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2020年5月10日 (日)

遺伝子操作技術「クリスパー」の衝撃

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遺伝子操作技術「クリスパー」の衝撃

- 「速く」「安く」「正確に」 -

 

前回
「遺伝子組み換え」と呼ばれる
従来の遺伝子技術には
【 精度(成功率)が低い 】
【 汎用性に乏しい 】
という2つの大きな問題があった、

というところまで書いた。

それらが「クリスパー」に代表される
新しい「ゲノム編集」の技術において
どう解決されているのか。

引き続き、この本を参考書として
見ていきたい。

小林雅一(著)
ゲノム革命がはじまる
DNA全解析とクリスパーの衝撃
集英社新書

(以下水色部、本からの引用)

 

新たな遺伝子操作技術
「クリスパー」は、
従来の組み換え技術が背負わされた、
それらの問題や限界を
全て取っ払ってしまう

と勢いよく書き始めているように、
従来技術の全問題点を
解決してしまっている
まさに画期的な新技術のようだ。

【「精度(成功率)が低い」問題の解決】

中でも重要なのは
「組み換え精度」の問題である。

前述のように、
従来の遺伝子組み換え技術は
「100万回に1回の成功率」といった、
ほとんど偶然(運)に頼ったような
確率的手法だった


これに対し、クリスパーでは
(科学者が)DNA上の狙った遺伝子を
ピンポイントで切断したり、
改変することができる
(現時点で、その成功率は
 100パーセントまではいかないが、
 それに近いレベルには達しており、
 今後、ますます精度に
 磨きがかかってくると見られる)。

 

そして、2番目の問題もクリアされている。

【「汎用性に乏しい」問題の解決】

従来の遺伝子組み換え技術では、
たとえばマウスを対象にして
開発された技術は、
あくまでマウスにしか使えなかった。

これに対しクリスパーは、
マウスのような実験動物だけでなく、
牛や豚のような家畜、
鯛や鮭のような魚、
あるいはトウモロコシや
ジャガイモなどの農作物、
さらにはマーモセット(小型猿)や
人間など高度な霊長類まで、
あらゆる種類の動物や植物に適用できる
「汎用的な」遺伝子操作技術
なのだ。

従来技術の2つの大きな問題が
どちらも解決されているばかりでなく、
さらなる長所がクリスパーにはある。

従来の遺伝子組み換え技術は、
長年にわたって
地道な訓練を積んできた
ベテラン研究者にしか扱えない

ようなものだった。

それが、なんと・・・

【高校生でも操作が可能な使いやすさ】

これに対しクリスパーは、
「ゲノム」や「塩基配列」など
分子生物学の基本的知識さえあれば、
誰でも扱える簡単な技術とされる。

実際、クリスパー発明者の一人、
米カリフォルニア大学バークレイ校の
ジェニファー・ダウドナ教授は
(動画サイト「ユーチューブ」に
 アップされたビデオの中で)
私たち専門家の下で
 トレーニングすれば、
 たとえ高校生でも数週間で
 クリスパーを使えるように
 なるだろう

と語っている。

 

まとめると、まさにいい事尽くめの
画期的な技術であることがよくわかる。

【圧倒的に「速く」「安く」「正確に」】

クリスパーは非常に精度が高く、
かつ容易に扱える技術であることから、
遺伝子操作に要する期間が
飛躍的に短縮された。

たとえば
ノックアウト・マウスを作るために、
従来の手法では
1年以上もかかっていたのに、
クリスパーではたった3週間で
できるようになった。

そして、
このように開発期間が短縮されれば、
当然それに要するコストも下がる。

つまりクリスパーとは、
従来よりも圧倒的に
「速く」「安く」「正確に」
遺伝子を操作できる技術
なのだ。

そう言えば、
2018年に放送された
NHK「最後の講義」という番組内で、
講師の福岡伸一さんが、
「20年ほど前は
 ノックアウト・マウスを作るのに、
 3年という時間がかかり、
 ポルシェ3台分くらいの費用がかかった」
という話をしていた記憶がある。

このゲノム編集技術を
手に入れることによって、
科学者(つまり人間)は、
DNAという「生命の設計図」を
自由自在に改変できるようになった


これについては
人がついに神の領域に
 足を踏み入れた

との見方さえある。

その結果、ゲノム編集技術を使った

* 肉量が従来の1.5倍に増加した真鯛
  筋肉の成長を抑制する
  ミオスタチン遺伝子を
  クリスパーで切断(破壊)
* 肉量が2倍に増加した牛
* 角の生えてこない乳牛
* 腐りにくいトマト
* 油の生産効率を1.5倍に増やした藻

* 旱魃(かんばつ)に耐えられるトウモロコシ
* 従来よりも大きな収穫量が期待される小麦


などがすでに作り出されている。

「速く」「安く」「正確に」操作できる
となれば、その対象が拡大されるのは
必然だ。
対象も種類も広がり続けることだろう。

 

もちろん、農畜産物の改良以外にも
医療分野への応用の期待も大きい。

これまでの、いわば対症療法に対し、
個々の病気を引き起こす
根本的な原因である「遺伝子の変異」を
直接治療できる可能性も高まってきたからだ。

いずれにせよ、
「神の領域に足を踏み入れた」技術の
倫理的な側面からも
目を逸らすことはできない。

そんな中、「やってしまったら
まさに取り返しがつかない」という意味で
最も恐ろしいのが「遺伝子ドライブ」だ。

次回はこの「遺伝子ドライブ」について
その概要を学んでみたい。

 

 

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