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2020年5月17日 (日)

「遺伝子ドライブ」の恐怖

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「遺伝子ドライブ」の恐怖

- 取り返しのつかないことになる前に -

 

前々回
「遺伝子組み換え」と呼ばれる技術の
問題点を挙げ
前回
それらが「クリスパー」に代表される
新しい「ゲノム編集」の技術において
どう解決されているのか、
を簡単に見てきた。

今日は、
「ゲノム編集」の技術の応用の中でも
私がまさに「恐怖」と感じている
「遺伝子ドライブ」について考えてみたい。

引き続き、参考書はこの本。

小林雅一(著)
ゲノム革命がはじまる
DNA全解析とクリスパーの衝撃
集英社新書

(以下水色部、本からの引用)

 

まずは
「遺伝子ドライブ(gene drive)」とは?

遺伝子ドライブとは、
「人類にとって都合の悪い遺伝子」を
人為的に駆逐する、あるいは逆に
「人類にとって都合のいい遺伝子」を
人為的に繁殖させる技術だ。

科学者たちの間では長いこと、
ある種の夢あるいは逆に悪夢として
語られてきた一種のSF的技術でもある。

従来の遺伝子組み換え技術では、
遺伝子ドライブを実現することは
極めて難しかったが、
クリスパーの力によって
技術的には可能になってしまった。

2015年11月
米カリフォルニア大学サンディエゴ校と
同アーバイン校の共同研究チームが、
ついに遺伝子ドライブの実験に成功。

それは次のような仕組みだ。

私たち人間をはじめ
生物に備わっている通常の遺伝子は、
父親由来の遺伝子と
母親由来の遺伝子が互いに半々
(50パーセント対50パーセント)の確率で
子孫へと伝わっていく。

つまり、(遺伝子の立場から見れば)
上手く生き残る場合もあれば、
そうでない場合もあるので、
特定の遺伝子が他を駆逐してしまう
ような事態を免れている。

これに対し利己的遺伝子では、
ほぼ100パーセントに近い確率で
子孫へと伝わっていく
ため、
最終的には自分以外の遺伝子を
完全に駆逐して種を制覇してしまう。

ここでの「利己的な遺伝子」は、
英国の動物行動学者、
リチャード・ドーキンス氏の有名な著書
『利己的な遺伝子』の利己的とは
まったく違うものなので
ちょっと紛らわしいが、
とにかく、交配によって
通常50%となってしまう遺伝を
ほぼ100%としてしまうことが
可能になったわけだ。

どんな仕組みで
事実上100%の遺伝を実現するのか?

そのメカニズムの詳細については
上記参考書を含むいくつかの解説書や
詳しい解説を含むこちらのページ
遺伝子ドライブとは?
等を参照していただきたいが、
シンプルながら
よく考えられた実におもしろい仕組みだ。

改変した部分だけでなく、
他方の染色体を切断して
改変遺伝子をコピーさせる
「仕組み」そのものを
パッケージにして子に伝える。
「コピー機能を持つ
パッケージ自体が引継がれる」ので
ある意味まさに再生産の無限ループだ。

 

今回、カリフォルニア大学の
共同研究チームは、
アフリカのサハラ砂漠以南で
マラリアを伝染させる蚊に
クリスパーを適用し、
マラリア原虫への耐性を備えた
利己的遺伝子を
(厳重に管理された実験室内で)
創り出すことに成功した。

つまりこの蚊は、
マラリアを伝染させない。
しかも、その子も50%の確率ではなく、
ほぼ100%の確率で伝染させない。

この蚊を野に放てば
原理的には「マラリア」は
撲滅できるが

その一方で食物連鎖の末端に位置する 
「蚊」のような生物を遺伝的に
改造してしまえば、その上位に連なる
無数の捕食動物をはじめ、
生態系や環境に
予想外のダメージを与えてしまう
恐れ
も指摘されている。

そして一旦そのように
進化の方向性を狂わされた生態系は、
後から元に戻そうとしても
取り返しがつかない

アフリカでは現在でも
年間約2億人がマラリアを発病し、
そのうち約67万人が
死に至っているという。

なので、なんとかしたい、は
多くの人の希望だろう。
しかし、どう考えてもこの方法はまずい。

米国科学アカデミーは、
今回実現された遺伝子ドライブ技術を、
どう取り扱っていくべきかを検討。

2016年6月に 
「現時点では、
 遺伝子ドライブで作られた生物
 (具体的には蚊などの昆虫)を
 野生に放つことを支持するに足る
 十分な根拠がない。

 まずは厳格に制御された状況下で、
 実地試験から入るべきだ」

とする玉虫色の勧告を発表した。

「マラリアだけ」の視野で
取り返しのつかないことに
どうかどうかなりませんように。

近い将来、ゲノム編集は
「生命」「寿命」「健康」
「医療」「子孫」「美容」
などの分野で、驚くべき成果を
次々とあげていくことだろう。

でもそれらはすべて
狭い目的から見たときのみの成果だ。

食物連鎖だけでなく
われわれは自然の大きな流れに
支えられながら生きている。
なのに、その自然のことを
まだほとんど知らない。

目的と成果に目を奪われて
自然への敬意と畏れを
忘れることがあっては決してならない、と
改めて強く思う。

 

 

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