ブリュッセル・レクイエム
(全体の目次はこちら)
ブリュッセル・レクイエム
- 壁をつくってかぎをかけなければ -
初めてベスト8にまで進出した
日本代表の活躍もあって
ラグビーワールドカップ2019が
おおいに盛り上がっていた
ちょうどそのころ、
第67回全日本吹奏楽コンクール
全国大会も開催されていた。
中学校 2019年10月19日
高等学校 2019年10月20日
大学 2019年10月26日
職場・一般 2019年10月27日
全国大会の出場校と結果、
自由曲のリストはここにある。
全国大会 中学の部
全国大会 高校の部
このリストでの注目すべきは自由曲。
コンクールの自由曲なんて
それこそ数多(あまた)ある中から
自由に選べるのに、
中学の30校中なんと7校がこの曲。
B.アッペルモント作曲
「ブリュッセル・レクイエム」
全国大会は、
吹奏楽の甲子園、とも呼ばれるように
支部の予選を勝ち抜いた
強豪校ばかりによる戦いの場だが、
そこまで勝ち上がってきた学校が
選んでいたのが
なぜか7校も揃ってこの曲、
ということになる。
結果を報じる新聞も「自由曲で大人気」
の見出しをつけて
以下のような記事を掲載していた。
2019年10月20日の朝日新聞の記事。
(以下水色部は記事からの引用)
一大旋風を巻き起こしている。
初出場3団体を含む、
中学校から大学までの計11団体が選択。
自由曲としては過去最高だ。
なかでも中学校の部では
7校がこの曲を選び、
19日の晴れ舞台への切符を勝ち取った。
この曲、1973年生まれのベルギーの作曲家
ベルト・アッペルモント(Bert Appermont)
によって2016年に作曲された
新しい楽曲らしい。
ベルギーの作曲家アッペルモントが、
2016年に母国で発生したテロを題材に、
犠牲者の鎮魂歌として作曲した。
フランス民謡の美しい旋律が象徴する
穏やかな日常を、テロが切り裂く。
逃げ惑う人々。
愛する人を奪われた慟哭(どうこく)。
再び平和を目指して歩き出す人々-。
そんな場面が昔でつづられる。
そんな新しい曲が、2018年
一気にブレークするきっかけは、
まさに吹奏楽コンクール全国大会だった。
昨年「初演」されたばかり。
北斗市立上磯中(北海道)や
精華女子高(福岡)など
演奏した3団体すべてが金賞という
鮮烈デビューを飾り、
一気にブレークした。
そもそもどんな曲なのだろう?
昨年の演奏がYouTubeにあったので
ちょっと聴いてみたい。
イチオシはこれ!
(吹奏楽に興味のある方はもちろん
興味のない方も約8分半、
全国大会レベルの演奏に
ぜひ耳を傾けてみて下さい)
【演奏:精華女子高校吹奏楽部(2018年)】
正直言って、
ほんとうにびっくりしてしまった。
「ナンなんだ、この曲!」
「ナンなんだ、この演奏!」
進化しているのはラグビーだけではない。
コンクールでは演奏時間の制約があるため、
制限時間内に入るよう
各校原曲を編曲のうえ参加してきている。
なので、学校によって曲のつなぎ方と
演奏部分がすこし違う。
中学生の演奏でも聴いてみよう。
【演奏:北斗市立上磯中学吹奏楽部(2018年)】
中学校でこのレベルの演奏をされたら
いったいどんな学校が
ここに勝てるというのだろう?
「難所」の練習の回数は4桁に達した。と
記事にもあるが、どちらの演奏も、
このレベルになるまでの
練習過程を想像すると
まさに気が遠くなる。
もちろん達成できたときの
到達感も一入(ひとしお)だろうけれど。
曲や演奏に驚くと同時に、
この新聞記事には
すごくいい言葉がふたつあったので、
ここに残しておきたい。
ひとつ目は、北上市立上野中(岩手)教諭の
柿沢香織さんの言葉。
壁をつくってかぎをかけなければ、
今の中学生は
どこまでも伸びていきます」
中学生だからこの程度、
と勝手に壁を作ってしまうのは
まさに大人のほう。
チャンスと動機さえ与えれば
そしてその可能性を信じて
グングン引き上げてくれる
すぐれた指導者に恵まれれば
実は「どこまでも伸びる」のだ。
ふたつ目は、高岡市立芳野中(富山)教諭の
大門尚(なお)さんの言葉。
よく練習したし、
吹けたのだと思います。
曲に育てていただきました」
今回記事を書くために、
多くの演奏を繰り返し聴いてみたが、
知れば知るほど
単に難曲、というだけでなく
「好き」になるような
魅力に溢れている作品であることが
よくわかる。
そもそも「好き」になれなければ、
4桁回もの練習には耐えられない。
一方で「好き」になれば
まさに世界はどんどん広がっていく。
「好き」はまさに「育てて」くれるのだ。
最後に「ブリュッセル・レクイエム」の
ノーカット版、原曲演奏を貼っておきたい。
この曲、
原曲は金管バンドのための曲らしい。
英国の名門「The Cory Band」の演奏。
コンクール自由曲の
演奏時間内に収めるために、
曲の魅力を失うことなく
各校いかに上手にカットしているか、も
よくわかる。
ここのところ、個人的に
ヘビーローテーションとなっている
各演奏だ。
何度聴いてもそれぞれに新しい発見があり、
飽きることがない。
(全体の目次はこちら)
« 「病気平癒」ではなく「文運長久」 | トップページ | 無痛文明論 »
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 平野啓一郎さんの言葉(2023.02.12)
- 「作らす人」「育てる人」吉田璋也(2023.01.15)
- 「陶器が見たピカソの陶器」(2023.01.08)
- 美しい物はどこから生れるか(2023.01.01)
- 経(たて)糸は理知、緯(よこ)糸は感情(2022.12.11)
「音楽」カテゴリの記事
- 舌はノドの奥にはえた腕!?(2022.11.13)
- 私のなかの何かが健康になった(2022.09.25)
- 新たな3つの音楽メディア(2022.01.09)
- CD売上げ1/3でも著作権料総額は増加(2022.01.02)
- 「ノヴェンバー・ステップス」琵琶師 鶴田錦史(2021.09.12)
「言葉」カテゴリの記事
- AIには「後悔」がない(2023.09.24)
- 苦しめるのは自らを守ろうとするシステム(2023.09.17)
- あそこに戻れば大丈夫(2023.08.27)
- ドラマ「すいか」のセリフから(2023.08.13)
「舞台・ライブ」カテゴリの記事
- 「一人で芝居なんかできませんよ」(2021.01.10)
- ブリュッセル・レクイエム(2019.11.17)
- エレキギターが担うもの(2019.01.27)
- オーストリア旅行記 (36) シュテファン大聖堂(2018.04.29)
- オーストリア旅行記 (26) ウィーン国立歌劇場(1)(2018.02.18)
コメント