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2019年9月29日 (日)

炭素14年代測定法の信頼性

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炭素14年代測定法の信頼性

- 「科学的分析」の儚(はかな)さ -

 

世界の富や権力は、
なぜ現在あるような形で
分配されてしまったのか?


なぜほかの形で分配されなかったのか?

たとえば、南北アメリカ大陸の先住民、
アフリカ大陸の人びと、そして
オーストラリア大陸のアポリジニが、
ヨーロッパ系やアジア系の人びとを
殺戮したり、征服したり、
絶滅させるようなことが、
なぜ起こらなかったのだろうか。

こんな壮大なテーマに
真正面からかつ
多角的に取り組んでいる

ジャレド・ダイアモンド(著)
倉骨彰(翻訳)
銃・病原菌・鉄
1万3000年にわたる人類史の謎
草思社文庫

(記事中、水色部は本からの引用)

 

前回
考察の対象となる「1万3000年」について
考えてみたが、
今日は、
歴史研究のまさにベースとなる
年代測定法のひとつ
「炭素14年代測定法」についての部分を
紹介したい。

本書で言及している
過去1万5000年にわたる期間は、
これまでの炭素14年代測定法ではなく、
新たに採用された
炭素14年代測定法
による
誤差を修正した数値を使用している。

と本文にも何度も出てくる通り、
従来のよく知られた炭素14年代測定法には
いろいろ問題があったようだ。

それはどんなもので、
どこに問題があったのか?
よく聞く年代測定法でもあるうえ、
そこで得られた数字は
歴史を考えるときの
根拠としてもよく使われるので
改めてその信頼性について学んでみたい。

まずは、測定法の原理から。

【炭素14年代測定法】

考古学では、
食料生産がおこなわれていた年代を
推定するのに炭素14年代測定法を
もちいている。

この測走法は、
あらゆる生命体を構成する
普遍的な原子のひとつである
炭素原子のなかの、
ほんの一部の放射性炭素14が、
生命体が死ぬと
一定の曲線を描いて減少し、
非放射性同位元素の窒素14に
変化することを利用して、
遺物に残存している
放射性炭素14の量を計算することで
年代を求める
というものである。

大気中には、
宇宙線の照射によって発生した
炭素14が常に存在している。

植物は大気中の炭素を取り入れるが、
そこには炭素12と炭素14が
一定の割合でふくまれている
(この割合は、炭素12が100万個に対して
 炭素14が1個である)。

植物の体内に取り込まれた炭素は、
その植物を食べる草食動物の
体内に取り込まれる。

さらに、その草食動物を食べる
肉食動物の体内に取り込まれる。

動植物が死ぬと、体内の炭素14は
5700年の半減期を経て炭素12に変化し、
死後4万年で大気中の濃度と
ほぼ同じレベルにまで減少して
測定不能になるか、
あるいは人工物の中にふくまれる
微量の炭素14との区別がむずかしくなる。

このように、遺跡の出土物は、
それに残っている
炭素14と炭素12の量を測定し、
その割合を算出することで、
年代を求めることができる

上記文章で理解できたであろうか?

簡単に言うと、
植物も動物も生きているときは
大気中と同じ比率で
体内に炭素14を含んでいるが、
死んでしまうと
大気からの炭素14の取り込みが
なくなるため
炭素14の半減期に従って
体内から炭素14が消えていく。

なので炭素14の比率を測れば
死んでから何年経ったのかがわかる、
そういう原理だ。

さて、長く使われていたこの方法の
どこに問題があったのだろうか。

本では2点、指摘されている。

【炭素14年代測定法の問題点1】

そのひとつは、
1980年代まで利用されていた技術が、
比較的多量(数グラム単位)の試料を
必要としていた
ことである。

数グラムという量は、
小さな種子や骨から
取りだせる量ではないので、
科学者たちは、
それらの遺物を直接測定するかわりに、
それらと
「かかわりがありそうなもの」
つまりそれらが出土した場所の
近くで出土し、
同時代のものと推定される遺物を
測定することが多かった。

「かかわりがありそうなもの」
として利用された典型的なものは、
炭化した燃えカス
である。

 しかし遺跡というものは、
そこから出土するすべてが
同時期に封印された
タイムカプセルであるとはかぎらない。

別々の時代に残されたものが、
たとえばミミズ、ネズミ、
その他の動物によってほじくり返されて、
混ざりあってしまうこともある。

したがって、ある時代の燃えカスが、
その時代より1000年も離れた時代に
死んだり食べられたりした動植物の
すぐそばから出土することも
ありうるのだ。

そこで、今日では、
試料に含まれる極微量の同位体
正確に数えて同位体比を測定する
「加速器質量分析法」
という方法を使って、
この問題を回避するようになりつつある。

 

【炭素14年代測定法の問題点2】

炭素14年代測定法の
もうひとつの問題は、
過去の大気中の
炭素14と炭素12の割合が一定でなく

年代とともにゆらいでいるため、
測定誤差が生じるということである。

しかしこの誤差の大きさは、
樹齢の長い木の年齢を数える
年齢年代測定法で求めることができる。

これによって木の年齢の
絶対的な年表(カレンダー)ができると、
その木の炭素の試料から、
ある年代の炭素14と炭素12の割合が
求められるので、
炭素14年代測走法で求められた年代は、
大気中の炭素14の割合のゆらぎを
考慮した正確な年代に
修正できるのである。

誤差無修正で、
ほぼ紀元前6000年から紀元前1000年の
あいだと測定された遺物に対して
誤差を修正してみると、
じつはそれより数世紀から数千年も前に
さかのぼるものだったりすることもある。

もうひとつは、なんと
炭素14の比率が
 年代とともにゆらいでいる

という事実。

年齢年代測定法によって
誤差の修正はできるようであるが
その範囲は限定的であろう。

 

【表記でわかる修正の有無】

最近では、いくぶん古い時代だと
思われる遺物に対しては、
炭素14年代測定法とは別の
放射性年代測定法
もちいられるようになった。

その結果、
これまで紀元前9000年頃のものと
されていた遺物が、
紀元前1万1000年頃のものであったと
結論づけられたことがある。

 考古学者は、

誤差を修正した年代を
「3000BC」というように
大文字で表記し、

修正されていない年代は
「3000bc」と
小文字で表記する


ことで、
両者を区別する傾向にある。

しかし、考古学の文献のなかには、
誤差を修正していない年代を
BCというように大文字で記述しながら、
その旨を明記しないものが多く、
混乱をまねくことがしばしばある。

この本では、過去1万5000年のあいだに
起こった出来事については
誤差を修正した年代をもちいている。

こうしてみると
「対象試料そのものの正確性」
「対象時代の大気の状態(炭素14比率)」
どちらもかなり
頼りない指標だということがわかる。

 

最近、過去の事件に関して、
最新のDNA判定結果が、
過去のDNA判定結果を覆えした例が、
ニュースになっていた。

当時としては「科学的に分析して」
同一人物のものと判断されたものが
最新の分析結果では別人のものであると。

「科学的な分析」は
絶対的な正しさではなく、
実際にはかなり「儚(はかな)い」ものだ。

「当時の知識や技術では
 それが正しかった」
という説明が通ってしまうという意味で。

客観的な証拠や分析は重要なものだが
「科学的な分析」という言葉には
常にそういった危うさが
含まれていることを
忘れてはならないと思う。

 

 

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