 堂々六尺の男子を向ふに廻し、
 口に筆に喧々囂々(けんけんごうごう)

筆触の軽妙筆端の峻烈なる、
 洵(まこと)に他の追従を
 許さぬところ
」と記された。

記者一年目にして
これだけの印象を残せた北村兼子さん。

もう少し見ていきたい。

 

 

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