オーストリア旅行記 (62) ホイリゲ(新酒ワイン居酒屋)
(全体の目次はこちら)
オーストリア旅行記 (62) ホイリゲ(新酒ワイン居酒屋)
- ベートーヴェンの散歩道もいっしょに -
Heurige(ホイリゲ)とは、
「今年の」という意味。
今年できた新しいワインを指すと同時に
ホイリゲを飲ませる酒場も
ホイリゲと呼ばれているようだ。
ウィーン郊外の
Grinzing(グリツィング)
Heiligenstadt(ハイリゲンシュタット)
とよばれるエリアに
ホイリゲが多いというので
路面電車でグリツィングに行ってみた。
ウィーン市街から30分弱。
バスのように細かく停車しながら行くので
決して速くはないし、
移動距離自体もたいしたことはないと
思うのだが、それでも車窓の景色は、
どんどん変化していく。
終点となっているグリツィングは
落ち着いた静かな街だった。
居酒屋が並ぶ賑やかな通り、
といった雰囲気は全くない。
ウィーン市街地の喧騒から
そう遠くない位置にいるのが
ウソのよう。
石畳の小さな脇道も
ちょっと物語を感じさせる。
ホイリゲつまり
「新酒ワイン居酒屋」の
一軒に入ってみた。
バッハヘングル(Bach-Hengl)
外が気持ちよさそうだったので
緑の多い屋外席に。
子連れの家族もいる。
頼んだのはいろいろ味わえる
「肉料理の組合せプレート」。
例によってすごいボリュームだ。
酒のほうは、
ホイリゲの名前の通り
今年の(?)白ワイン。
飲んでみると
確かに味が「若い」。
ガイドブック等には、
「ジョッキで出てくる」と
書かれていることが多いのだが、
注文の仕方が間違っていたのか、
ここのお店がそうなのか
ワイングラスで出てきた。
なお、ホイリゲでは、
Gespritzter(ゲシュプリツター)と呼ばれる
なんとワインを炭酸水で、
しかも1対1の割合で割った飲み方が
あるというので頼んでみた。
すると
ワインと一緒にこんな炭酸水がでてきた。
沸騰しているお湯でも
見たことがないほどの泡、泡、泡。
いったいどうすればこんな強烈な
炭酸水を作ることができるのだろう。
それでなくても「若い」ワインを
炭酸水で割ってしまうので、
まさにガブガブ飲めてしまう。
しばらくすると、
バイオリンとアコーディオンの
陽気な生演奏が始まった。
ホイリゲで奏でられる昔ながらの曲は、
「シュランメル」と呼ばれている。
19世紀末にシュランメル兄弟が演奏して
ウィーン中に広まった大衆音楽。
民謡風であったり、
ワルツ(舞曲)風であったり、
ハンガリー風であったり、と
酒場に合う曲が多いが、
ちょっとメランコリックな部分もあって
そこに独特な味がある。
演奏は各テーブルを回り
リクエストにも応えている。
雰囲気だけ貼っておこう。
大人の会話(?)で盛り上がっている
テーブルもある。
なんともいい雰囲気だ。
なお、このお店、
有名店なのか
各国著名人が訪問した際の写真で
店内の壁一面が埋め尽くされていた。
ブッシュやらプーチンやら
大統領級もゴロゴロいる。
食事のあとは、
お屋敷と呼びたくなるような
大きな家が並んでいる
高級住宅地(?)を通りを抜けて
「ベートーヴェンがよく散歩した」
という道まで行ってみた。
道に沿って
今は小さな公園もあり
緑豊かな中、子どもたちは
バスケットボールを楽しんでいた。
「ベートーヴェンパーク」!?
公園内には銅像もある。
付近には、
ベートーヴェンが第九を書いたり
遺書を書いたことで知られる家まであり
ベートーヴェンゆかりの地として
小さな案内板も出ている。
この道を散歩しながら
交響曲第6番「田園」を書いたと聞くと
後ろに手を回して、うつむき加減に
ゆっくり歩いてみたくなる。
訪問した時間が遅かったため
暗くなってきてしまい
「日没タイムアウト」という
感じになってしまったが、
緑豊かな雰囲気だけは
十分感じ取ることができた。
楽しい居酒屋と豊かな緑、
そういう空気の中で、
「田園」が生まれ、
「合唱付き」が生まれたのだ。
十月革命から逃れるために
家族とともに米国に亡命した
ロシアの作曲家ラフマニノフは
その後5年以上にもわたって
作曲することができなかった。
その理由を聞かれて
こう言ったという。
「どうやって作曲するのですか?
私はもう何年ものあいだ、
(懐かしい故国ロシアの)
ライ麦畑のささやきも
白樺のざわめきも
聞いていないのですから…」
(詳しくはここを参照下さい)
作曲には「環境」が必要なのだ。
ベートーヴェンが感じた風と緑が
そのままここにある。
(全体の目次はこちら)
« オーストリア旅行記 (61) ウィーン美術史博物館(3) | トップページ | オーストリア旅行記 (63) リンク通りに沿って »
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 音語りx舞語り「春」日本舞踊編(2024.04.21)
- 名盤 CANTATE DOMINO(2023.12.17)
- KAN+秦基博 『カサナルキセキ』(2023.12.03)
- 「音語りx舞語り」が見せてくれた世界(2023.10.29)
- 平野啓一郎さんの言葉(2023.02.12)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 新東名高速道路 中津川橋 工事中(2024.10.27)
- 新東名高速道路 河内川橋 工事中(2024.10.20)
- 漱石の神経衰弱と狂気がもたらしたもの(2024.09.08)
- 二ヶ領用水(7) 鹿島田で地下に消えるまで(2024.07.14)
- 二ヶ領用水(6) 溝の口で寄り道(2024.07.07)
「音楽」カテゴリの記事
- 音語りx舞語り「春」日本舞踊編(2024.04.21)
- 脳内麻薬がでてこそ(2024.04.07)
- 交響曲「悲愴」の第4楽章、再び(2)(2024.03.31)
- 交響曲「悲愴」の第4楽章、再び(1)(2024.03.24)
- 小澤征爾さんのリズム感(2024.02.18)
「言葉」カテゴリの記事
- 「こんにちは」と声をかけずに相手がわかるか(2024.11.17)
- 紙の本が持つ力(2024.11.03)
- 「宇宙思考」の3ステップ(2024.09.15)
- 漱石の神経衰弱と狂気がもたらしたもの(2024.09.08)
「歴史」カテゴリの記事
- 接続はそれと直交する方向に切断を生む(2024.08.18)
- 二ヶ領用水(6) 溝の口で寄り道(2024.07.07)
- 二ヶ領用水(4) 久地円筒分水をメインに(2024.05.19)
- 二ヶ領用水(3) 久地の合流地点まで(2024.05.12)
「食・文化」カテゴリの記事
- ワイングラスにワインは 1/3 だけれど(2024.07.21)
- 食べるものを恵んでもらおう、という決め事(2023.08.20)
- 微笑むような火加減で(2023.03.05)
- 舌はノドの奥にはえた腕!?(2022.11.13)
- 鰆(さわら)を料理店で秋にだす(2022.10.02)
« オーストリア旅行記 (61) ウィーン美術史博物館(3) | トップページ | オーストリア旅行記 (63) リンク通りに沿って »
コメント