足立美術館(2)
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足立美術館(2)
- 借景の庭を上空から見ると -
米国の日本庭園専門誌
『The Journal of Japanese Gardening』の
「日本庭園ランキング」で
16年連続日本一に選ばれている足立美術館。
前回に続いて、
今日は庭師の方の言葉を紹介したい。
これほど完璧な庭、
いったいどんな人が
どんな思いで日々の世話を
しているのであろうか?
(写真はすべてiPadで撮影)
この庭の責任者、
庭園部長・小林伸彦さんに取材した記事が、
2017年4月22日
朝日新聞フロントランナーに
あった。
「一幅の絵画」を守る庭師
の見出しで紹介されている。
(以下、薄緑部記事からの引用)
秋の紅葉、冬の雪景色……。
四季の移ろいに合わせながら、
カンバスとなる庭園の細かな輪郭や、
庭木、白砂の質感を維持するため、
専属の庭師6人を率いる。
「生い茂ろうとする
木と名石のバランス、
そして庭園全体の調和を
いつも考えて仕事をしています」
庭と借景の山々の一体感も演出する。
手前のマツの葉を薄くし、
奥に向かって濃くなるように
枝葉を残す。
奥を淡くすると山が遠のき、
庭と引き離されたような印象を
与えてしまう。
絵画の遠近法とは逆の論理になる。
この濃淡の調整で庭園の均衡を保つ。
この記事の通り
「庭と借景の山々の一体感」が
ひとつの見もので、
実際庭を目の前にしても
まさに揺るぎない一つの作品として
迫ってくる。
小林さん自身、
初めてこの庭に出会ったときのことを
次のように述べている。
26歳の時、転職先の造園会社から
応援で派遣され、驚きました。
庭と借景の山は
県道や田んぼで
隔てられているんですが、
それが連なっているように
見えるんです。
そんな庭は
京都でもお目にかかれません。
さらに来館者から
「きれいな庭ですね」
と声をかけられる。
京都での修業の時は、
お客さんとの会話が
ほとんどなかったので新鮮でした。
毎年応援に行くうちに、
ここで自分の人生を賭けてみようと
決めました。
この借景の庭、実は
県道と田んぼで分断されている!?
現地での解説でもそう言っていた。
でも、実際に庭を目の前にすると
にわかには信じられない。
帰ってから地図で確認してみて
さらに驚いた。
Googleマップの衛星写真を拝借して
空から眺めてみよう。
写真の中央下、
緑色破線の矩形で囲まれた部分が
いわゆる美術館の敷地で、
近景を構成している庭があるところだ。
その先に、まさに県道、
県道に沿って川、
そのうえ広く田んぼまである。
遠景を構成している山は
さらにその先。
美術館からメインとなる
枯山水庭や白砂青松庭
を眺めている角度を
黄色い扇型で重ねてみた。
うーん、この角度の景色を
借景含めてこの作品にしてしまうとは。
窓ガラス越しに眺めてもこの美しさ、
この統一感。
気づかないかもしれませんが、
開館時間までに
必ず枯れた葉を取り除き、
コケを補充しています。
「ツグミがミミズを食べるために
ほじくり返したコケも見逃しません」
と言い切るような
きめ細やかな手入れだけでなく
長期視点での準備も万全だ。
太りますね。
美術館の近くの
仮植場(かしょくば)で、
様々な大きさの
400本のアカマツや
40本のクロマツを手入れしています。
幹が太くなってくると、
すぐに元の大きさ、
形のものと植え替えられるように
するためです。
役目を終えた木は捨てず、
山に植えます。
大きめのマツが必要になる将来に備え、
仮植場に移すこともあります。
現地の解説では、
「庭に重機が入れられないので
大きな木の植え替えも
すべて人力による手作業で行われる」
と言っていた。
毎朝の手入れから長期視点での準備まで
美しさ維持への心配りが
16年連続日本一を支えている。
この記事の中で、もう一箇所
響いたところがある。
技をどう引き継いでいきますか?
庭園部は50代から20代までと
世代のバランスが良く、
心配していません。
庭師は体が資本。
年を取って木に登れなくなれば
潮時かもしれません。
木の下から部下にあれこれ言うと、
煙たがられるだけですから。
(1) 日々のきめ細やかで丁寧な
庭園のメンテンス
(2) 距離のある借景を活かすセンス
(3) 400本のアカマツをはじめ、
仮植場(かしょくば)に中長期視点で
用意されている植替用の木々たち
(4) 7人の部署ながら
技の継承を意識した年齢構成
庭園だけでなく、
庭園「部」自体の成長も視野に入っている
強力なリーダに支えられてこその
「16年連続日本一」だ。
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